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休憩場

休憩場

HV 第3話

第3話











「戦いの印ねぇ・・・カッコイイ台詞じゃないかぁ。それじゃ早速その武器に利用者登録を済ませないと」

俺がこの巨大な光線銃、デストロンを軽々と手にしたことに上機嫌になったのか、丸内は妙に楽しそうな口調でそう呟いた。それと同時に丸内はだだっ広い武器庫のようなこの部屋の中央、巨大な液晶ディスプレイのようなテーブルの所へと早歩きしていった。

でも、どうしてまたテーブルの所に戻ったりするのだろうか?今丸内が口にしていた「利用者登録」というものをするためなのか?

「ヴァルキリアスの戦士は必ず1つ武器を所持する。その武器には誰のものかわかるように利用者登録がされるんだ」

俺のわからないという表情を見て、桂さんは簡単にそう説明してくれた。確かに言われてみればそうかもしれないけど、俺にはまだ引っ掛かることがあった。

「でも、どれがどの人の武器かなんて見ればわかるんじゃないのか?これだって相当印象強いし、桂さんの武器だってそうじゃないか」

「私達の使う武器は普通の武器とは違う。後で話すことになるが、利用者登録をしていないといろいろと面倒なこともある」

「はぁ・・・」

「とりあえず、私達も丸内の所に行くぞ。利用者登録には君の指紋が必要だからな」

そう言うと、桂さんも丸内と同じように部屋の中央へと歩き始めた。俺もその後を追うようにデストロンを手にしながら部屋の中央へと向かう。

自分の体と同じぐらい巨大な光線銃で、桂さんが言うには200キロは超えているだろう武器。それを俺はまるでライフルと同じ要領で軽々と手にしている。これが本当に200キロもあるのか?と思えるぐらい軽く感じるのは俺のドルトに対する怒りが原因で起きた「狂怒系神経病」とかいう病気の影響らしいけど、当の本人である俺にしてはすごく不思議な気分だ。

そうこうしている内に、俺と桂さんは部屋の中央にあるディスプレイのようなテーブルへと辿り着いた。そこでは先に向かっていた丸内がディスプレイのようなテーブルに表示された文字盤でタイピングしていて、何かを打ち込んでいるみたいだった。もっともタイピングが速すぎて俺では何を打ち込んでいるかわからないけど。

その時、タイピングをしていた丸内がその指を止めて、俺の方へと顔を向けた。

「さて陣内君、早速だけど君の指紋を取らせて貰うよ」

「あぁ」

「ついでにデストロンをこのテーブルの上に置いてくれたまえ。まぁ・・・あとはテーブルの指示に従えばいいよ、フフフ」

不気味に笑いながら丸内はそう言った。とりあえずこの武器をテーブルの上に置いて、指紋を取らせればいいんだな。

そう思った俺がこの巨大な光線銃をゆっくりとテーブルの上に置きグリップから手を離した直後、それまで何も表示されていなかったディスプレイに文字が表示された。

――――対人喰魔武器確認。武器No1137075。

――――利用者登録開始。指紋をスキャンします、手を添えてください。

随分親切な文字が並んだ後、ディスプレイに手を添える場所と思わしき正方形の図が表示された。俺は最初戸惑いながらも、ディスプレイに表示されている正方形の図にゆっくりと右手を添える。

すると、正方形の図から光が発し始め、俺の右手を明るく照らした。暖かい光が俺の指先から手首までを包み込んでいく。どうやら指紋のスキャンが始まったみたいだ。

――――指紋スキャン終了。利用者登録が完了しました。

スキャンは物の数秒で終わってしまった。俺の右手を照らしていた正方形の図も消え、ディスプレイはまた何も表示されてないまっさらな状態になった。

「利用者登録が終わったな。これでこの武器は君のものだ」

「なんか・・・あっけないな」

「そういうものだ。では武器を取れ、このまま訓練室まで行くぞ」

「新入りはいろいろ大変だねぇ。ふっふ~ん、ま、過労死しないことを祈るよ」

「っ・・・どうも」

軽く憤りを感じながら俺はそう返事を返した。丸内、ホントに頭に来る男だ。出来ればこの男と付き合うのはこれで最後にしたいと、俺は切に思った。

桂さんの後を追うように、俺は武器庫らしき部屋の入り口まで歩く。もちろんデストロンを手にしたままでだ。部屋の分厚い鉄の扉の中央に右手を触れて指紋認証らしきことをして扉を開く桂さんに続いて、俺もこのだたっ広い部屋を後にした。

その時、廊下に出た俺を見て桂さんがこう言ってきた。

「そうだ、陣内。袖の右肘の内側に金具が入っているだろう。それを左手で軽く叩け」

「え?どうして?」

「いいから」

突然の桂さんの指示に俺は疑問に思いながらも、言われた通り右肘を軽く叩く。すると、手にしていたデストロンが突如明るく光り始め、そして一瞬にして俺の手から姿が消えた。

な、なんだ!?あの武器は何処に行ったんだ!?俺がそんな風に驚きを露にしていた時、桂さんは呟いた。

「心配するな。今のは君の武器を『スペース』に入れただけだ」

「スペース?」

「私達ヴァルキリアスの武器を出し入れするための空間だ。リビングを研究する過程で生み出されたもので、この戦闘服の右肘に仕込まれた機械を起動させることでいつでも武器を出すことが出来る」

「はぁ・・・なんかよくわからないけど、要は右肘を叩けば武器の出し入れが出来るってことか?」

「そう考えてもいい。ただ出し入れが可能なのは利用者登録を済ませた自分の武器だけだ。私や他の武器を取り出すことはできない」

「なるほど・・・。でも、どうして今から訓練で使うのにわざわざ・・・?」

「今はあの武器を手にしたままでは物騒だし、何より巨大すぎて君も歩きにくいと思っただけだ。持っていたければまたスペースから出せばいいぞ」

「い、いや!別にいい・・・」

「フッ、君は素直だな。では訓練室まで行こう」

桂さんは口元を綻ばせながらそう答え、廊下を歩き始めた。俺もその後を追うように歩き、廊下を進んでいく。次は訓練室と言っていたけど、一体どんな部屋なんだろうか?名前の通りの部屋といえばその通りだけど、「訓練」と言われて浮かび上がるものが全くない。射撃場とかなら遠くに的が設置された所だと連想できるけど、訓練室と言われても全く連想出来なかった。

廊下を歩いて数分、俺と桂さんの前方に1つの扉が見えた。まだまだ先に伸びる廊下の一角にある何の変哲もない扉かと思えば、さっきの武器庫らしき部屋と同じぐらい頑丈そうな鉄の扉だ。更に後ろにいる俺でもわかる程に、桂さんがその扉に目を向けている。どうやらあの扉の向こうにある部屋が俺と桂さんが向かおうとしている訓練室のようだ。

そう思ったその時、その扉が開いて1人の長身の男が廊下に出てきた。その男は俺や桂さんと同じ真白い戦闘服を着ているのだけれど、その目は点々とした光を零す得体の知れない機械で覆われていた。まるで目隠しみたいだ・・・、それが俺の最初に浮かんだ印象だった。

その男は機械で目を覆っているにも関わらず鉄の扉に近づこうとしている俺と桂さんの方に顔を向け、じっと俺と桂さんのことを見た。機械の内側からでも周りが見えるのか?一体アレがどういう機械なのか、俺は疑問に感じた。

そうしている内に俺と桂さんは鉄の扉の前に立つその男の傍まで着き、そして桂さんが口を開いた。

「氷川、訓練中だったのか?」

「その声・・・桂か。そうだが・・・それがどうかしたか?」

「別に。今姿が見えたから聞いてみただけだ」

「なるほど・・・。もう1人誰かいるみたいだが・・・その人は?」

「あぁ、彼は陣内統也。今日からヴァルキリアスの戦士になったんだ」

「陣内統也・・・です」

「そうか・・・今日から戦士になったのか。よろしく・・・私は氷川弥一だ」

口元に小さな笑みを浮かべた氷川という人は、俺の方に顔を向けながらそう呟いた。丸内の後に知り合ったからかもしれないけど、なんか氷川さん、見た目や話し方の割にいい人そうだった。

ただ、どうにも様子がおかしい。桂さんが言った後の返事に「その声」と呟いているところからして、氷川さんは目が悪いのではないのか?そう俺は思った。

そう思ったからこそ、俺は問いかけた。

「氷川さん・・・聞きにくいんだけど、その目はどうしたんだ?」

「・・・フッ、切山と同じだな。敬語で話さないとは」

「あ、あぁ・・・それはさっきからよく言われてる」

「そうか・・・。だが、お前は切山によく似ている。その声、その話し方・・・姿が見えないのが残念だ」

「やっぱり、見えてなかったのか?」

「氷川は戦士になる前に人喰魔に両目を奪われてしまってな。ヴァルキリアスに救出されて命は助かったが、その時いた氷川の兄も殺されてしまったんだ」

「それがきっかけで戦士に?」

「そうだ・・・。桂が話してくれた通り・・・私は兄を失った。新体操の道を私と共に歩んでくれた兄の仇を取りたい一心で・・・私はこの装置を手に入れ、戦っている」

「氷川の目に装着されている装置は周りの空気の波を脳に送り込み、氷川の脳に映像として映しこむためのものだ。といっても、見えるのは形や距離だけで、私達みたいに色や情景は見ることが出来ないがな」

「だが・・・戦うには十分だ。・・・それよりも陣内、今日から大変だろうが・・・頑張ってくれ」

「あ、あぁ・・・ありがとう、氷川さん」

「フッ・・・では、私は見回りに出る」

「あぁ、気をつけて行くんだぞ」

「了解した・・・」

そう答え、氷川さんは俺の前から立ち去っていった。両目を失ってもなお兄の仇を討つために人喰魔と戦う戦士・・・。そんな氷川さんの背中は今の俺ではとても追い抜けない程に大きく、それでいて戦士としての闘気みたいなものを発していた。他の人よりもハンデを負って戦っている人もいる。そんなことを知った俺は、尚更戦士として頑張ろうと強く思った。

そんな俺を見て、桂さんが呟いた。

「氷川は強い。他の戦士よりもデメリットがあるのに、それをモノともしていないのだからな。君も、氷川みたいに強い戦士になってもらうぞ」

「あぁ。今そう思ってた所だよ」

「そうか。遅くなったがここが訓練室だ。この中で君は訓練を受けてもらう」

そう言うと桂さんはさっきの武器庫みたいな部屋の時と同じく、鉄の扉の中央を掌で触れた。すると触れた場所から微かに青い光が発し、その直後、鉄の扉が鈍い音と共にゆっくりと開かれた。

そして、俺は扉の先に広がる部屋を見て驚愕した。

扉の先にあるのは、真白い壁に包まれた広い空間。武器庫らしき部屋よりは広くなかったが、それでも体育館を2つ並べたぐらいに広い。そして真白い部屋には壁と床と天井以外に何も存在しない。「無」という言葉が似合う、そんな静かな部屋だった。

けど、その部屋に1人の男がいた。

瞳を閉じ、腕を組んで仁王立ちしているその男は部屋の壁の色と同じ真白い戦闘服を着ていて、しわが目立つ若干老いた表情をしているにも関わらず、今まで出会った戦士よりも強い圧倒的な闘気を感じさせていた。下ろした長い髪が仁王立ちで腕を組む男の姿にマッチしているせいか、更に男の闘気を増幅させている気がする。

そんな男のいる部屋に俺と桂さんが足を踏み入れた瞬間、閉じていた男の目が勢いよく開いた。これを「開眼」というのだろうか・・・俺は男が勢いよく目を開いたことに、いや、開いたと同時に感じた言いようのない闘気に俺は一瞬体が動かなくなった。桂さんはそれをモノともせずに歩みを進め、俺も慌ててその後を追う。

そして、俺と桂さんが男の傍まで来た時、桂さんが口を開いた。

「おはようございます、近藤さん」

「うむ。・・・その子は?」

「今日から戦士になった陣内統也です。武器も決まったのでここで訓練させることにしました」

「陣内・・・そうか、昨日桂が助けた少年とはお前のことか。よくぞ戦士になった、お前は強い意思の持ち主だな」

「あ、あぁ・・・どうも」

闘気を発し続けるこの見た目から想像した通りの太く逞しい声に俺は圧倒されながらも、そう答えた。どうやらこの人が桂さんが言っていた近藤さんのようだ。あの桂さんが敬語で話す所からして、近藤さんの威厳の高さが伺えるな・・・。

「ほぉ・・・お前も敬語がダメか?ハッハッハ!切山が死んだ後のコレとは、陣内は天国にいる切山の贈り物かもしれないな」

「いやぁ・・・そんなことはねぇよ」

「うむ、ますます切山にそっくりだな。ハッハッハ!・・・っと、申し遅れた。俺は近藤正輝だ、よろしくな」

「俺は陣内統也。こっちもよろしくな」

「ハッハッハ!その喋り方は本当に切山にそっくりだ、気に入ったぞ」

「ところで、近藤さんがここにいるということは、氷川の相手を?」

「正確には氷川が俺の相手になってくれていたんだ。俺もたまには人喰魔以外の相手で体を動かしたかったからな」

「そうでしたか。いつものあなたにしては珍しい」

「ま、たまには良いだろう。して、これから陣内の訓練と聞いたが、メニューは?」

「まずは彼に武器の使い方を一通り覚えてもらってから、実技に入ろうかと」

「なるほど・・・。なら俺も見学していいな?」

「えぇ、もちろん」

近藤さんの言葉に桂さんは頷きながらそう答えた。どうやら俺の訓練に近藤さんも見てくれるらしい。珍しいことなのかそれとも当たり前のことなのか、俺にはわからなかったけど、こうして2人の戦士に見てもらうことに俺はどこか嬉しさを感じていた。

「陣内、武器を出せ。早速訓練を始める」

「あ、あぁ」

突然の桂さんの言葉に一瞬戸惑いながらも、それに応じて俺は右肘を軽く叩いた。すると俺の右手が一瞬光り、俺の右手にまたあの巨大な光線銃・デストロンが握られていた。重さに対しては問題なかったけど、この巨大な鉄の塊がいきなり目の前に出てくるのは流石に驚きものだ。

驚いていたのは、傍にいる近藤さんもそうだった。

「ほぉ、随分でかい武器だ。いやそれより、よくそれを持つことが出来るな」

「陣内は『狂怒系神経病』で、普通の人より筋力が強いらしいんです」

「なるほど・・・。よくわからないが、丸内が渡しているのなら大丈夫だろう」

「なら良いのですが・・・。とにかく陣内、さっきも言ったが今からその武器の使い方を一通り覚えてもらう」

「あぁ、わかってる」

「良し、では始める。『コロッセオ』遠距離仕様展開」

桂さんがそう言うと、俺の前方の彼方、部屋の端に近い場所から一瞬光が発して、光が発した場所に大きな長方形のブロックが3つ出てきた。なんだ?床から出てきたわけでもないのに、いきなりブロックが出てきたぞ?今桂さんが言っていた『コロッセオ』というのが関係しているのだろうか?

そんな疑問と少しばかりの驚きの表情を見せる俺を見て、桂さんが呟いた。

「説明が遅れたな。この訓練室には『コロッセオ』と呼ばれる特殊な空間が張られていて、私達が訓練に必要な破壊対象をあぁやって物質として作り出してくれる」

「そのコロッセオも、スペースと同じようなものなのか?」

「似ているようで似ていない。スペースは私達の服に仕込んだ装置を起動させることでどこでも使えるが、コロッセオは性質上この部屋でしか扱うことが出来ない。もっとも、リビングの研究の過程で生み出されたものに変わりはないが」

なるほど・・・。スペースといいこのコロッセオといい、人の技術力というものには圧倒されるばかりだ。思えば今手にしているこのデストロイもそうだ。250口径電磁光線銃という名前からそうだが、そもそも光線銃というものがこの世に存在していたのかというのに疑問を感じる。初めて武器の説明を聞いた時は光線銃なんてゲームや漫画で聞きなれた単語だったから少しも違和感を感じなかったが、いざ考え直してみればこの武器は人類の最先端の技術で作られているのかもしれないな。

けど、例えどんな武器でも、人喰魔達を倒す威力さえあれば俺にはどうでもいい。それが今の俺の気持ちだ。

「では早速始める。君の武器は光線銃だから、あそこに用意した対象物を3つ、その武器で狙い撃ちしてもらう」

「わかった」

対象物を狙い撃ち・・・か、なんか射撃部の時みたいだ。あの時は円状の的だったけど、あの3つのブロックも的に変わりはない。そう思うと、俺の体は自然と射撃の体勢を取った。

射撃部の時に使っていたライフルとは比べ物にならない大きさだったけど、片手で持てる重さだし、空いている左手は射撃の時と同じで銃身のブレを抑えるために使える。3つ並んでいるブロックの内の、中央にあるブロックに狙いを定めて・・・俺は引き金を引いた。

瞬間、俺の手にするデストロンの銃口から青白い光が発し始めた。そしてその直後、銃口から凄まじく巨大な光の柱が発射された。な、なんだこれ!?ゲームや漫画で見る光線なんかより全然でかいし眩しいっ!

いや、それ以前に腕に来る反動がすごい・・・。ライフルを撃った時よりも何十倍も重くて痛い・・・これが、デストロンの反動なのか。こんなに反動が強ければ光線に直撃した時の威力は半端じゃないはずだ。

それより、俺が撃った光線はちゃんと的に当たったのだろうか?俺が前方に目を向けると、3つのブロックが並んでいた所にはブロックの残骸だけでなく天井や床、そして壁などが崩れた残骸が散乱していて、真ん中のブロックはおろかブロック周辺のものを破壊しつくしていた。命中したかどうかなんてわからない、ただわかったのはこの武器の異常なまでの破壊力だけだ。

その威力に、俺以上に桂さんと近藤さんは驚いていた。

「・・・すごい」

「丸内・・・こんな武器を渡して本当に良かったのか?」

「わかりません・・・ただ正直、やり過ぎではないかと思います。陣内、君はこの武器を使ってどう思った?」

どう思ったと言われても・・・。あんなでかい光線は初めて見るし、そもそも光線銃というものを使うのも初めてなわけで・・・どう思ったと言われても正直わからない。

けど、このデストロンの引き金を引いて感じたことは1つ。

「・・・これは強い。これなら・・・いけるって」

それが正直に感じたことだ。的に命中するどころか的周辺のものを破壊できるこの異常な威力、それに俺は虜になってしまっていたのだ。

そんな俺に桂さんも少しだけ呆れた表情を見せて・・・。

「はぁ・・・君という男は、今の状況を理解していないで困る」

と呟いた。どうやら桂さんはあまりに強力な武器に俺が嫌がるものだと思っていたらしい、それが外れてこの通り少しだけではあるけど呆れているのだ。初めての武器には危険過ぎるのは確かにそうかも知れないけど、でもやっぱりこの武器は良い。それが俺の考えだ。

桂さんがため息を吐く一方、近藤さんは平然とした表情で口を開いた。

「いや、あながち陣内の言っていることは正しいかもしれんな。この武器は確かに強力、その武器を使いこなせれば・・・そう考えると、この武器でも平気だろうな」

「ですが・・・!」

「桂、人は思っている以上に出来る生き物だ。どんな危険なものでもすぐに扱えてしまう程にな。だからそんなに心配しなくても平気だ」

「はい・・・」

「そして陣内、お前は出来る奴と見たが、だからと言って気を抜いたりはするな。今も感じたと思うが、その武器は威力が強い分反動も強い。その反動を受け止めるのは他でもない、お前の体だ。だからこそ、武器を使い慣れるだけではなく、己の体も強くする必要があるんだ」

「体を、強くする・・・」

「忘れるな、戦士の強さとは己の肉体と武器の強さを合わせて初めて意味を成す。武器だけの強さに頼ってはいけない、それを肝に銘じておけ」

「あ、あぁ・・・わかった!」

「うむ。桂、続きを」

「はい。それでは陣内、さっきと同じように対象物を狙い撃て。コロッセオ、遠距離仕様展開」

桂さんがそう言うと俺の前方から光が発し、また3つのブロックが出てきた。ただ撃つだけかもしれないが、今はこのデストロンの使い方を覚える。それに神経を集中させ、俺はまた的に狙いを定め、引き金を引いた。










3日後。場所は訓練室。

真白い壁、床、天井が広がるこの広い部屋に倒れる俺。肺が激しく酸素を求めるために呼吸が激しくなる。心臓が血をより速く循環させようとするために鼓動が激しくなる。つまり今の俺はかなり厳しい状況にあるわけだ。

何故そんな状況なのか、その答えは・・・。

「立て、陣内。まだ訓練は終わっていない」

そう、訓練中だからだ。桂さんの冷たい声が俺の耳に入り込んで、俺は乱れ切った息をそのままに体を起こす。

瞬間、体を起こした俺の目の前に、1つの鋭利な刃の切っ先が向けられていた。この刃は桂さんが扱う武器のもの。大薙刀・ザッパー、それが桂さんの武器だ。

「もし今のまま気を許していたら、君の顔はもうないぞ」

「うっ・・・」

「戦闘が始まったら、どんな時でも気を抜くな。・・・わかったならさっさと立て」

そう言うと、桂さんは俺に向けている刃を引っ込めてくれた。危ない・・・あと数センチ前に顔を出していたら顔に突き刺さる所だった・・・。気を抜くなという忠告だったのだろうが、いざ目の前でそれを示されるとやはり怖い。俺は桂さんの言葉通りさっさと立ち上がって、桂さんを前にした。

今俺が受けている訓練は、相手の攻撃を避ける訓練だ。桂さんの扱うザッパーの刃を相手に背を向けずに避ける、ものなんだけど、これが想像以上に難しい。さっきから足や脇腹にザッパーのみねうちを直撃されている所だ。

「始める時も言ったが、相手の攻撃を先に読み、それに合った最小限の動きで攻撃を回避しろ。今の君は私の動きを見た後に動いている。それよりも先を見て動くんだ」

「あ、あぁ・・・」

「既に始めてから大分経っている、そろそろ体が馴染んでくるはずだ。・・・行くぞ!」

桂さんの声が響き、回避訓練が始まった。桂さんの言う通り、何度もみねうちは喰らっているけど大分体が避けるのに慣れてきている。今なら避け続けられそうだ。

先を読め・・・まずは、左からの薙ぎ払い。後方に下がって避けようとしたが、桂さんのザッパーの刃は人の身の丈と同じぐらい長いために下がって避けるのはまず不可能。そう判断した俺はその場にしゃがみこみ、桂さんの左薙ぎ払いを避ける。

次は・・・薙ぎ払いから続け様の垂直振り下ろし。これは立ち上がってから動くのは無理、俺は横に転がりこんでその攻撃を避ける。ここで注意しなきゃいけないのはすぐに相手の方に目を向けること。それを怠って3回ぐらい肩にみねうちを喰らっている。

そして思惑通り、桂さんは転がり避けた俺の肩を狙うようにザッパーを斜め振り下ろした。この斜め振り下ろしは右側から振り下ろしているから、反対側の左側に立ち上がると同時に飛び退けば攻撃を避けれる。そう判断した俺は立ち上がりと同時に左側にステップして、桂さんの攻撃を避けた。

更に俺はそのまま桂さんの後ろに回り込むためそこからまたステップする。後ろに回り込めば桂さんの動きは当然大きくなるし、先の動きを読みやすくなる。そう考えての俺の行動であり、俺の中でもっとも理想的な流れだった。

けど、桂さんはそんなに甘くはなかった。俺が後ろに回り込むよりも先に、俺の腹に後ろ蹴りを放ったのだ。あれ・・・?ザッパーの攻撃だけじゃなかったのか・・・?

後ろ蹴りを受けた俺は腹を抱えながら、重たく床に倒れた。痛ぇ・・・くそ、蹴りで攻めてくるなんて聞いてないぞ・・・。

「攻撃がザッパーだけだと思うな。今のは完全にザッパーだけに気を取られていたのが原因だ」

「ぐっ・・・わかってる・・・」

「わかってたら回避出来たはずだ。違うか?」

「うっ・・・」

「口で言うことを体で実現出来るようにしろ。出なかったら口には出すな。いいな?」

「わ、わかった・・・」

「良し。なら立て、続けるぞ」

そう言われて、俺は倒した体を起こす。もちろんさっきみたいに顔面に刃を突き付けられないように気を抜かないようにだ。ゆっくりと立ち上がって、俺はまた桂さんを前にする。

「・・・行くぞ!」

その声が響いてから、はや2時間後。

「立て、陣内・・・まだ訓練は終わっていないぞ」

今日だけで何度聞いたかわからないその台詞を、俺はまた聞かされていた。つまりまた倒れているわけだ。

先を読んで攻撃を避けているはずなのに、それの更に先を読んで桂さんは攻撃してくる。みねうちや蹴り、はてまた掴んで投げ飛ばされたりもした。最初の時よりは避け続けられているにしろ、何度も体が打ちつけられては流石にキツイ・・・。

その時、大の字で倒れる俺の顔面に、またもや刃が突き付けられた。鋭い光を発している切っ先が、今にも俺の鼻先を突こうとしている。

「うっ・・・」

「立てと言っているんだ。同じことを2度言わせるな」

「うっ・・・ぐっ・・・」

「・・・立て」

静かな桂さんの声が響いた瞬間、桂さんはザッパーの柄の先端で俺の腹を力強く突いた。まるで倒れた敵に追い討ちをかけているみたいだ。2時間前の腹に受けた蹴りの痛みも重なり、俺の腹に強い痛みが走る。

「うぐっ・・・!」

「仏の三度目はとうに過ぎている。いい加減立て」

「ぐっ・・・うっ・・・」

「・・・これが刃の方なら、君はもう死んでいる。わかるか、君は倒れている時も気を抜いてしまっているんだ」

「んぐっ・・・」

「私が君の気を叩き直してやる。いつまでも寝てないでさっさと立――――」

「そこまでにしておけ」

少し離れた所から、男の声が聞こえた。俺と桂さんが目を向けると、視線の先には近藤さんが立っていた。俺と同じ純白の戦闘服を着ている近藤さんは長髪を靡かせながら俺と桂さんの所に近づき、俺と桂さんに目を向ける。

「近藤さん・・・」

「桂、いくら立つのが遅いからと言って暴力を振うのはいかんな。俺が指導した時もそんなことしたか?」

「それは・・・。ですが、陣内は他の戦士よりも強力な武器を使います。だから訓練も他の人よりも何倍も必要です」

「だが、始めてからもう8時間も経っている。そろそろ休憩させてもいいんじゃないのか?」

「しかし・・・」

「お前の熱意はわかる。だが、今のままではただ単に陣内を虐めるだけになる。少しは陣内の身にもなってやれ」

「・・・わかりました」

そう答えると、桂さんは俺の腹を突いているザッパーの柄の先端を俺の腹から離した。そして桂さんは右肘を軽く触れてザッパーをスペースに収納して、ザッパーは光と共に消えた。

「・・・近藤さんに免じて10分休憩をやる。その間に立てるようになっておけ」

桂さんそう言い残すと、俺の傍から立ち去って行った。倒れていたためによくわからなかったけど、扉が開く音がしたところからしてそのまま訓練室を後にしたみたいだ。

その直後、傍にいた近藤さんが俺に話しかけてきた。

「平気か?」

「・・・正直ダメ」

「ハッハッハ。まぁ、8時間もぶっ通しで回避訓練してたんだ、無理もないな」

笑いながらそう返事を返した近藤さんは、俺のすぐ傍に胡坐をかいて座り込んだ。俺の体を一通り見て、近藤さんは更に俺に話しかける。

「こいつはまた手痛くやられたなぁ陣内。みねうちでなければ即死だぞ」

「やっぱ・・・そうなんだ・・・」

「だが、お前も身につき始めただろう?回避の基礎、相手の先を読む動きが」

「・・・あぁ」

「なら十分だ。この部屋は特別だ、それだけ頭に叩き込めていればこの先も平気だ」

「特別・・・?どういうことだ・・・?」

「ん?そうか、説明されてなかったか。この訓練室は他の部屋と違って特殊な磁場が発生していてな、その磁場とこの部屋に張られたコロッセオの空間が作用して、肉体の時間経過が速くなるんだ」

「肉体の時間経過・・・?」

「つまりだ、ここで1日訓練すると、普通の訓練の半年分に相当するわけだ」

「は、半年・・・!?」

「大まかな数値だがな。大体それぐらいということだ」

1日で半年分の訓練が出来るって・・・俺はそんな部屋で今まで訓練して来ていたのか・・・。待てよ、今日で3日目だから今日が終わると俺は1年半分の訓練をしたことになるのか!?軍人でもそんなに訓練しないだろうに・・・。

そんなことを思っていると、近藤さんが口を開いた。

「しかし、桂も躍起になってお前に指導してるな」

「え?桂さん・・・躍起になってたのか・・・?」

「あぁ、なってるとも。あいつは自分に責任を感じているからな」

「責任・・・?」

近藤さんの言葉に俺はそんな疑問を感じた。自分に責任って、桂さんのどこに責任を負うようなことをする要素があるというんだ?今まで人喰魔を倒してきて、それに俺も助けてくれた。そんな桂さんが責任を負うようなことなんて、今の俺には考えられない。

その疑問を解くかのように、近藤さんは話をしてくれた。

「桂は、お前が襲われた若葉野高校でのことを気に病んでいてな。自分が遅れたばっかりに、100人近い人の命を助けられなかったとな」

「で、でも・・・俺は助かって・・・」

「お前だけ、だろう?だからこそあいつは悲しんだんだ。自分がもっと早く人喰魔を見つけていれば、陣内だけじゃない、多くの命を助けられたかもしれない。そう思っていたんだ」

「でも・・・そんなの、戦士として思うのは当たり前なんじゃ・・・」

「確かにそうだ。だが、あいつは人一倍それを強く感じる女だ。何せ12歳から戦士を始めたからな」

「じゅ、12歳・・・!?」

ってことは、中学生、いや、下手すると小学生の時からってことじゃないか!?そんな幼い時から戦士になってたって・・・とても信じられない。

そんな驚きに満ちていた時、近藤さんは話を進めた。

「桂が両親を殺されたのは知っているな。あいつの両親を殺した人喰魔を倒したのは俺だったんだが、その時助けた子供が桂だった。戦うと決めてからあいつは8年間、こうして今も戦いの世界に身を置いているんだ」

「そんな・・・そんな若い時から・・・」

「12歳から8年間も戦士として戦い続けてきたからこそ、自分の戦士としての責任感を人一倍感じやすい。だから今回の一件でも、あいつは責任を感じているんだ」

「そうだったんですか・・・」

「そのせいか、お前が戦士として生きると決めた時に、桂は自分から指導役を名乗り出たんだ。指導役は本来なら俺の役目だったが、あいつは自分の過ちを繰り返させない戦士にさせたいと言ってな、それだけお前に対する使命感が強いんだ」

「それで躍起に・・・。ハハッ、てっきり俺・・・上達出来てないから厳しいんだって思ってた・・・」

「ハッハッハ、あいつはそんな女じゃないさ。普段はあぁだが、根は優しい奴なんだぞ?」

「は、はぁ・・・」

「だから陣内、お前もあいつの期待に応えられるようになれ。そうすれば自ずと戦士として先に進める」

近藤さんはそう言うと、その場からゆっくりと立ち上がった。その直後、部屋の扉が開く音が聞こえて、扉の方に目を向けると部屋に入ってきたのは桂さんだった。桂さんが戻ってきたということはもう10分経ったのか・・・時間って意外と早く経つんだなぁ・・・。

そんなことを思っていると、俺の傍に桂さんが近づいてきた。大の字で倒れている俺を見て、桂さんの鋭い視線が俺の目を見る。

「10分経った。まだ立てないのか?」

「・・・いや、立てる」

そう答えて、俺は力強く立ち上がった。もう体の痛みなんてない、もし痛かったとしても、期待に応えれるように我慢すればいいんだ。

「桂さん、続きをやろう」

「っ?どうした?さっきと大違いにやる気満々だが?」

「やる気にさせてるのはそっちでしょ。ほら、早く」

「・・・フッ、いいだろう。そんなにやりたいなら思う存分攻めてやる」

口元を少しだけ綻ばせ、桂さんはどこか楽しそうな表情を浮かべた気がする。だけどその後、桂さんは右肘を軽く叩きスペースを開き、光と共にザッパーを取り出した。

「行くぞ!」

そして、俺の回避訓練は始まった。










それから日が経ち、4日後。

この日も俺は訓練だった。朝の5時に起き、身支度を澄ませて広く真白い訓練室に向かう。重厚な鉄の扉を抜けて部屋に入ると、そこには桂さんと近藤さんの姿があった。いつもなら桂さんだけなんだけど、朝から近藤さんがいるのは珍しい気がする。

俺が桂さんと近藤さんの所まで歩いていくと、桂さんが俺に話しかけてきた。

「おはよう陣内。今日も時間通りだな」

「いつものことだからな。でも、どうして近藤さんも?」

「なんだ?俺がいてはいけないみたいな言い分だな」

「いや、そういうことじゃなくて!いつも途中から見に来たりする程度だったからどうしてかなぁって」

「なるほどな。まぁ、たまには良いだろう?」

「まぁ・・・いいけど」

この近藤さんの言葉には毎回流されてしまう。絶対何かあるからここにいるのはわかるけど、あっけなく流されるとそれ以上問い詰めるのを止めてしまう。話し方が上手いと言うのか、そういった点で近藤さんには勝てない。

そう思っていた時、桂さんがまた俺に話しかけた。

「陣内、今日は君に特別な訓練を受けてもらう。だが普通の訓練と同じように、真剣に受けてくれればいい」

「特別な訓練?なんだよそれ?」

「受ければわかる。・・・近藤さん」

「あぁ、後はまかせろ」

近藤さんがそう返事を返すと、桂さんは俺と近藤さんから距離を離し始めた。どうしたんだ?状況がまるで読めないんだけど・・・。もしかして今回は近藤さんが俺の訓練の相手をするのだろうか?

そう思った俺だったが、その予想は見事に的中した。

「さて陣内。今から俺の攻撃を100回を避け、防いでもらう。つまり回避訓練と防御訓練の両方をやってもらう」

「ちょ、ちょっと待って!どうして桂さんじゃなくて近藤さんなんだよ!?」

「前に言っただろ?指導役は本来なら俺の役割だと。今までは桂に任せていたが、やはり最後は俺が指導したかったからな。今回は俺が相手だ」

「それで特別な訓練ってことか・・・」

「フッ、まぁ心配するな。俺の武器はみねうちというものが出来ないが、気絶しない程度に緩めてやる」

近藤さんは口元に笑みを浮かべながらそう言うと、自分の右肘を左手で軽く叩いてスペースを起動させる。すると、近藤さんの右手から光が発して、光と共に近藤さんの武器が姿を現した。

現われたのは、鋭い刺がびっしりとついた銅色の金棒。童話とかで鬼が使ってる金棒のそれに近いシルエットだったけど、棘の多さと身の丈の半分ぐらいあるその大きさは童話の鬼が持っているような金棒とは遠く離れた、敵を叩き潰すための武器だった。その武器を近藤さんはまるで棒きれか何かのように軽々と手にしていて、ゆっくりとそれを構え始めた。

「どうした?この阿修羅砕(あしゅらさい)に怖気ついたか?」

「なっ・・・んなわけないだろ」

「そうか。ならば・・・行くぞ!」

その言葉が発せられた瞬間、近藤さんの体から凄まじい闘気が放たれた。いつもそれらしいものは感じていたけど、今の近藤さんから出ている闘気はビリビリと体を痺れされるぐらい強烈なものだ。そしてそれと同時に、近藤さんは銅色の金棒・阿修羅砕を構えながら俺に突進してきた。

速い・・・!近づく速さが桂さんの2倍も3倍もあるように見える・・・!でも慌てるな、まずは相手の先を読め!

最初の攻撃は、突進と同時に繰り出す振り下ろし。刺がびっしり生えてる金棒といっても当たらなければ当然害はない。俺は横にステップするように体を移動させ、近藤さんの攻撃を避ける。その直後、近藤さんは手にした阿修羅砕を力強く振り下ろした。

瞬間、阿修羅砕は地面と衝突して、衝突した地面を砕いた。バギンッ!と真白い床が音を立てて壊れるその様は、文字通り叩き潰したと言うべきなんだろうか・・・。振り下ろしただけでこの威力・・・強過ぎる・・・!

だけど、こんなことで気を散らしてたら狙われる・・・。次は阿修羅砕の横薙ぎ払い攻撃が来る・・・これはその場にしゃがんで避けるしかない。俺はその場で身を低くしてしゃがむと、近藤さんの薙ぎ払った阿修羅砕が俺の頭上を通過した。

それと同時に、近藤さんはしゃがんだ俺の顔面目掛けて回し蹴りを放ってきた。これは俺の動きを読んで繰り出されたもの、今の俺では避けるのは出来ない。

けど、防ぐことは出来る。俺は両手で近藤さんの蹴りを抑え、その足を押し退かした直後に俺は近藤さんから距離を離した。

その光景を見て、近藤さんが呟いた。

「うまいな・・・。無理に避けず、身を使って防御することで最小限のダメージに抑える。今の反応は防御訓練の内容を完璧に把握してなければ出来ないことだ」

「どうも・・・」

「だが、今のも含めてまだ3回。あと97回、お前は俺の攻撃から身を守ってもらう。・・・行くぞ!」

そう言って、近藤さんはまた俺に攻めかかった。俺は近藤さんの動きの先を読んで、回避に専念した。

振り下ろし、薙ぎ払い、突き出し、蹴り、掴み投げ。襲い来る攻撃に全て俺は避け、防いでいった。すごい・・・訓練を始めてからたった1週間でこんなに動けるなんて・・・俺は自分の動きに感動して、同時にこの訓練室の凄さを改めて知った。

そして、近藤さんの攻撃を避けるのも残りあと2回。次に来るのは阿修羅砕の振り上げ攻撃、だけど右側から左側に流れる攻撃だから右側よりも左側に避けたほうが安全。俺はすかさず左側に避け、その直後、近藤さんの阿修羅砕が俺の横を通過する。

だが、この直後、100回目になる近藤さんの攻撃が俺に襲いかかった。

「フンッ!」

100回目の攻撃は、気合いの声と同時に繰り出された阿修羅砕の振り下ろし。だけど今までの振り下ろしの何倍も速くて、移動しての回避をする暇もない。かといって防ごうにも相手は金棒、とても最小のダメージで済むはずがない。

避けることも、防ぐことも不可能。この攻撃に俺は窮地に立たされていた。どうしたらいい・・・どうしたら・・・。

その時、俺は1つの可能性を見出した。それをしたらいけない気もするけど・・・今はこれしか方法がない。そう思った俺は、それを実行に移した。

右肘を軽く叩き、スペースを起動させる。すると俺の右手から光が発して、その光と共に俺の武器・デストロンが姿を現す。それを手にした俺はそのデストロンの銃身で、近藤さんの阿修羅砕を防いだ。ガギィン!と金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響き、デストロンと阿修羅砕の間で火花が飛び散る。

100回目の攻撃は回避も防御も不可能、だったらそれを防げる強力な武器でそれを防ぐしかない。それが俺が見出した可能性だった。

そんな俺を見て、遠くにいた桂さんが呟いた。

「武器で防いだ・・・!?だけど、今は回避と防御の訓練のはず。武器を使用しては――――」

「いや、間違ってはいないぞ、桂」

そう言ったのは、近藤さんだった。俺の目を見て、デストロンに防がれている阿修羅砕をそのままに、近藤さんは更に続きを話す。

「最後の攻撃は俺の全力の技。それは並大抵の回避や防御ではまず対応できない。ならば俺の阿修羅砕と同じゴルチウムを使っているこのデストロンで防ぐしかない。そこまで陣内は考えていたんだ」

「それでは・・・」

「あぁ・・・・・陣内」

俺の名前を呼んで、近藤さんは俺のデストロンに防がれている阿修羅砕をゆっくりとデストロンから離した。どうやらもう攻撃をすることはないみたいだ。もっとも100回目のあの攻撃も一応防御したということになっているみたいだから当然のことなのかも知れないけど。

そんなことを思っていた時、近藤さんの口から意外な言葉が吐かれた。

「ここまでよく訓練に耐え抜いた。これからお前はデストロンを扱う戦士として、俺達ヴァルキリアスの戦力となってもらう」

「え・・・それって・・・」

「つまり、君は立派な戦士として認められたということだ」

そう言ってきたのは、桂さんだった。いつの間にか俺と近藤さんの傍まで来ていた桂さんの言葉で、俺はようやくこの訓練の意味を知った。この訓練は言ってしまえば戦士になるための確認訓練。学校で言えばテストと同じようなものなんだ。

だけど、回避と防御の訓練だけしかやっていないのに、ホントにそれで合格なんだろうか?確かに今までに攻撃訓練もやってきたけど、こういう特別な訓練なら攻撃訓練もあっていいと思うのに・・・。

そんな俺の疑問に答えたのは、またしても桂さんだった。

「君の使う武器は他の武器よりも強力。だからこそ、武器を使う攻撃面よりも、その武器の支えとなる自分の体を守る防御面を私達は気にしていたんだ」

「それで最後の訓練、俺の攻撃100回に対する回避と防御の訓練やったんだ。それをクリアしたお前は、もう立派な戦士といってもいい」

「俺が・・・戦士・・・」

「今日からというわけにはいかないが、明日からお前は桂と一緒に戦士の任についてもらう。その方がお前にとってもやり易いだろう?」

「陣内、君は明日から戦士としての私のパートナーになる。どれだけ一緒に戦えるかはわからないが、よろしくな」

そう言うと、桂さんは俺に手を伸ばした。握手を望む桂さんという女性の小さな左手。けどその手からはこれから一緒に戦おう、そんな絆のオーラみたいなものを感じさせていた。

「あぁ、よろしく・・・桂さん」

俺はそれに応えるように、自然と左手を伸ばして、桂さんと握手した。小さいけど女の人とは思えない力強そうな手。そんな手を、俺はしっかりと握っている。いつの間にか俺の口元には笑みが零れて、桂さんの口元も何処となく綻んでいるように見えた。

明日からではあるけど、俺は戦士として・・・人喰魔を倒す人間になる。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:はいやって来ましたあとがきコーナー!ここまでのご拝読、誠にありがとうございますm(_ _)m。

近藤正輝(以後「近」):これからもHuman Visionをよろしく頼むぞ。

管:おぉ!?今回は近藤が来たのか(☆w☆ )。なんか珍しいな。

近:本編でもそうだったが、俺が来ることはそんなに珍しいことか?妙に距離が離されている気がしてならんのだが。

管:いやそれはぶっちゃけ気のせいというか、本編の方はあくまでそういう設定なんだから仕方がないと言わざるを得ないw。

近:フン・・・まぁいいだろう。それよりさっさと始めないか?今回は俺が何回か登場していて気になることが多いんだ。

管:何その「なんか自分のこと変に書かれてると嫌だから一応確認したい」的な発言( ̄w ̄;)。まぁこっちとしても早くやる分には問題ないから、早速あとがきコーナーを始めるとしましょう!


今話は会話と戦闘の場面割合が丁度5:5で等しく、しかも前半は会話重視、後半は戦闘重視とはっきり分かれているのが特徴となっています。といっても今話の内容的には陣内が戦士になるまでの過程的な話になっているので、あまり激しい戦闘はしていないわけですがw。

そんな今話は前話の続きから始まります。とりあえず武器の利用者登録から「スペース」の場面までの設定は実は当初から曖昧な設定で、スペースの設定も実はつい最近になってまともに出来上がったもの。そのスペースの設定に便乗する形で武器の利用者登録の設定も出来上がった感じです。

訓練室に向かう陣内と桂。そこで訓練室から出てくる氷川と出会います。この設定は実は当初からあったもので、この出会いがきっかけで氷川と面識を持ち、後の行動に影響が出てきます。氷川はドルトの日常の方では第7話で登場したんですが、その時明かされなかった戦士になりきっかけ的なものを表現するためにも今話で登場させています。

訓練室に入り、陣内は近藤と対面する。この近藤と出会う場面も↑と同様当初から考えられていたもので、これまたこの出会いがきっかけで後の行動に影響が出る感じです。といっても近藤の場合は物語中にも述べている通り指導役の任もあるので、そういった点でも陣内と接触することが多くなっているキャラです。

↑の場面の後にデストロンの初射撃を行う陣内。その威力に桂も近藤も圧倒される。デストロンのモチーフは前話のあとがきコーナーで述べていますが、威力に関しては完璧自分のイメージ(という名の妄想)で出来上がっていますw。ちなみに具体的な威力はというとロケットランチャーの2倍か3倍程の威力です。

それから3日後、陣内は回避訓練を受ける。この場面では桂の詳細が明かされたりしていて、設定としては当初からありました。桂の男勝りな性格の秘密は12歳から戦士として生きてきたため、本来なら育まれていくはずの「女の子としての自分」が無くなってしまった。けどその代わり「人喰魔を倒す存在の自分」が育まれて、今の桂になっている。といった感じの設定だったので、それを表現できるような会話場面になってたりもします。

回避訓練から4日後。陣内は近藤の100回攻撃に対する回避と防御の訓練を受ける。そしてそれをクリアした陣内は、立派な戦士として認められる。この辺の設定は当初からあったにはあったんですが、実は途中から「ドルトのバーチャル実体(陣内の記憶を読み取ってコロッセオが作り上げた疑似ドルト)と戦う」という今の設定とは大きくかけ離れた設定が浮上して来て、どっちにしようか迷っていたのが正直なところですw。でもドルトのバーチャル実体と戦わせると近藤がいる意味がなくね?という疑問に陥りあえ無く没行きになりましたw。

戦士として認められ、明日から人喰魔を倒す人間になった陣内。その陣内についに人喰魔が襲いかかる!果たしてこの後何が起こるのか・・・。それは次回のお楽しみ~。


近:なるほど。つまり俺はいろいろな意味で陣内をサポートするような役目になっているのか。

管:ん~、サポートっていっても間違いではないけど、もっと言っちゃうと陣内の「上司」みたいなもんかな?上司だからいろいろ教えられるし、いろいろ協力出来るって感じ(☆w☆ )。

近:ふむ。俺も捨てたもんじゃないってことか。

管:そういや、なんでまた自分のことをそんな気にするんじゃい?( ̄w ̄;)

近:いやな、前々々作に出てたジョ○って奴が話していたことなんだが、管理人がかなりのパクリ魔というからもしかしたら俺もその影響を受けているんじゃないかと――――。

管:カカロットオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!

(管理人、気絶)

近:むっ?なんだ、いきなり気絶したな・・・。ふむ、脈はあるから心配はなさそうだな。さて、時間も時間だからここで終わりにするか。

ではお前達、次の話でまた会おう。


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