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休憩場

休憩場

HV 第5話

第5話











「死傷者0人、生還者18人。なかなか良い結果だな」

武器庫のディスプレイのようなテーブルに表示された文字列を目にしながら、近藤さんがそう呟いた。その文字列を俺や桂さんも目にしているわけなんだけど、こうして見るとやっぱり良い結果なんだと実感できた。

ベガを倒した後、俺と桂さんは一旦基地に戻ってきていた。そこで桂さんが討伐結果を申請するとかでこの武器庫に来て、近藤さんと出会った感じだ。なんで武器庫かは知らないけど、どうやら討伐結果の申請をするためにはこのディスプレイのようなテーブルを使う必要があるらしい。

そんなことを思っていると、横にいた桂さんが口を開いた。

「今回の相手、2年前の東京の街で1番人間を食っていたベガだったので、それも評価できると思います」

「うむ。だが、まさか陣内の初手柄があのベガとはなぁ。正直驚いたぞ、ハッハッハ」

近藤さんは軽く笑いながらそう答えた。ビル街の時でもそうだったけど、そうやって褒められると正直嬉しい。死者も出なくて済んだし、何度も言ってるみたいだけど今回はホントに良い結果だ。

その時、俺はふと疑問に感じた。

「そういえば、ベガのリビングから生還した18人・・・その人達は、どうなったんだ?」

「彼らは怪我もないことからこの基地で過ごしている。ただ精神面で傷を負った人もいるから、しばらくは人との接触は避けさせる方針だ」

「そうなのか・・・」

「だが、彼らは戦士にこそ希望していないが、武器開発等のサポート面に就きたいと言っているらしい」

「武器開発・・・か」

「俺や桂、それに陣内、俺達全員が使う武器を作ってくれるんだ。戦士以上に大変な任だと俺は思うがな」

「同感です。いつ戦士が増えてもいいように、武器はあるに越したことはありません」

「なるほど・・・」

俺は納得の言葉を零した。俺は戦士になったけど、確かにヴァルキリアスに助けられた人が必ず戦士になりたいなんて思うはずがない。以前にヴァルキリアスは存在が消えた人の拠り所になる場所という感じのことを聞いたけど、今の話でそういう思いがある人達にもヴァルキリアスは居場所を作って上げているんだと、俺は改めて思った。

その時、俺と桂さんの背後からこの部屋の入り口である鉄の扉が開く音がした。俺が振り向こうとした時にふとテーブルを挟んだ目の前にいる近藤さんの顔に目が向いて、近藤さんの何処か嫌そうな感じの表情を見た。なんでそんな顔をするのか?そんな疑問と同時に俺が扉の方に顔を向けると、俺は近藤さんと同じ表情になった。

何故かと言えば、俺達がいるこの武器庫に丸内が入ってきたからだ。俺達とは違う白衣姿に眼鏡越しにある性格の悪そうな目、それだけで俺の大嫌いな男だとすぐにわかる。手には人の体なら軽く両断出来そうな程でかい手斧みたいな武器を持ってるし、一体何しに来たんだこの男は。

そんなことを思っていると、丸内はテーブルの周りにいる俺達に話しかけてきた。

「おやぁ?この私のテリトリーに戦士が3人もどうしたんだい?まさか仕事をサボってるとかぁ?」

「下らない台詞は寝言で言え。今陣内の討伐結果を申請した所だ」

「酷い言い様だねぇ桂君、まぁ今に始まったことじゃないけど。ところでぇ、陣内君の討伐結果の申請と言ったが、もしかして陣内君が人喰魔を仕留めたの?」

「あぁ・・・そうだけど?」

「ふぅーん・・・それが本当なら君に与えた武器はなかなか高性能じゃないかぁ。流石は私が力を入れて考えた武器だけあるね」

今の丸内の言葉は丸内なりの褒め方なんだろうけど、俺はどうにもそれが気に入らなかった。まるで俺の実力じゃなくて俺が使ってるデストロンが強力だから人喰魔を倒せたような口の利き方だ。近藤さんからは戦士の強さは武器の強さと自分の肉体の強さを合わせて1つにしたものだと教わった、けどこいつは戦士の強さは武器の強さだけだと思っていやがる。性格も性格だからか、考えることも俺達とは正反対みたいだ。

その丸内に、今度は近藤さんが話しかけた。

「それで、貴様は一体何しに来たんだ?『イレイザー』を持って」

「イレイザー?」

「丸内が持っている武器のことだ。私が話した切山という戦士、彼が使っていた武器だ」

「切山さんの武器・・・?」

「そうだよ、この武器は切山君が使っていたもの。対人喰魔武器の中ではまぁ小さい方だけど、小さいながらに変幻自在の攻撃が可能だ。更に刃は強靭で人喰魔の肉体はおろか、鉄を斬ったとしても刃毀れを起こさない優れものだよ」

「武器の説明はいい。どうして貴様がそれを持っていると言っているんだ。それは切山の腕と一緒に残されていた唯一の遺品なんだぞ」

「フフフ、貴様呼ばわりとは物騒だねぇ。戦士達は戦い過ぎて中身も口調も物騒になっちゃうみたいで困る」

「っ!?おい丸内、お前さっきから何言って――――」

「落ち着け陣内。こいつの言うことにいちいち気にしてたら埒が明かない」

「桂君の言う通りだよ陣内君。そんな短気だと周りから嫌われるよぉ?」

「っ・・・お前に言われたくねぇよ」

「ふっふ~ん、まぁいい。話を戻すけど、私がここに来たのはこの武器の利用者登録を解除するためだ」

そう言うと、丸内はテーブルの傍まで近づいて、手にしていた大手斧・イレイザーをテーブルの上に置いた。こうして机の上に置くと改めてその巨大さがわかる。けど対人喰魔武器の中ではこれでも小さいというのだから俺には驚くしかなかった。

けど、どうして利用者登録を解除する必要があるんだろうか?そんな疑問を感じていた時、桂さんが口を開いた。

「この武器もまた、次の戦士の手に渡るのか・・・」

「えっ?どういうこと?」

「戦士が消えて武器だけが残った場合、武器は利用者登録が残ったままになる。そのままにしておくとスペースに入れた時にその武器は引き出せなくなる。だから利用者登録を解いて、また次の戦士のために保存しておくんだ」

「まぁ普通に考えたら分かりそうなことだけどねぇ。でも君には少し難しかったかな?」

「っ・・・」

「・・・切山」

俺が丸内に対して苛立ちを見せていた時、近藤さんがそんな言葉を口にした。いつもの近藤さんからはとても想像がつかない切なそうに声と共に、近藤さんの目はイレイザーに向いていた。

そして、テーブルの上に置かれたイレイザーに、近藤さんがそっと手を乗せた。

「・・・お前の闘志、この俺が預かった。そして、次にこの武器を使う戦士のために、どうか力になってやってくれ」

「近藤さん・・・」

「・・・桂、もう討伐結果の申請が終わったなら陣内と一緒に今日はもう休め。後は俺や氷川で見回る」

「はい、わかりました」

桂さんの返事を聞くと、近藤さんはイレイザーから手を離して、そのまま武器庫を後にしていった。イレイザーを手にしながら言った言葉に気持ちが込められているかはわからない、けど、切山さんの意思は近藤さんが受け継いでいるのは俺でも理解出来た。

鉄の扉を抜けて、姿を消した近藤さん。その背中が見えなくなった後、ディスプレイのようなテーブルの画面を操作している丸内が口元を不気味に歪ませながら呟いた。

「闘志を預かったねぇ。長年戦士として活躍してきた近藤君も非現実的な妄言を言うようになったか」

「なっ・・・丸内、お前近藤さんがどんな気持ちで切山さんのことを思ってるか知ってて言ってんのか!?」

「知ってるとも。切山君は近藤君の1番優れた弟子。優秀な弟子を亡くした師匠にして見ればそれは悲しいことだろうねぇ。ただ、どんなに悲しんでもそれは現実、それを魂だの闘志だの存在しないもので未だに存在するようなことを言っても結果は変わらないんだよ」

「そうだけど・・・それでも仲間が死んで、親しかった人が死んですぐに忘れられるはずがないだろ!むしろ忘れたくないだろうが!」

「だから別のもので表現したいってことだよねぇ?それはそれで結構、だけどあまりそれに捕らわれ過ぎて私の自信作達を扱えませんじゃ困るだけのことだよ」

「お前・・・さっきから武器のことばっかで、少しは戦士の身になって考えてみたらどう――――」

「そこまでにしておけ。少し聞いて見てどうかと思ったが、やはりこいつは根から私達とは違う奴だ」

「桂さん、だけど・・・!」

「丸内の言っていることにも一理はある。だが私達は貴様が思っているような軟い人間じゃない。戦士が死んで挫けるような戦士など、ヴァルキリアスには存在しないんだ」

「桂さん・・・」

「そうそう、それが当然であるべき戦士の姿だよねぇ。まぁそれがわかっているんなら私から言うことはもうないよ」

「フンッ・・・陣内、行くぞ。今日はこれで見回りも終わりだ」

「あ、あぁ」

そう答えて、俺は桂さんと一緒に武器庫を後にした。丸内・・・口を利けば利くほどムカついてくる。また奴とは会うことになりそうだけど、出来れば2度と会うことがないことを願いたい。そう思いながら俺は鉄の扉を抜けて、扉は重たく、ゆっくりと閉じて行った。










4日後。俺と桂さんは朝から巡回に回っていた。

場所は昨日と同じ、若葉野市。けど今回はビル街から少し離れた住宅街に来ている。ここは俺の馴染みの場所でもあるためビル街の時と同じで妙に懐かしい感じがしていた。いつもはこの辺は太陽の光が明るく差し込んで輝かしい青空が広がっているんだけど、今日は曇り空でそれを拝むことが出来ないのが残念だ。

住宅街の中を蜘蛛の巣のように伸びる道を俺は隣にいる桂さんと一緒に歩いていた。車がほとんど通らないこの道で出会うのは当然この付近に生活してる人で、けど存在が無い俺と桂さんにそういった人達はまるで反応を見せない。わかっていることではあるにしても、いざ意識して見るとやっぱり悲しいものだ。

それにしても、なんで今日はこんな場所の巡回なんだろうか?確かに人喰魔はいろんな場所にいるからここも巡回範囲なんだろうけど、それにしたってビル街の方が人口は多いし、こんな比較的人の少なそうな場所を巡回するのもどうなのかなぁと思う。

そんな疑問を浮かべていた俺は、思い切って桂さんにその疑問について問いかけてみた。

「桂さん」

「何だ?」

「どうして今日はこんな場所を巡回するんだ?」

「ん?あぁ、まだあの事を君に言っていなかったな」

「あの事?」

「実は一昨日別の支部の戦士から連絡があって、ある人喰魔がこの街に接近している可能性があるらしい。その人喰魔は他の人喰魔とは考えが違うのかわからないが、私達ヴァルキリアスだけを襲う人喰魔なんだ」

「ヴァルキリアスだけを襲う・・・!?」

「それ自体には私達に問題はない。ただ恐ろしいことは、他の人喰魔がその人喰魔と自然に連携を取ってしまうことだ」

「どういうことだ?」

「簡単にいえば、その人喰魔と他の人喰魔が揃うと、その人喰魔が私達と相手をしている間に他の人喰魔が人を食い尽してしまうんだ。それが続いてしまうと私達ではどうすることも出来なくなる。だから早めにその人喰魔を倒さなければならない」

「なるほど・・・」

「ここを巡回しているのも、ヴァルキリアスしか狙わない奴の思考を意識してのことだ。人が少なくて人喰魔から見て私達の存在に気付きやすいこの場所なら、奴と遭遇する確率も高くなる」

桂さんの説明で俺は大体のことが理解できた。この場所を巡回しているのは名前はわからないけどヴァルキリアスしか襲わない人喰魔をおびき寄せる為で、他の人喰魔と連携される前にその人喰魔を倒すことが目的だったんだ。

けど、一通りの説明を受けて俺は別のことに疑問を持った。

「そういえば・・・さっき桂さん『別の支部の戦士』って言ってたけど、ヴァルキリアスって1つの組織じゃないのか?」

「1つの組織だ。だがその1つの組織はあらゆる場所に点在して人喰魔を倒してきているんだ」

「あらゆる場所っていうと?」

「日本では東北、関東、北陸、東海、関西、四国、九州と7支部に別れている。世界で見ると本拠地のギリシャを中心にしてほぼ全ての国に点在している」

「そんなにたくさんあったのか・・・。なんか、戦士のくせに何も知らないんだな、俺」

「今から知って行けばいい話だ、君が深く考えることでもない」

俺の言葉に桂さんはそう答えてくれた。でも日本だけでも7支部あって、世界のほとんどの国にヴァルキリアスが存在するということは、それだけ人喰魔も多いということなんだろうか。ドルトやベガみたいな人喰魔が世界中にいると思うと、尚更人喰魔を倒さないといけないという気持ちになるはずだ。少なくとも、俺はそう思っていた。

そんなことを考えていた時、俺の視線の先にそれは見えた。

見えたのは、視線の先にある十字路を通り抜ける制服を着た男子や女子の列だった。時間が時間なだけに登校中の生徒といったところだろうか。黒い学ランと青いリボンのセーラー服、良く見るとそれは俺が通っていた学校の制服だった。

それに桂さんも気付いたようで、十字路を抜けていく生徒達の列を見て桂さんは口を開いた。

「あれは・・・君の学校の生徒だな」

「あぁ・・・」

「奇縁というかわからないが、君にとって懐かしい光景ではないのか?」

「あぁ・・・懐かしいよ」

今の俺の気持ちは呟いた言葉の通りだ。ヴァルキリアスになってからまだ10日近くしか経ってないのに、もうあの光景が懐かしく感じている。だからあの光景を見るといろいろなことを思い出す。楽しかった高校生活、めんどくさかった勉強。

そして・・・沙耶花のことも。










若葉野高校に入学することが決まったその時の俺は、春休みが終わった後の始業式を迎えようとしていた。

けど、その時俺は春休みボケのせいか朝から寝坊してしまって、新品の制服に慌てて着替えて通学路を走っていた。額から汗が噴き出して、息を荒くして俺は走った。せっかくの新しい制服がその日で早速汗まみれになる程に俺は全力疾走で学校まで走ってた。

家から学校までは決して遠くはない。けどそんな簡単に辿り着く場所にあるわけでもなく、始業式の時間には走らなければまず間に合わない。こんな時は卑怯だけど自転車で行く手もあったんだけど、こんな日に限って親が自転車を使ってしまっているためその時の俺は走るしかなかった。急がないと、そう思えば思うほど俺は焦ってしまって周りが見えなくなっていた。

だからこそ、十字路を抜けようとした俺は横から迫ってきた自転車に気付かなかった。

「きゃっ!」

自転車の主の短い悲鳴が響いた時には、俺は自転車と激突して地面に倒れていた。自転車の方もその衝撃でバランスを崩して倒れてしまったみたいで、俺の近くにその自転車の主は倒れていた。

自転車の前輪がぶつかった脇腹に広がる痛みを我慢しながら体を起こした俺と同時に、その自転車の主も体を起こしていた。よく見るとその人は青いリボンのセーラー服を着てて、俺がこれから通う若葉野高校の女子生徒だとすぐにわかった。

その女子生徒は俺の方に顔を向けると、慌てて俺に頭を下げた。

「ご、ごめんなさい!急ブレーキ掛けたんだけど間に合わなくて!」

「いやいや・・・こっちもいきなり飛び出したのが悪いんだから気にしないで」

どうやらその女子生徒は自分が悪いと思ってたみたいだったので、俺はそう答えてやった。正直相手がオバサンやオヤジだったら激怒してたけど、同じ学校の生徒なら仕方ないところだ。

そんなことを思っていた時、頭を上げた女子生徒がふと言葉を漏らした。

「あれ・・・もしかして、若葉野高校ですか?」

俺の制服を見て同じ高校だと気付いたんだろう、女子生徒はそう問い掛けてきた。今更かよ、正直俺はそう思ったけど、そのまま俺は応えた。

「あぁ・・・今日から入学するんだけどな」

「えっ!?じゃあ私と一緒なんだ!」

「えっ?」

「私もなんだよ!私も今日から若葉野高校の1年生なんだよ!」

女子生徒はやけに元気な声でそう言った。話を整理すると俺とこの女子生徒は同じ学校に入学する新入生というわけだ。で、入学式の今日にこんな場所でぶつかってるということは、この女子生徒も遅刻しそうになっていたということなんだろう。

大体の状況が理解出来た俺は立ち上がって、彼女に声をかけた。

「立てる?」

「えっ?あ、うん」

そう答えると、その女子生徒は勢いよく立ち上った。自転車から転んだのによくそんな元気よく立てるな、そう思った俺だったけど見た感じ女子生徒は怪我してないみたいだから当然と言えば当然のことかも知れなかった。

そんな時、彼女は俺に声を掛けた。

「あ、ねぇ、あなた名前なんて言うの?よかったら教えて欲しいんだけど」

「えっ?陣内統也だけど?」

「陣内君かぁ。あ、私は草薙沙耶花っていうの。よろしくね」

それが、俺と沙耶花の初めての出会いだった。この時はお互いにこの先仲良くなるなんて思わなかったと思う。

そして、俺が沙耶花を好きになるなんて、この時は思っても見ないことだった。










「陣内?」

ふと桂さんに声を掛けられた。どうやら俺は昔のことを思い出してついぼーっとしていたみたいだ。そのせいでつい足が止まってしまっていたんだろう、いつの間にか俺と桂さんはその場に立ち止まっていた。

「いや、何でもない」

俺はそう答えた。その言葉を聞いた桂さんもそれ以上俺に何か言うことはなく、俺と桂さんは生徒の列が抜けて行った十字路へと歩み始めた。

沙耶花・・・。

沙耶花を失ってからまだ10日ぐらいしか経ってないのに、初めて出会ったあの時のことすらも懐かしく思ってしまう。それが俺には堪らなく嫌だった。いつか沙耶花のことを忘れてしまいそうで怖いからだ。沙耶花を忘れたくない、いつまでも沙耶花を好きでいたい。この想いを失いたくない・・・絶対に・・・。

いや・・・失っちゃいけないんだ。

『想いと怒りは力を与える』。ベガを倒した日に桂さんが言っていた言葉だ。それは人は感情次第でいくらでも強くなることを意味しているけど、俺にとってそれは沙耶花を忘れないためにあり、そして沙耶花を奪った奴を確実に倒すための力となるためにあるんだ。

忘れない、絶対に沙耶花のことを忘れない。改めて俺が胸の中で誓ったその時だった。

俺と桂さんがいる道、いや、その周りにある家や街頭、そして雲で覆われた空も、不気味な紺色の空間に覆われた。色のせいかまるで真夜中のような暗さが漂う不気味な空間、間違いない・・・リビング!

「桂さん!」

「わかっている」

そう答えると、桂さんは右肘を軽く叩いてスペースを起動させた。桂さんの右手から一瞬眩い光が発して、その光と共に桂さんの武器・ザッパーが姿を見せた。その巨大な刃をした薙刀を見た俺も、桂さんと同じように右肘を軽く叩いてスペースを起動させる。俺の右手から一瞬光が発して、同時に俺の武器・デストロンが姿を現した。

俺がそれを手に取った直後、桂さんが口を開いた。

「どうやら奴が私達に気付いたようだな」

「奴?」

「さっき話した『ヴァルキリアスだけを狙う人喰魔』だ。奴の狙いは私達、すぐ近くにいるぞ」

「ここにいるよ」

背後から発した声に俺はすぐさま後ろに体を向けた。俺と桂さん以外の第3者の声、けどそれはとても人のものとは思えない落ち着いた声。その声の主は俺と桂さんが抜けて行った十字路の中央に立っていた。

そこにいたのは、上半身は人のそれとよく似ていて、けど頭と下半身は人のそれと大きくかけ離れた怪物だった。2mは軽く超えている体をしたその怪物の頭は巨大な1つ目のついたどんな生物に例えればいいかわからない不気味な形で、下半身に至っては鋭く尖った4本足に尻尾を生やし、腹部のような場所にも巨大な1つ目がついている。一見するとケンタウロスに近い姿かもしれないけど、頭や足の形状、そして何より頭と腹部の巨大な目が伝説上のケンタウロスと大きくかけ離れていた。

その怪物、いや、その人喰魔は頭と腹部の巨大な目で俺と桂さんのことをじっと睨んでいる。俺と桂さんも同じようにその人喰魔を睨み、そして、俺と桂さんの視線の先にいる人喰魔はゆっくりとその口を開いた。

「2人か・・・少し多いが一遍に食ってしまえばしばらく食わずに済みそうだ」

「相変わらずの小食ぶりだな、ユデム」

「ユデム・・・それがあいつの名前か」

「あぁ。奴は他の人喰魔と比べて極端に人を食わない小食だが、さっきも言った通り私達ヴァルキリアスしか食わない人喰魔だ」

「ほほぅ、ワタシのことをよく知っているようだな。まぁ・・・長い間ワタシの御馳走になってるから当然なのかな?」

「フッ、自身に満ちたことが言えるのも今日までだ。貴様は私達が倒す」

「ククク・・・自身に満ちたことを言ってるのはそっちにも言えたことだよ。それじゃあ早速、頂こうかな」

俺の視線の先にいる人喰魔・ユデムがそう呟くと、ユデムは自分の右手を勢いよく前に伸ばした。すると、その手が突如見えなくなった。

「っ!陣内、後だ!」

桂さんの声に俺が思わず横にステップした瞬間、俺の背後から紺色の皮膚をした手が勢いよく伸びてきた。よく見るとそれは今ユデムが伸ばした右腕、しかもそれは何も存在しない空間に出来た七色に光る不気味な「裂け目」から出てきている。そして手が裂け目の中に戻っていくと、その裂け目は瞬時に閉じて空間から消え去った。

それを見ただけでは何がなんだかわからなかったけど、その後ユデムの消えた右手が元に戻っているのを見て、俺は今までの光景で見たことこそがユデムの能力だと察した。

「これがユデムの能力・・・けど、一体何なんだ・・・?」

「おや?そこのオスはワタシのことをよく知らないのかい?」

「陣内、気をつけろ。奴の能力は空間の操作だ」

「空間の操作・・・?」

「今君が体験したことだ。空間を操って裂け目を作り出して、物体を裂け目を通して自由に移動させる」

「ククク、その通りだよ。つまり、このワタシに『距離』というものは・・・存在しない」

そう言うとクシャルはまた右手を勢いよく伸ばした。けど今度は正面じゃなくて自分の足元に向けて伸ばしている。その右手はさっきと同じように空間に溶けるようにその姿を消した。

瞬間、俺の傍にいた桂さんがいきなりその場から後方に跳躍した。それと同時に桂さんの足元から空間の裂け目が出てきて、その裂け目からユデムの右手が勢いよく飛び出してきた。くそっ、今度は桂さんを狙っていたのか・・・!

裂け目から出ていたユデムの右手が裂け目の中に戻っていくのを目にしたのと同時に、俺は手にしたデストロンを構えて引き金を引く。この一瞬の隙を狙えば確実にユデムを仕留められる。そう思って俺が引き金を引いたデストロンの銃口から青白い光が発した直後、轟音と共に銃口から巨大な光線が発射された。光線はとてつもない勢いで真っ直ぐに突き進んで、前方にいるユデムに襲いかかろうとしている。

だけど、そうだというのにユデムは逃げる素振りすら見せなかった。

「甘いなぁ、実に甘い」

ユデムがそう呟いた瞬間、ユデムの目の前に空間の裂け目が姿を現した。いきなり出てきたそれは俺の放った巨大な光線を飲み込んで、それによってユデムは光線の直撃を回避したのだ。

そして、俺の頭上から青白い光が発した。それに気付いた俺は慌てて横に転がり込んで、その直後、俺が立っていた場所に俺が放った巨大な光線が凄まじい勢いで地面に着弾した。デストロンの光線はアスファルトの地面をいとも簡単に砕いて、それでも止まらない衝撃が地面を伝って俺の体に襲いかかってきていた。

光線が消え去った後、俺は頭上に目を向けて今の状況を改めて理解した。上空に出来た空間の裂け目がさっき俺が放った光線を吸収した裂け目の出口になっていて、ユデムが意図的に裂け目を利用して俺の光線を反射させたのだ。まさかこんなことも出来るなんて・・・!

その時、俺の傍に後方に跳躍していた桂さんが駆けつけてきた。

「大丈夫か陣内!」

「あぁ・・・なんとか」

「気をつけろ、奴の能力は攻撃にも防御にも優れた万能型だ。迂闊に攻撃したら自滅するぞ」

「わかってるよ。でも、どうしたら・・・」

「おやおや?もう攻撃してこないのかい?さっきの光線は眩しくてなかなか良かったのに」

「言われずとも攻めてやる。貴様の弱点はすでに把握している」

「えっ、そうなのか?」

俺は思わず声を零した。ユデムの情報はヴァルキリアスの方には入っているんだろうけど、それでもそんなすぐに弱点なんてわかるものなんだろうか?

そんな疑問を浮かべていた時、桂さんは小声で俺に答えてくれた。

「奴の能力の範囲は自分の視界だけで、それ以上の範囲では能力は使えない。つまり奴は背後からの攻撃に対して全くの無防備なんだ」

「なるほど・・・」

「いいか陣内、私が合図を出したら私と一緒に全速力で奴に接近しろ。その間奴は攻撃を仕掛けてくるだろうが、それを回避して奴の後ろに回り込むんだ」

「あぁ、わかった」

「良し・・・・・・行くぞ!」

小声から力強い声を上げた桂さん。その声が合図だと察した俺は地面を力強く蹴り、ユデムに向かって走り出した。その横に並ぶように桂さんも走っていて、俺と桂さんは互いの武器を構えながらユデムに接近していた。

「ほぉ・・・何をコソコソ話したかと思えば、ただ迫ってくるだけとは。けど近づかせないよ」

そう呟いたユデムは走っている俺と桂さんに頭と腹部の巨大な目で睨みつける。その瞬間、俺と桂さんの前方に七色に光る不気味な空間の裂け目が2つ出現した。あの裂け目に入ったら確実に別の場所に飛ばされる、つまりあの裂け目が奴にとっての攻撃手段ということになる。だとしたら回避するまでだ!

俺はその裂け目と裂け目の間に出来た元の空間のわずかな隙間に向かって跳躍して、その裂け目に触れることなく先に進んだ。桂さんも高く跳躍して裂け目を飛び越えて、俺と桂さんは勢いを止めることなくユデムに接近していく。更に続けざまに前方や足元に出現した裂け目を避けていき、俺と桂さんはユデムの目と鼻の先にまで近づいた。

けど、ユデムも甘くはなかった。俺と桂さんが近づいたのを読んでかユデムは自分の前方全てを裂け目で覆い尽したのだ。七色の裂け目が間を開けずにユデムの前方を覆う様はまるで七色のバリアに包まれているようにも見える。さっきみたいにすり抜けることはできない・・・どうしたらいいんだ・・・。

「跳べ!!」

それは桂さんの声だった。その声を耳にしたと同時に、俺は桂さんの意図がわかった。

ユデムは裂け目で自分の前方を覆っている。けど、必ずしもその裂け目の間を抜けて行く必要はない。出せる最大限の力を足に入れて奴の体を飛び越えてしまえばいい。そうして背後に回り込むことこそが桂さんの意図だったのだ。俺は隣にいる桂さんと一緒に地面を力強く蹴り飛ばし、ユデムの頭上を飛び越えんばかりに高く跳んだ。

想像以上に力が入ったためか、俺の体はユデムの頭上を飛び越えるどころかユデムの頭上の空高くまで飛んでいた。でも横にいる桂さんも俺と同じぐらいのところまで飛んでいるからそこまで驚くことでもないみたいだ。このまま勢いに乗って着地すればそこはユデムの背後、確実に仕留められる。

「なるほど・・・ワタシの弱点の背後を狙う寸法ですか。けど、私の視界を甘く見ては困りますねぇ」

ユデムの不敵な声が耳に入った瞬間、跳躍している俺の足元から裂け目が姿を見せて、その裂け目からユデムの右手が飛び出してきた。ユデムの右手が空中で動きの取れない俺の足を掴むと、その手は俺の体をいとも簡単に地面に向けて投げ飛ばした。

「うぁっ!?」

俺は思わず短い悲鳴を上げた。さっきまで上空に浮いていた俺の体が一気に地面へと落ちていく。数秒としないうちに俺の体は背中から地面と激突して、その反動で俺の体はその場でバウンドした。

痛っ・・・背中に棘が刺さったような痛みがする。それに頭も少し打ったみたいでジンジン痛む・・・。くそっ・・・あの時足を引っ込めてればこんなことになんなかったのに・・・!

俺がそう思っていたその時、俺の右肩に激痛が走った。ユデムの尖った4本の足の1つが、俺の右肩を貫いているのだ。まさかユデムの傍に落ちたなんて・・・痛みで気を取られてて気付かなかった・・・。

つか・・・肩が・・・痛い・・・!!

「ぐあぁっ!!」

「ククク・・・良い鳴き声だ。その声を聞いてるとお腹が減ってくるよ」

「その首、貰ったぁ!!」

怒号のような声がユデムの背後から発した。見ると、ユデムの背後から桂さんがザッパーを構えてその巨大な刃を薙ぎ払おうとしていた。

けど、にも関わらずユデムは余裕だった。

「ワタシの首を貰う?違うなぁ」

そう呟くと、ユデムの尻尾が突如しなやかに動きだして、まるで鞭のような素早い動きで桂さんの手にするザッパーの柄に絡みついた。なんで・・・!?頭の目も腹の目も俺に向いてるのに、なんで後ろから来た桂さんの動きがわかるんだ!?

そんな疑問が頭を過った時、俺の右肩を鋭い脚で貫いているユデムが口を開いた。

「貰うのは・・・君達の体だよ?」

「貴様・・・っ!」

「長い間君達のようなヴァルキリアスと戦ってるとね、わかるんだよ。どういう攻撃をしてきて、どういう風に襲いかかってくるのか。だからワタシはこのオスだけを地面に落してあえてもう1人は背後に回した」

「ん・・・だと・・・!?」

「でも正直2人相手だと骨が折れる。そこでだ、悪いけどオス、君はワタシの見える範囲で大人しくして貰うよ」

「ふ・・ざけん・・・」

「それでメス、まず君から頂くとしよう。もちろん・・・ワタシの見える範囲でねぇ」

ユデムが不敵な笑みを見せながらそう呟くと、ザッパーの柄を絡め取っていた尻尾を勢いよく前方に振り上げてザッパーごと桂さんの体を吹き飛ばした。人の体を軽々と吹き飛ばせるその尻尾の強さに桂さんも驚いてたみたいだったけど、上空で桂さんは仰け反りをして体制を整えて、ゆっくりと地面から着地した。

だけど、桂さんが着地したその瞬間、桂さんの周囲を裂け目が覆い尽した。少しだけ隙間が出来ているけどとてと抜け出せるような大きさじゃない・・・桂さんは完璧に動きを封じられたんだ。

「さて、準備は整った。早速あの体を八つ裂きにしようかな」

「ざっけんな・・・!!」

俺だって桂さんのやられるところを黙って見ているわけにはいかない。右肩が貫かれてかなり血が出てるけど、それでも腕は動かせる。俺は手にしたデストロンをユデムの方に向けて、その引き金を引こうとした。

けどその時だった。俺が構えたデストロンの銃口の目の前に裂け目が出てきたのだ。それだけじゃない、その裂け目が出てきたと同時に俺の体の目の前にも裂け目が出てきている。それはデストロンの銃口の目の前に出てきた裂け目が俺の体の目の前に出てきた裂け目と繋がっていることを意味しているんだ。

つまり、今引き金を引いたら、発射された光線は俺の体に直撃する。

「ククク、理解したようだねぇ。君は大人しくそこであのメスが八つ裂きになる様を見ているんだ」

「くそっ・・・」

「さて・・・ワタシの手で、直々にその手足を引き裂いて上げるよ、ククク」

不気味な笑い声を上げたユデムは両手を構えると、まず最初に右手を勢いよく突き出した。するとそれに合わせてユデムの目の前に小さな裂け目が現われて、その右手を一気に飲み込んだ。

「くっ!」

それと同時に、桂さんの声が発した。どうやらユデムが突き出した右手が桂さんの周囲を覆う裂け目から飛び出しているみたいだ。ユデムは突き出した右手を素早く引っ込めると、右手を飲み込んだ小さな裂け目が消えたと同時に左手を突き出して、それと同時にまた目の前に小さな裂け目が出てきて左手を飲み込んで行った。

「っ!」

どんな発音かわからなかったけど、微かに桂さんの声がした。またさっきみたいに左手が襲いかかってきているみたいだ。この分だと武器で防いでるか回避してるかのどっちかだけど、裂け目で周りを覆い尽されて出来た狭い空間の中じゃ体も自由には動かないはずだ。

そんな桂さんを相手にユデムは右手左手を交互に突き出し続けている。その速度は緩まることを知らない、いや、どんどん速くなってきている。それでも桂さんはあの裂け目に覆われた空間の中で必死に攻撃を防いでいた。

けど、それがしばらく続いた時だった。

「ぐぁっ!」

さっきよりも明らかに苦しさの籠った声が桂さんを覆う裂け目の中から発した。そしてその直後にユデムの引っ込めた右手の指にはユデムの紺色の皮膚とは正反対の真紅の血が塗られていた。

「今の一撃で左肩を突いた。心臓を狙いそびれたのは惜しいけど、美味しい部位が残ったと考えればいいかな」

「なっ・・・桂さん・・・!」

「よく粘ったものだよ。けどそれももう終わり。次の一撃で止めを刺して上げるよ」

指にべっとりとついた桂さんの血を舐めまわしながらユデムがそう呟いて、ユデムは自分の涎で満ちた右手を払って涎を払い落した。そして、最後の一撃と言わんばかりに力強く左手を突き出して、それと同時に出てきた小さな裂け目が左手を飲み込んだ。

けど、その時だった。ユデムの左手を飲み込んだ小さな裂け目からユデムの左手とすれ違うように巨大な刃が飛び出してきた。鋭い輝きを見せる刃は凄まじい勢いでユデムの左腕を切り裂き、そしてその先にあったユデムの左胸に突き刺さった。

「ぐあああああぁぁぁぁうぅっ!!!」

ユデムは断末魔の叫び声を上げた。小さな裂け目から出てきた巨大な刃は見事に左胸を貫通していて、その傷口から血が零れ出ていた。人の身の丈と同じぐらいあろう巨大な刃、間違いない、桂さんのザッパーだ。

ザッパーの刃が小さな裂け目に吸い込まれるように引っ込んでいくと、それと同時にユデムの左胸から刃が引き抜かれて、傷口から大量の血が流れ出した。それによって更に痛みが走ったのかユデムは2度目の断末魔の叫び声を上げ、左胸の傷口を両手で押さえ始めた。

それと同時に、俺の体の目の前と銃口の目の前にあった裂け目が煙のように姿を消した。それだけじゃない、桂さんを覆い尽していた裂け目も同じように姿を消し去り始めている。

「今だ陣内!!」

桂さんの怒号のような声が耳に入り込んで、それと同時に俺の脳が引き金を引けと指令を出した。ユデムが痛みに気を取られて空間の操作が出来なくなった今しか仕留めるチャンスはない。俺は迷うことなくユデムに向けていたデストロンの引き金を引いた。

銃口から青白い光が発して、そして、ユデムの至近距離でデストロンは巨大な光線を発射した。

轟音と共に発射された巨大な光線は至近距離にいたユデムの上半身に直撃し、上半身は光線の中に飲み込まれてしまった。光線の光が消えて銃口から光線が消え去った時、俺の目の前にあったのは上半身が消えてなくなったユデムの下半身だった。

下半身の傷口から噴水のように噴き出した血が上空を舞い、俺の周囲に降り注いでいく。当然俺の体にもそれは降り注いで、俺の顔や純白の戦闘服はあっという間に血で赤く汚れて行った。やがてユデムの下半身は力なく地面に崩れ落ちて、その反動で俺の右肩を貫いていた足はずるりと俺の右肩から引き抜かれた。

痛っ・・・!右肩から足が引き抜かれたと同時に傷口から血が出てきた。傷はそんなに深くないみたいだけどそれでも骨まで刺さっていたからやっぱり痛いものは痛い。けどいつまでもユデムの血を浴びたくないから俺は右肩を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

「ユデム・・・」

その時だった。何処か遠く、周りに立っている家の何処かの屋根から声が発した。誰かいるのか!?そう思った俺はその声が発した方向に慌てて顔を向けると、遠く離れた家の屋上に確かに人影が見えた。

だけど、周りに張られた紺色のリビングのせいでその形がよく見えない。人影にしてはやけに鋭くて横幅が広い気がしたけど、頭、手、足、それは確かに人の形に近いものだった。その人影に俺は声を掛けようとしたけど、その前に人影は風に流れるように姿を消してしまった。

「陣内っ」

ふと、俺の背後から声がした。見ると、それは左肩を押さえながら歩く桂さんの姿だった。手にはもうザッパーはない。それを見た俺も右肘を叩いてスペースを起動させて、光と共にデストロンをスペースにしまった。

そして、俺も右肩を押さえながら桂さんの所へと歩み寄った。

「平気か、陣内?」

「あぁ、なんとか。そっちは?」

「全身ユデムの血を浴びた君に言われるのもどうかと思うが、なんとか大丈夫だ」

「うっ・・・仕方ないだろ」

「フッ。だが、ユデム・・・情報通り手強い相手だった」

「でも、そんなユデムになんであの時攻撃出来たんだ?」

「ユデムも言っていただろう。長い間戦うと相手がどんな攻撃をしてくるかわかると。奴の攻撃は全方位に張られた裂け目から先の読めない攻撃をしてくる、だがそうなるとどうしても裂け目からの攻撃にパターンが生じてしまう。あれだけ短時間に何回も攻撃を防ぎ続ければ阿呆でも攻撃パターンに気付く」

「それでユデムの攻撃と同時に桂さんも・・・」

「そういうことだ。・・・それより、そろそろこのリビングが解けるぞ」

桂さんがそう呟いた直後、俺の周りを覆っていた紺色の空間が一瞬にして消え去って、元の曇り空が広がる住宅街に戻っていった。ユデムの死体があった十字路を見るとそこには何もなく、さっきの生徒の列から遅れていた学ランを着た男子生徒が十字路を駆け抜けていた。

その時、俺はふと自分の体に目が行った。そして驚いた、さっきまでユデムの血で赤く汚れていた戦闘服が元の純白に戻っているのだ。

そんなことに驚いている俺を見て、桂さんが口を開いた。

「人喰魔はリビングを張らない限り姿が見えない。当然それは血液も同じ。だからリビングが解けたら血もなくなる」

「なるほど・・・って、それじゃあ見えないだけでまだ顔とか服にくっついてるってことじゃ!?」

「かもしれないな。もっとも、見えないものにどうこう言っても無駄なことだろうが」

「マジかよぉ・・・」

俺は思わず気の抜けた声を発した。いくら見えないとはいえ、それがくっついていたとはっきりわかっているとはっきり見えなくてもなんか嫌な気分だ。

んっ?はっきり見えない・・・あっ!

「桂さん!」

「どうした?そんな何か思い立ったような顔して」

「いや、これもしかしたら真剣な話になるんだけど」

「っ?なんだ?」

「さっき、ユデムを倒した後、ユデムの名前を呟いた人影が見えたんだ。あの家の屋根から」

そう言って、俺は遠く離れた家の屋根を指差した。そう、俺が思い出したのはさっきユデムのリビングの中で見た人影のことだ。

ユデムの名前を知っているということは、ユデムとなんらかの関係がある人物に違いない。それにこれは俺の気のせいかもしれないけど、4日前のベガを倒した時に感じた視線も今回のとすごい似ている気がする。もしそうだとしたら、そいつは一体何者なんだろうか。

俺の思ったこと、疑問に思ったことを全て桂さんに話した。すると、桂さんはこう答えた。

「なるほど・・・ベガの時と同じ視線か・・・」

「もしかしてヴァルキリアスの仲間が見にきたとか?」

「いや、それはない。バックアップといって緊急時に備えて離れた場所に戦士がつくこともあるが、そういう時は事前に連絡が来るし、何より味方を見て助けに来ない戦士はいないはずだ」

「じゃあ、ホントに一体あいつは何者なんだ?」

「わからない・・・。とにかく、今日は一旦基地に戻ろう。討伐結果の申請をしてからその件は近藤さんと一緒に考えてみよう」

そうして俺と桂さんは基地に戻ることにした。ユデムというヴァルキリアスにとって難敵を倒したのは良いことだけど、俺が見た人影の謎のせいでなんか気分がパッとしなかった。例えるならこの空を覆う雲みたいにモヤモヤした感じだ。

そのモヤモヤは、基地に戻るまで晴れそうになかった。










To be continued...

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あとがきコーナー




管:はいどうもー、毎度ながらやってきましたあとがきコーナー!これも毎度ながらここまでのご拝読、真にありがとうございますm(_ _)m。

ユデム(以後「ユ」):これからもHuman Visionをよろしくお願いするよ。ワタシはもう出ないけど。

管:おぉ、今回はユデムが来たか(☆w☆ )。なんか予想通りだな。

ユ:なんといっても今回の主役はワタシのようなものだったからね。まぁすぐに死んじゃったわけだけど。

管:んー・・・なんかお前の喋り方、若干丸内入ってない?( ̄w ̄;)

ユ:ん?誰かなそれは?大体こんな喋り方にしたのは管理人じゃないか。今更ワタシに文句を言われても困るねぇ。

管:いや、俺としても決して丸内の喋り方にした覚えはないんだけど・・・まぁその辺りの設定も話していくから、そろそろあとがきコーナーを始めるとしよう!


今話はHuman Visionの中では2回目となる対人喰魔戦がメインとなっており、割合的に戦闘場面が半分程占めています。けどこの後↓にいろいろ書くんですが今話の内容、設定の基盤はちゃんと出来てるんですが細かいところは実はほとんど即興だったりと実に曖昧染みたものになっていたりします(ぉぃ。

そんな今話の始まりは前話の続きから始まり、ベガの討伐結果申請場面から。この辺の設定は実は随分前から考えられてはいたんですが、どんな会話をしたりするのかは全く考えてなくて、会話の全てが即興と考えてしまっても過言ではないぐらいです(蹴。あと言っちゃうと丸内が登場してイレイザーのうんたら会話は前から考えていたんですが、近藤が意味深なことを言っているあのセリフ以降の会話場面は全て即興です(殴。

それから4日後、陣内と桂は住宅街の巡回を行う。そこで陣内はかつての沙耶花との思い出をまた思い出す。この設定は当初からあったものなんですが、実は当初の設定では陣内と沙耶花が激突する場所は十字路じゃなくて学校の門前という設定でした。しかしそうなるとわざわざ学校まで移動しなくてはならず、更にはその先に続くユデム戦の舞台がいきなり学校に変わってしまうので「これはいかんwww」ということで没にw。結局平凡的な展開で終わってしまいました・・・w。

陣内と桂の周りに張られた紺色のリビング。それを合図に人喰魔・ユデムとの戦いが始まります。ユデムの設定はベガと同時期に出来上がっていて、その段階でどんな能力を使うかやどんな喋り方をするか等、結構詳細まで設定されていました。けど「ワタシ」とか「~だよ」とかどこか紳士的な話し方を特徴的にしたはずなのに、いつの間にか丸内と同じような喋り方になってしまったwww。こればかりは計算外というか、書いてて起きてしまった事態なので自分としても修正のしようがなくこのまま押し通してしまった次第です><。

ユデムの攻撃パターンを読み、桂が攻めの一手を加える。そしてそれに続けて陣内が放った止めの一撃でユデムを撃退する。実は当初の設定では桂が止めを刺すことになっていたのですが、話が進んでいくにつれて段々桂が追い詰められてしまうような感じになってしまったので、仕方なく陣内が止めを刺す設定に変更しました。ちなみに桂が止めを刺していた場合はザッパーを上空から振り下ろしてユデムの体を斜めに真っ二つにする、という感じでした。

ユデムを倒した後に見えた人影、その謎に陣内も桂も困惑する。果たしてこの後何が起こるのか、それは次回のお楽しみ~。


ユ:なんか今回は随分と即興の産物が多いようだね・・・。

管:まぁ仕方ないと言わざるを得ない(☆w☆;)。でもなんだかんだで話としてまとまっていればそれでいいんだ!

ユ:ダメだこの管理人・・・早くなんとかしないと・・・。

管:ダメだこのユデム・・・早く(喋り方を)なんとかしないと・・・。

バクッ!(ユデム、管理人を食う)

ユ:便乗して変なことを言うとは感心しないよ。さて・・・管理人も食ってしまったことだし今回はここで終わりにするとしよう。

それでは君達、次の話をよろしくお願いするよ。










管:ゴッドマーン、ちょう~おんっぱ!( ̄w ̄ )

ユ:な、なん・・・だと・・・!?一体・・・何処から・・・!?


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