106892 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

休憩場

休憩場

エピローグ

エピローグ











「チィちゃん・・・」

わしは息を荒くしながら道を走った。この老いた体で走るのはいささか厳しいものがあるが、今はそんな甘ったれたことを言っとる場合じゃない。

事はついさっきのことじゃ。ドルトがヴァルキリアスを倒しに行くと言った後、わしとチィちゃんはドルトを待つことになった。けど、チィちゃんはドルトに嫌な事が起きると予感して先走ってしまった。

不甲斐無い・・・わしがあの時ちゃんと止められていれば・・・。もしこれでチィちゃんに何かあったら、わしはこの長い間生きてきた時間で1番後悔することになるだろう。そんなこと、わしは絶対嫌じゃ。

「チィちゃん・・・どうか無事でいておくれよぉ・・・」

チィちゃんはドルトを死なせたくない、つまりは助けたいと思って出張った。ということはチィちゃんはドルトの所に向かったことになる。じゃがドルトは今ヴァルキリアスと戦っておる・・・もしその場所にチィちゃんが行ったりしたらドルトもチィちゃんもどっちも危ないわい・・・!

急がねば・・・!わしはそう思いながら先へ先へと走った。ドルトが戦っておるとしたらこの河川敷の何処かじゃ、そろそろ奴のリビングに入り込んでもいいと思うんじゃが・・・。

わしがそう思ったその時、その想像通りにわしはドルトのリビングを見つけた。一歩踏み出したその先は空も地面も赤紫色に染まった空間。間違いない、ドルトのリビングじゃ。この場所がリビングの端っこなら、この中央にドルトとチィちゃんがおるはずじゃ・・・!

「はぁ、はぁ・・・今行くからのぉ・・・待っとるんじゃぞぉ・・・」

わしはカラカラの息を吐きながら、ドルトのリビングの中を駆けた。ひぃ・・・ひぃ・・・、さっきから走ってばっかのせいか、流石にもう体力が持たないわい・・・。

じゃけど、ここで止まったらチィちゃんに間に合わないかもしれない。どんなに辛くても・・・ここは走り続けるんじゃ・・・!

体を休ませようとする体に鞭を撃たせてわしが走る。そろそろリビングの中央か、わしがそう感じた時だった。

辺りを染めていた赤紫色の空間が、突如血のように赤い空間に染まり始めた。これは・・・チィちゃんのリビング。ま、まさかもうヴァルキリアスと戦って・・・!?

「びぇぇぇぇぇ・・・!!」

微かに泣き声が聞こえた。間違いない、この先にチィちゃんがおる。しかも下手をすればヴァルキリアスと戦っておるかもしれない。急げ・・・急ぐんじゃ!

わしは出せる全ての力を足に費やし、目の前に伸びる道を全力疾走した。この先は海に繋がっておったかのぉ、いるとしたらその傍にあるグランドじゃな・・・。頼む、間に合っとくれ・・・!

泣き声が徐々に大きくなる。もうすぐじゃ、あと数十メートルの場所にチィちゃんはおる!わしは乱れ切った息をそのままに全力でそこまで走り、そして、ついにグランドに辿り着いた。

そして、わしはそれを目にした。

「びぇぇぇぇ・・・・ぇぇぇ・・・・ぇぇぇぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そこにおったのは、チィちゃん。けど、明らかに姿が変わっておった。

わしが知っておるチィちゃんは小さな体の、頭部から直に足が生えた可愛らしい姿じゃが、今グランドにおるのは・・・真白い皮膚をした、象のような太い足を4つ持ち、更に人のような上半身を持ち、長い尻尾をしならせ、鋭い嘴のような口からけたたましい雄叫びを放つ、巨大な赤目の怪物だった。

その怪物は、自分の雄叫びを操ることで周りに倒れたヴァルキリアス達の死体を持ち上げ、自分の巨大な口へと押し込んでいた。巨大な薙刀を持った女のヴァルキリアス、そして巨大なバズーカ砲のような武器を持った少年のヴァルキリアス・・・そいつらを口の中に納めていき、怪物はバクバクとヴァルキリアスを頬張っていた。

わしはその姿に恐怖した。同じ人喰魔じゃが、あんな巨大で禍々しい姿は初めてじゃ・・・。大きさはドルトの一回り大きいぐらいじゃろうか、わからんが、少なくともドルトよりも怪物なのは明らかじゃった。

・・・そういえば、ドルトは何処じゃ・・・?わしは辺りを見回したが、あの巨体は何処にも見当たらない。そしてふとあの白い怪物と化したチィちゃんの足元を見ると、そこには粉が山盛りになっていた。

まさか・・・ドルトが死んだ・・・?じゃあ、このチィちゃんは、まさか・・・。

「みぃ・・・オルガァ・・・?」

その時じゃった、わしの前にいた巨大なチィちゃんがわしに気付いてこちらに近づいてきた。その時わしはようやく気づいた、チィちゃんの赤い目に涙が流れていることを。

じゃから、わしは出来るだけチィちゃんに気を使ってやった。

「おぉ・・・チィちゃん!無事じゃったか!」

「オルガァ・・・ドルトが・・・ドルトが・・・死んじゃったよぉ!」

「うんうん、わかっておる・・・。悲しかったろ、かわいそうに・・・」

「うぐっ・・・ドルトォ・・・」

「それより、わしがここに来るまでに一体何があったんじゃ?チィちゃん、ちと教えてくれんかの?」

「えぐっ・・・チィがここに来て・・・ドルトが、倒れてて・・・・・チィが話しても、返事してくれなくて・・・」

「それで、どうなったんじゃ?」

「うっく・・・ドルトが、チィの頭に手を乗っけて・・・それで・・・『俺の分まででっかく生きろ』って・・・!!」

そこまで言った瞬間、チィは大きな声で泣き始めた。いつもの赤ちゃんのような泣き方じゃない、まるで猛獣が吠えるかのようなけたたましい雄叫びじゃ。それだけでもわしは驚いたが、その泣き声が音の波動となって周りの地面を削り取っているのにはもっと驚いた。まさか音を操る能力がここまで強力なものとは・・・。

じゃが、わしはこれで確信した。どうしてチィちゃんがこんな巨体になってしまったのか、その全てを。

それは、ドルトがチィちゃんの頭に手を乗っけた、いや、触れたことから全てが始まったんじゃ。ドルトがチィちゃんに触れたことでエネルギーを送る「現象」が発生し、命が尽きる寸前にドルトの全エネルギーがチィちゃんに流れ込んだ。その結果、膨大なドルトのエネルギーを受けたチィちゃんの体は急成長を遂げて、本来の成長では成しえなかったあの巨体を得るまでになった・・・。

現象は治癒力の向上と一緒に、成長促進の作用もある。じゃがそれは今まで無意識のうちに起きてきたこと。もし、これがドルトの感情に反応して起きたことだとしたら・・・これは今まで明らかにされなかった大発見じゃ。

じゃが、それよりもまずはチィちゃんを慰めるのが優先じゃ。

「落ち着くんじゃチィちゃん!もう泣くんじゃないわい!」

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぅぅぅ!!!!」

「あんたはドルトに『でっかく生きろ』って言われたんじゃろ!?いつまでも泣いてたら、でっかく生きられないじゃないかい!」

「あああぁぁぁぅぅ!ぅぅぅ・・・ぅぅぅ・・・!」

「チィちゃん・・・かわいそうじゃけど、もうドルトはいない。けど、ドルトの分まで、でっかく生きてやりんさいよ」

「ぅぅぅ・・・オルガァ・・・」

「なんじゃい?」

「チィ・・・なんかおかしいよぉ」

「ん?どうしてじゃ?」

「オルガが・・・小さく見えるよぉ・・・。オルガ、どうして小さいのぉ・・・?」

泣き止んだチィちゃんの言葉を聞いて、わしは思わず吹き出しそうになった。そうか、チィちゃんはまだ気付いてないようじゃの。なら教えてやるかい。

「チィちゃん、それはわしが小さくなったんじゃないわい」

「じゃあ、どうして?」

「それはの・・・あんたが大きくなったんじゃよ」

「チィが、大きくぅ?」

「そうじゃよ~。ほれ、わしをその大きなおててで抱っこしておくれ」

「これ、おててぇ?これで・・・抱っこぉ」

多分チィちゃんは初めて「手」を扱うんじゃろう、自分の手を見ながらそう呟いて、しばらくしてぎこちない動きでわしを掌に乗せた。この辺は多分ドルトが自分にしてくれた時と同じ感じでやっておるんじゃろう。最初はそれで十分じゃ。

「オルガ、抱っこぉ」

「そうそう、抱っこじゃ。そんじゃ、今度はその肩まで移動しちゃおうかのぉ」

そう言って、わしはチィちゃんの腕の上を伝って肩の方へと歩いた。こいつはすごい、まるで岩の上を歩いてるような頑丈さじゃ。そんなことを思いながらわしはチィちゃんの肩まで辿り着き、その肩の上で腰を下ろした。

「みぃ、オルガァ・・・もう来たのぉ?」

「そりゃぁわしはあんたと比べたら全然小さいからのぉ、動きもすばしっこいわい、ウオッホッホ」

「オルガ、すばしっこ~い」

「うんうん、そうじゃよぉ~。さて、それじゃチィちゃんも大きくなったことだし、こんな場所からさっさとおさらばしようや」

「何処行くのぉ?」

「そうじゃのぉ・・・この街から離れて、別の街にでも行ってみるかい」

「うん!」

チィちゃんは元気よく答えると、その象のように太い4つ足を動かし、ゆっくりと歩き始めた。1歩歩くたびに地響きがする、すごい歩きっぷりじゃ。

「ねぇ、オルガァ」

「なんじゃい?」

「チィ、ドルトの分まで・・・でっかく生きれるかなぁ?」

「・・・生きれるよ、あんたなら絶対のぉ」

わしはそう答えてやった。その答えに間違いは絶対ない。それはもう、断言してもいいじゃろう。










あれから数年が経って、

僕はオルガといろいろな街を回った。

この大きな体のせいか、食事はすごい多くなっちゃったけど、

僕は、毎日を楽しく生活してる。

そういえば、最近友達がたくさん出来たんだ。

あと・・・好きな子も出来たよ。

それからね、能力もちゃんと使えるようになったんだ。

今じゃもう人間達を奴らの足音だけで捕まえられちゃうよ。

・・・ドルトが死んでから数年。

僕は未だに、わからないことがある。

ドルトの分まで、でっかく生きること。

僕がホントに出来るのだろうか?

あんなにおっきくて、僕に優しかったドルト・・・。

その分まで、僕が生きられるのかな?

けど、わからなくなる度に、オルガはこう言うんだ。

生きられると思えば、生きられるって。

僕は頭が弱いから、まだその意味がよくわからない。

けど、生きられると思えば生きられるんだから、そう思えばいいんだよね、きっと。

・・・おなか空いたな。

新しい街にもついたし、そろそろご飯にしようかな。










「リビング」










fin...

メニューへ


© Rakuten Group, Inc.