関東と関西の食文化の違いというと、とても興味深い事が多く、知る度に面白さを感じてしまいます。味付けに関する出汁の取り方やしょうゆの違い、料理の呼び名の違いや食材そのものの違いなどもありますが、視覚的にも一番の違いとなっているのは鰻の背開きや腹開き、蒸しといった扱いではないかと思っています。しかし、それ以上に視覚的な違いとなっているものがあります。それが食パンの厚さの違いではないかと思います。
食パンとは日本の食卓ではお馴染みの四角い型に入れて発酵し、焼き上げたパンですが、切り分ける厚さには統一された規格があります。食パンは重量によって「斤(きん)」という単位で数えられます。尺貫法の斤から派生した「英斤」に由来し、350~400g程度(公正競争規約では340g以上)とされ、1斤の半分を均等に何枚に切り分けるかで食パンの厚さが決まります。
関東から関西へと来た方が、食パンの「8枚切り」が売られていない事に驚くと聞かされた事があります。九州では「6枚切り」の食パンが主流であり、少し厚めの「5枚切り」、薄いものではサンドイッチ用の「12枚切り」が売られていますが、8枚切りを見かける事はあまりありません。
また。大阪の下町のパン屋では3枚切りの食パンが売られていて、人気となっていると言います。十数年前、2枚切りの食パンの注文を受けた際、「少し厚いかな」と言われて3枚切りに落ち着き、それ以降、定番となっているそうで、関東の薄切り、関西の厚切りという食パンの厚さに対する好みの違いを伺う事ができます。
食パンの大手製造会社によると、食パンは4枚、5枚、6枚、8枚、12枚とさまざまな厚さで出荷されているそうですが、関東では8枚という薄い物、関西では4枚や5枚といった厚い物が人気となっているされ、銘柄にもよりますが概ね関東では6枚が全体の65%、8枚が20%、4枚が10%程度の売り上げを占め、関西では5枚が45%、6枚が35%、4枚が15%となっていて、関東の薄好み、関西の厚好みが明確に表されています。
そうした好みの違いを検証すると、よく言われる理由として「忙しいから」というものがあり、関東では通勤圏が広い事から朝が忙しく、素早く焼いて食べる事ができる薄い食パンが好まれるようになったとされ、同じく商人が多く忙しい関西では、一度にまとめて焼いて食べられる厚切りの食パンが好まれるようになったと、忙しさと食パンの厚さに対する相反する事が言われています。
食パンに何を塗って食べるかについての好みも別れ、関東ではジャムが好まれ、関西ではバターが好まれるという違いがあるとされ、関東では薄い食パンに何かを挟んでサンドイッチにし、関西では厚い食パンに具材を乗せて一緒にトーストにするといった食べ方の好みの違いもあります。
基本的にジャムはパンに染み込まず、厚く塗ってしまうとそれだけ食べる際の高さが増して食べにくくなる事や、厚いパンでは味が均等にならない事、薄いパンでは焼き上がった際の熱で溶けたバターを充分に染み込ませる事ができない事などが厚さの好みを分ける理由として考える事もできますが、それだけで食パンの厚さの好みが確立されたとは思えません。
関東では、同じ1斤でも枚数が多い方がお得感がある事から薄切りが浸透し、関西では枚数を少なく切った方が早く1斤が売れる事から厚切りが浸透したという、消費者としての関東、商人の関西といった文化的な違いに厚さの好みの違いを求める意見もあり、興味深く思えてきます。
しかし、関西で厚切りが好まれる最大の理由は、関西の「粉物文化」にあるように思えます。関西の食に深く根差している粉物文化によって、お好み焼きやたこ焼きが一食として成立するという食習慣があり、それらは表面はカリっと、中はふわっとという食感が好まれます。食パンでそれを充分に味わうには6枚切り以上の厚さが必要となり、厚切りの食パンが好まれるようになったと考える事ができます。
今日、6枚切りが標準となっている背景には、最初に輸入された食パンを切り分けるスライサーの設定が6枚となっていたからとされます。初期設定を受け入れながら食べやすさを考慮した関東と、初期設定を変更してまで好みの味を追及した関西。粉物を主食と見なすかどうかといった違いも食パンの厚さの違いに繋がっていると思えます。
欧米では、食パンは8枚切り以上の薄さで販売されています。第二次世界大戦後、進駐軍の注文で8枚切りの食パンが多く流通していた名残りが関東の薄切り食パンとも言われ、関西ではいろいろなおかずを乗せて焼く「おかずのせトースト」が好まれている事から、おかずの美味しさを充分に受け止めるには食パンにも主食としてそれなりの存在感が求められ、必然的に厚切りとなったとも言えます。
物心付いた頃から、朝は6枚切りの食パン2枚をトーストでと決めていて、8枚切りや12枚切りといった薄い食パンはサンドイッチのみでトーストとして食べるという発想がなかった事を振り返りながら、どうしても薄いトーストは味わいに欠けるように思える事に、関西の食文化に属している事を再認識してしまいます。