先月14日の日記に続いて、日本国憲法の諸問題に関するちょっとしたお話を書きたい。
日本の司法制度の中でも家庭裁判所はちょっと変わった存在と言えるかもしれない。家庭裁判所は、例えば離婚調停や少年事件の裁判(審判)等を担当する裁判所であるのは周知の事実である。しかし特定の家庭の問題を取り扱うことになるので、裁判の公開は原則としてない(ただし例外あり)。このように一般の裁判所とはかなり性格が違うことから、「普通の裁判所ではない」というイメージを持つ人もいるだろう。あるいはこんな考え方をする人もいるかもしれない。
「家庭裁判所は、日本国憲法第76条2項によって禁止されている特別裁判所ではないのか?」
家庭裁判所の合憲性について実際にあった訴訟を紹介する。児童に対してわいせつな行為をしたことにより(第一審の)名古屋家庭裁判所で懲役3ヶ月の刑を科せられた被告人が、第二審判決後に「第一審判決は、憲法に違反して構成された裁判所によりなされたものであって、判決内容自体も違憲無効だ」と主張した事件である。
つまり、「特別裁判所とは特別の身分を有する者又は特別な種類の事件だけに対して裁判権を行使する裁判所をいうのだが、家庭裁判所はそのような意味で特別裁判所である」というのが被告人の主張だ。
家庭裁判所は特別裁判所か?答えは、ノーである。
最高裁判所の判例では、以下の理由による。
・
家庭裁判所は、最高裁判所(憲法第76条1項)を頂点とする裁判所システムの枠内にある裁判所である。また、一般に司法権を行使する通常裁判所の系列に属する下級裁判所として裁判所法により設置されたものである。
・
通常裁判所の系列に属するということは、その裁判について上訴(控訴・上告)ができ、その裁判所(ここでは家庭裁判所)の裁判官が通常の裁判所の裁判官と同じ身分を有するものという意味である。
・「特別の身分を有する者又は特別な種類の事件だけに対して裁判権を行使する裁判所」と主張するが、
家庭裁判所の場合、少年法で定める罪についての成人による刑事事件を扱うことは、通常の裁判所の間における「事務管轄として所管事務の分配」である、とした。
戦前の日本には行政裁判所や軍法会議といった機関が特別裁判所として認識されていた。ではなぜ、日本国憲法では特別裁判所を禁止しているのか?
最大の理由として、
最高裁判所を頂点として司法権を統一することによって、全ての国民に対して公平な裁判を受ける権利(憲法第32条)を保障することが挙げられる。また、裁判所の中で秩序ある法令解釈を行うことにより、法の下の平等(憲法第14条)を保障するという観点も挙げられる。
以上により、家庭裁判所が特別裁判所ではないことが証明された。
ちなみに・・・2005年に発足した知的財産高等裁判所であるが、これは東京高等裁判所の特別の支部である。高等裁判所も最高裁判所を頂点とする裁判所システムの枠内に入っていること、そしてその東京高裁の支部であることから、知的財産高裁も特別裁判所ではないと証明できるのだ。
ちなみにドイツは大陸法の影響からか、特別裁判所がたくさん設置されている国の代表例である。通常裁判所のほかに、連邦憲法裁判所、行政裁判所(行政訴訟等を担当)、労働裁判所(労働審判等を担当)、社会裁判所(年金、社会保障等を担当)、そして財政裁判所(税務問題等を担当)の合計6種類がある。
私から見たら、面白くて面白くて仕方がない分野である・・・!
以上、Nishikenの憲法講座でした。