今から約30年前、日本では東京から首都機能を移転する議論が活発化していました。ちなみに「遷都」とは全面的な首都移転です。一方で
「首都機能移転」と言う場合、
首都機能を構成している機関(国会、中央省庁の本庁、最高裁判所など)の一部を東京23区内から他地方(千代田区から60km以上離れた地域)に移転することを言います。
約30年前のバブル期には、首都圏での土地価格が高騰していました。さらに阪神大震災や地下鉄サリン事件もあり、災害対策やテロ対策という名目でも、首都機能移転についての議論が盛り上がっていました。1999年12月には国会等移転審議会が
3つの首都移転候補地を答申しました。
(1)栃木県(那須塩原市、那須郡那須町)&福島県(白河市)
(2)岐阜県(多治見市)&愛知県(瀬戸市)
(3)三重県(伊賀市)&畿央(滋賀県甲賀市)
私だったら「首都移転候補地」としては(1)を支持します。主な理由は、東北の経済の振興です。(2)(3)はすでに太平洋ベルト地帯に位置しており、交通上、経済上の大きな利益をすでに受けています。これに対し、(1)では「大都市」というと宮城県仙台市しかありません。そのため、多くの若者が職を求めて地元を離れて東京に移住してしまう・・・ということが終戦直後から続いてきました。
(1)にできる「新首都」の名称は、福島県
「新開(しんかい)市」とでも名付けましょうか。由来は「新しく開かれた土地」から。
もし実現していたら今頃どうなっていたことか。外国にたとえると、
「新首都」=ワシントンD.C.、キャンベラ、ブラジリア
「旧首都・東京」=ニューヨーク、シドニー、リオデジャネイロ
のような立場だったでしょう。
韓国では首都機能の一部(中央省庁の本庁の一部)が、2017年にソウルから中部の
世宗(セジョン)市に移転しました。かつて日本で議論された「首都機能移転」は、韓国の実例に近いのかもしれません。
ドイツでは1990年に東西ドイツの再統一以降、首都・ベルリンと旧首都・ボンとの間で首都機能の移転がありました。大統領府や国会はベルリンに移転しました。しかし一方でベルリンから一部の中央省庁がボンに移転しているそうです。
でもこんな見方をすることもできるでしょう。東京一極集中と人口の密集の緩和を目的に首都を移転したはずなのに、
栃木県北部や福島県南部では「新首都」建設のための大規模な開発がすすみ、「生態系の破壊」「営農人口の減少や、得られるはずだった農産物の利益補償」が深刻な問題になっていたかもしれません。
ですが候補地が決まってからは、首都移転の議論が急速に下火になりました。'90年代後半には土地の価格が下落しました。さらに'99年4月の東京都知事選挙では石原慎太郎氏が当選。
当時の石原都知事は「東京からの首都移転には絶対反対」を公約に掲げ、現に都知事在任中はその姿勢を貫きました。
石原都知事(当時)が出演した「首都移転反対」のポスター(東京都 政策企画局)
結局、国会では2003年に衆参両院の
「国会等の移転に関する特別委員会」にて、
「移転は必要だが、3候補地の中でどの候補地が最適なのか、絞り込めない」形で中間報告を採択しました。これは事実上の凍結宣言であり、その後、国政での話し合いは行われなくなりました。当時の石原都知事が声高に主張したことが通ったことになったのだと思います。
現在の日本では一部の中央省庁を地方都市に移転するという形が進められています。
2023年3月27日には
文化庁が京都市に移転します。明治維新以来、中央省庁の本部が地方都市に移転するのは初めてです。なお、数年前からは消費者庁が徳島市に移転する動きがありますが、具体的な進展が見られないのが現状です。
他にも、
観光庁:北海道、兵庫県
特許庁:長野県、大阪府
総務省統計局:和歌山県
中小企業庁:大阪府
気象庁:三重県
という移転計画が内々で進められているそうです。