病気発覚異常を初めて指摘されたのは、弦ちゃんの3,4ヵ月検診の時でした。それまでは、よく笑うようになってきたし、私の事もしっかり分かっているし、おっぱいもよく飲むようになり、何の疑いもなく、順調に育っていると思っていました。 首がまだ据わっていないのも、この時期にはよくある事みたいだし、そんなに気にしていませんでした。 なので、初めて指摘された時は、本当にびっくりしました。 このお医者さんの言う事は間違っている、とさえ思いました。 しかし、この3,4ヵ月検診の指摘をきっかけに、私達は知るのでした。 弦ちゃんに、とても重い障害がある事を… 【 3,4ヶ月検診 】 市の3、4ヶ月検診は、みんな一斉に行う事になっていて、弦ちゃんは4ヶ月半になった頃に、検診の日が来ました。 市の検査施設まで、電車とバスで、弦ちゃんをスリングで抱いて行ってきました。 着いて、まずは保健師さんや、栄養士さんの話を聞きます。 その後、一人一人保健師さんと、困っている事がないか等の話をしました。 そして、身体測定をし、医師の診断。 その時、弦ちゃんはすっごく眠くて、ご機嫌斜め。 裸にされ、診察台の上に乗った途端、周りがビックリする位の大声で泣き出してしまいました。 それを見た先生が、 「何だ、この子は。何でこんなに泣くんだ?!障害でもあるのか?」 と言ってきたのです。 私はそんな事言われるとは思わなかったので、 「そんな事ありません!眠い時間なんです!」 と言い返しました。 その後、先生は、弦ちゃんの体を見たり、母子手帳の記録を見て言いました。 「頭囲が随分小さいな。大泉門も閉じているぞ。上あごがへこんでいるぞ。 どこで産まれたんだ?ふ~ん、○○病院か。障害があるとか言われなかったのか?」 あっという間に、次々に言われるだけ言われて、私はただただ、ビックリしてしまいました。 質問する暇もなく、何を言われているのかも分からず、その診察は終わってしまいました。 あまりにもビックリして、ショックを受けているところへ、一緒に診察に入っていた保健師さんがやってきて、フォローの言葉をかけてくれました。 そしてとりあえず、かかりつけの病院へ相談するように言われました。 頭が小さい?!大泉門が閉じている?! そんな事は、1ヶ月検診でも言われなかった。 何かの間違いじゃないか? だって弦ちゃんはこんなによく笑っている。 障害がある訳がない。 頭囲が小さいのだって、個性かもしれないじゃないか。 何を変な事言ってるんだ! 私は意味もなく、検診をした医師に怒っていました。 確かにあまりにも、こちらのショックを考えない発言で、正式に検査をした訳でもないのに、不安ばかりを煽るような診察でした。 何でそんな事を言うの?!どういう事??と不安で頭がいっぱいになりました。 帰ってすぐに、父ちゃんに話をしました。 とりあえず、近くのかかりつけ病院へ行こう、という事になり、三人で行ってきました。 【 かかりつけの病院で 】 かかりつけの病院へ事情を話して、診察時間ではないけど、急きょ診てもらう事になりました。 私は、4ヶ月検診で言われた事を、出来るだけ正確に伝えました。 すると先生は、 「大泉門が閉じていて(普通は1歳半位で閉じる)、頭が小さいという事は、二つの可能性があります。 一つは、頭の骨の異常で、骨が早くにくっついてしまう病気です。 この場合、大きくなるにつれて脳が圧迫するので、早急に骨を広げる手術をします。治る可能性は高いです。 もう一つは、脳の異常です。これは、治す方法はありません。リハビリ等で発達を促すようになります。」 と言う事でした。 「とにかく、CTを撮れば直ぐに分かるので、まずは大きな病院で検査をするように」 と言われ、家から一番近い大学病院を紹介されました。 どちらにしても、とても大きな病気みたいです。 とにかく検査してみないと何も分からない、とは思うもの、何かとてつもなく大きな不安で、 夜も眠れませんでした。 弦ちゃんを寝かせてから、一人パソコンに向かい、とにかく情報を得ようとしていました。 ・骨の異常→病名は『頭蓋骨縫合早期癒合症』。 脳外科で、骨を開く手術を成長に合わせ何度か行う。かなりの大手術らしい。 ・脳の異常→小頭症。程度はさまざま。現在の医学では治らない。 私は、弦ちゃんの様子を見て、ちゃんと目を合わせたり、反応したりするので、脳の異常はないだろうと思っていました。 なので、骨の異常の事ばかりをネットで検索して、 「あ~、こんなに大手術しなきゃいけないんだ…こんなに小さいのに、可哀そうに…」 と心配していました。 【 大学病院での初診・検査 】 大学病院での初診。 父ちゃんは仕事なので、私の母についてきてもらいました。 診察は、新生児担当のN先生でした。 私達は、今までの経緯を出来るだけ細かく話しました。 先生は、弦ちゃんの体を丁寧に診察し、首の据わり具合やお腹の様子など、全身をよく診てくれました。 そして、 「4ヵ月半で首が据わらない子はいくらでもいますし、頭囲も少し小さいだけで、笑ったり、母親をしっかり認識しているようですので、あまり心配はいらないでしょう。 でも、CTを撮って検査してみないと分からないので、検査しましょう。」 との事でした。 あまり心配いらない という言葉に、少しホッとしました。 CTの検査の日。 弦ちゃんは、初めて睡眠薬を飲まされました。 甘くしてあるみたいですが、おっぱいしか口にした事のない弦ちゃんは、激しく抵抗しました。 泣いて泣いて、その後、口直しにおっぱいを飲んでも、薬と一緒に吐き出してしまいました。それでも、少しは体に入ったのが効いたのか、ウツラウツラと眠ってしまいました。 CT検査は、動いてはいけないので、体をグルグルに固定されての検査でした。 検査の後も、麻酔の効き目が抜けないのか、いつもよりも首がクタクタになり、体全体が力が抜けたようになってしまいました。 それでも、初めてのCT検査は無事に終了しました。 【 大学病院での検査発表 ・ 検査 】 いよいよ、検査発表の日。 父ちゃんは、夜勤明けの体で、病院に駆けつけてきました。 私の母も一緒に着いてきてくれました。 この日まで、とても不安な気持ちで過ごしていました。 でも、どんな検査結果であれ、全て受け入れよう、と心に決めていきました。 先生は、CTの画像を広げて、説明を始めました。 「検査の結果、骨と脳との間に、隙間が見られます。 いわゆる、脳が小さい状態です。 骨の異常なら、外科手術をする事が出来ますが、脳の異常なので、外科的に何かをする事はありません。小頭症という事になります。 今後は、運動機能、知的機能に遅れがみられるでしょう。 リハビリをして発達を促していくようになると思います。」 「原因は、調べて分かる場合もありますが、分からない(既に痕跡が消えている等)場合もあります。 妊娠初期の脳が形成される段階で、何らかの原因でダメージがあったのでしょう。 脳室が大きく、中に石灰化した部分が見えますので、何かのウイルスにかかった痕と思われます。」 頭を殴られたようでした。 私達は、予想もしなかった結果に、体が硬直して、頭が真っ白になってしまいました。 まさか、脳の病気とは…!! あまりのショックに、言葉が出て来ません。 何も言葉が出てこない私達の代わりに、母が矢継ぎ早に質問していました。 「手術はないのか。薬はないのか。遺伝的要素はあるのか。これからどうなっていくのか。 歩けるのか、話せるのか…」 先生は、一つ一つの質問に対して、冷静に、きちんと説明してくれました。 「小頭症と言っても、重い子から、軽い子まで、色々います。 重い子は、一生寝たきりで動けず、しゃべれない子もいます。 軽い子は、お勉強は出来なかったり、走るのが遅かったりしますが、ランドセルを背負って学校に行っている子もいます。 今の段階では、どうなるかは、分かりません。 また、遺伝ではありません。 たぶん、ウイルスが原因と思われますので、今から調べていきます。 手術や薬など、治療法もありません。今後は、治していくというより、今ある機能がなくならないように、手助けをしていくだけです。」 原因を確定する事で、これからの対応が変わる、というのと、 小頭症の子は、重複障害を抱えている場合が多いので、徹底的に調べましょう、というので、それからすぐに、2時間半に渡る検査が始まりました。 とりあえず、その当日にできる検査だけ、と言う事で、 眼底・白内障検査、血液検査、超音波検査を行いました。 弦ちゃんは全ての検査に、力の限り抵抗し、大声で泣いて嫌がりました。 眼底検査など、大人でも辛いのに、4ヶ月の弦ちゃんは泣いて動いてしまう為、大人二人掛かりで抑えられての検査でした。 その後、2ヶ月半に渡って、全身の検査を行いました。 血液検査、眼底検査、超音波に加え、脳波、心臓エコー、内臓エコー、聴力検査(脳波のように、眠らせてコードを頭に付けて行う) MRI(音がものすごくうるさくて、途中で起きてしまう為、何回も睡眠薬を飲まされました) どれも、小さな弦ちゃんには辛い検査ばかりでした。 殆どの検査が、睡眠薬を飲まなくてはいけなくて、これを飲ませようとする度に、大声で泣いて暴れ、無理やり流し込むように飲ませていました。 それでもなかなか寝れない事もあり、一つの検査にすごく時間がかかりました。 病院で辛い事が重なり、家でもよく泣くようになりました。 弦ちゃんにとっては、相当嫌な検査だったと思いますが、本当によく頑張りました。 【 検査結果 】 検査の結果が出ました。 血液検査により『サイトメガロウイルスによる感染』との事です。 初めて聞くウイルスの名前に、先生は説明をしてくれました。 「日本人の90%以上の人が既に感染して抗体を持っています。 しかし、抗体を持っていない妊婦さんが妊娠初期に感染すると、まれに、胎盤を通して胎児に感染します。 かかっても、殆ど無症状で、感染しても気付かない事が多いです。 人から人へ、体液、涙、汗、母乳等から感染していきます。 普通に生活しているだけで、感染していくのです。 また、風疹やトキソプラズマの様に抗体を人工で作る事が出来ない為、予防する事は不可能です。」 私は、自分が妊娠中に感染したので、自分のせいだという思いから、 何とか気付けなかったのか、何とか防ぐ事は出来なかったのか、 何度も尋ねました。 しかし、 「予防する事も、かかってから治療する事も出来ない、防ぎようがなかったのです。」 とハッキリ言われました。 そして、 「その他の検査の結果、脳以外に異常は見当たりませんでした。 脳波も、心臓も、内臓も、目も、耳も、正常です。 しかし、この病気の特徴として、難聴とてんかんになりやすいので、今後も継続して、脳波と聴力検査は行っていきましょう。」 これを聞いて、とにかくホッとしました。 弦ちゃんは、脳以外の場所で今のところ、悪いところはないみたいです。 それだけでも大きな救いでした。 【 私達に 何が出来るのか 】 弦ちゃんの病気の事を知って、私達はとてもショックを受けました。 誰でも、自分の子に障害がある事を知ったら、とてもショックだと思います。 なかなか、すんなりと受け入れられるような事ではありませんでした。 父ちゃんは、検査結果を聞いた帰り道、バイクに乗りながら、一人、男泣きをしたそうです。 私は、何が一番ショックだったかと言うと、 「脳は一度傷ついてしまったら、治す事は出来ない」 という事実でした。 もし、少しでも可能性があるものなら、 世界中のお医者さんを探し回ってでも、治そうとしたかもしれません。 でも、弦ちゃんの脳は、現在の医学の力では何も出来ないのです。 それでも不思議な事に、私は、とても大きなショックを受けたのですが、 それが辛い事、悲しい事とはどうしても思えませんでした。 弦ちゃんの障害が、どれ程か分からなかったので、 よく笑う弦ちゃんを見て、あまり重度の障害という実感が湧かなかったのもあります。 それよりも、弦ちゃんにどんな障害があったとしても、 私達にとって、世界中の誰よりも可愛い弦ちゃんに、変わりはありませんでした。 この可愛い弦ちゃんを見ながら、将来の事を暗く考える事は、とても出来ませんでした。 この子には、明るい未来しかないように思えたし、 実際、弦ちゃんと接していると、暗い気持にはなれなかったのです。 顔を合わせれば、満面の笑顔。 抱っこすれば、本当に嬉しそうに甘えてくる。 何よりも父ちゃんと母ちゃんが大好きで、近づくと、全身で嬉しさを表現していました。 幸いな事に、私は、その可愛い弦ちゃんと毎日一緒にいる事が出来て、 おっぱいをあげたり、おむつを替えたり、お話したり、お風呂入れたり、 そんな毎日の日常が、とても有難く、癒され、前向きに考える事が出来ました。 もし、骨の病気だったら。 とても大きな手術をしなくてはいけない。 痛い思いを何度もしなくてはいけない。 手術の後は、離ればなれにされるだろう。 弦ちゃんは、きっと痛くて辛くて寂しくて、泣き叫んでいるかもしれない。 そんな辛い思いをしなくていいんだ。 この病気は、弦ちゃんにとっては、痛くも痒くもないんだから。 私達は、少しでも不安に思う気持ちが出ると、夫婦でよく話をしました。 将来、どんな風になっていくんだろうね。 少しでも、成長していくのかな。 私達が死んだあと、どうなるのかな? 私達は、弦ちゃんに何が出来るのかな? 将来、どんな風に成長していくのかは、医者にも分からなかったし、私達にも分かりませんでした。 将来の事を不安に思うのは、無駄な事だと思ったし、今やれる最大限の事をやるだけだと思いました。 弦ちゃんが、弦ちゃんらしく、自分の人生を生きがいを持って、楽しく生きられるように、全力でサポートしたいと思いました。 今、やるべき事をやろう。 人とは比べない。あせらない。あきらめない。期待しない。 出来ない事よりも、出来る事を見ていく。 夫婦、仲のいい事はとても大事な事だね。 弦ちゃんがいつでも、愛に溢れた、楽しい人生を送れるように、 まずは私達が、お互いを思いやり、楽しい人生を送ろうね。 父ちゃんが、こんな風に言っていた。 『これから周りの子とは明確な差が出てくると思う。 差別や偏見もあるかもしれない。 でも、君は君の決めたスピード、歩調で歩いて行けばいい。 父ちゃん母ちゃんも、君のスピードに合わせて行く事に決めたから。 旅行するにも、新幹線で行けば早く行けるけど、風景が見えないだろう? 車で行けば車窓から色んな風景がみえる。 自転車で行けば、土地の匂いや雰囲気見える。 徒歩で行けばその人の話し声や表情が見えるだろ。 ゆっくり生きていけば出来る事は限られていくかもしれないけど、 濃密な人生が歩めると思う。 優雅な旅だ。 』 本当にそうだと思う。 弦ちゃんは、ゆっくりの人生を歩いている。 その人生は、とても濃厚で、せわしい現代社会の風に流される事なく生きられる。 可愛い 可愛い 弦ちゃん 大好き 大好き 弦ちゃん 一緒に楽しい事、た~くさんしようね。 父ちゃんも母ちゃんも、弦ちゃんの事、いつまでも見守っているからね!! 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