カテゴリ:本の感想(さ行の作家)
坂木司『切れない糸』 ~東京創元社~ 俺、新井和也は、就職先がなかなか見つからずに、焦りを感じていた。 実家は、クリーニング屋。両親、アイロン師のシゲさん、三人のおばちゃん(松竹梅トリオ)が中心に、店を切り盛りしていた。店を継ぐ気はなかった和也だが…。 父親が、突然倒れた。脳溢血だか、なんだかと聞かされた。そしてそのまま、死んでしまった。 臨時休業のまま、一か月が過ぎる。シゲさんは、放心状態にあった母や俺に檄を飛ばす。店を継ぐ気などなかった俺だが、そのとき、店を手伝うと言ったのだった。 それから。いろんな失敗をしたり、注意されたり、いやな気分になることもあるが、俺は仕事を続けていった。そんな中で、俺はいくつかの「事件」に関わることになる。 しばらく前からこの町に住んでいるのに、スーパーの中の売り物コーナーのことを知らず、和也に、そういう細かいことから、近所の店の位置、料理の仕方などを、とつぜん聞いてくるようになった、一児の父。 幼い頃から学校が一緒だったがあまり交流のなかった女友達。まじめで、目立たないかっこうをしていた彼女が、髪を短くし、染め、服装も変わっていった。彼女の母親は、そんな彼女の心配をする。 妙な衣装を、クリーニングに出してくる男。気さくな人だと思っていたのに、あるときは妙につっかかるような物の言い方をしてくる。店のおばちゃんたちも、男の職業に興味をもちはじめる。 商店街で目撃されるようになった「幽霊」。声をかけると、「幽霊」はすっと角を曲がり、すぐ後を追っても、いなくなってしまうという。 和也は、これらの「謎」に、関わってしまう。そこで彼が相談に行くのが、彼の友人、沢田直之。彼は、事件の謎を解きほぐし、そしてその後のことにまで気をかけている、そんな男だった。 坂木司さんの最新作。『青空の卵』にはじまる坂木&鳥井シリーズにかわる、新シリーズ(なのだと思う)である。 一人称の「俺」には、困ったこと、悩み事を抱えた生き物や人々がやってくる。悩みなどを抱えた人たちを、ひきつけてしまう体質のようだ、と思っている。いろんな動物をひろってあげたり。 彼の相棒となる沢田さんは、喫茶店でバイトをしている。料理がうまく、推理力がばつぐん。内容紹介にも書いたが、ただ事件の謎を解くだけではない。その後に、どうするべきか、どうするのが良いのか、そういうところまで気を回す青年。人の話を聞き、的確なアドバイスをするが、自分のことはほとんど話さない、少し他人から距離をとったスタンスをたもっている。 この二人が、和也が関わる「謎」を解いていく。 …という、内容紹介よりも。 やっぱり、坂木さんは、登場人物をとても大切にする方だなぁ、と思う。前シリーズでも感じたけれど、前の短編で事件の当事者として出てきた人々が、その後の話にも、きちんと生きている。だから、坂木さんの物語は、連作短編集のようでもあり、全体で一つの物語になっているようにも読める。 そして、優しい。もちろん、中には、つらいこと、悲しいこと、怒りたくなること、ネガティブな要素をもつことはたくさん描かれている。けれども、全体に漂うのは、優しさだと思う。 昨日は、小路幸也さんの作品を読んだ。小路さんの作品も優しさにあふれていると思う。そして、明日からは加納朋子さんの小説を読むつもり。こうして、三作続けて優しい物語にふれる。うん、なんだか良い気分。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[本の感想(さ行の作家)] カテゴリの最新記事
|
|