カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『不死蝶』 ~角川文庫、1975年/春陽文庫、1996年~ 金田一耕助シリーズの長編です。角川文庫版では「人面瘡」も収録されていますが、そちらは、同文庫新版の金田一耕助ファイル6の表題作となっていますので、今回は再読しませんでした。というんで(?)、今回は春陽文庫版『不死蝶』を再読しました。角川文庫の、杉本一文さんの表紙絵は大好きなのですが、『不死蝶』ばかりは、春陽文庫版の方が好きなのです…。 前置きが長くなりましたが、内容紹介と感想を。 信州は射水には、互いに憎み合っている名家があった。戦後その勢力を失ってしまう玉造家と、戦後成功をおさめた矢部家である。 金田一耕助のもとに、矢部家の当主・杢衛から手紙が届く。折り入って相談があるという。 射水という町の名前に聞き覚えのあった金田一だが、調べてみると、その理由が分かった。ブラジルの大富豪・ゴンザレスの養女となった日系二世の鮎川マリが、静養に訪れているのだった。 依頼自体には心をあまり動かされなかった金田一耕助だが、射水に鍾乳洞があるということで、多少の関心をもつ。さらに、出発の直前に彼に届いた脅迫状により、ますます興味を抱いたのだった。 射水に向かう電車の中で、金田一耕助は、頬に傷のある男と出会う。少し話を聞く中で、射水では23年前に、矢部家と玉造家に関わりのある殺人事件があったというのだ。矢部杢衛の子供、真一郎の次男・英二が、玉造家の娘・朋子に、鍾乳洞の中で殺されたとされているのだ。朋子は、鍾乳洞にある底なし井戸に身を投げて死んだことになっているが、ひそかに町の教会の神父に救われ、国外に逃亡したという噂もあった。 マリたちは、もてなしのお礼にと、射水の人々をパーティーに招待する。彼女たちは、玉造の別宅で過ごしていた。しかし、パーティにはマリの母親が姿を見せようとせず、人々は、23年前に死んだとされる朋子=マリの母親の君江という疑いをさらに強めるのだった。 パーティの中、君江が鍾乳洞に入っていったという知らせが届く。人々が鍾乳洞で彼女を捜している中で、ついに殺人事件が起こった。 常々思うのは、横溝さんの作品のタイトルがなんとも魅力的だなぁということです。『不死蝶』。なんてわくわくするタイトルでしょう。 本編では、23年前の事件の犯人とされている朋子さんが、「あたしはいきます。でも、いつかかえってきます。蝶が死んでも、翌年また、美しくよみがえってくるように」と書き置きを残していました。それが、タイトルの由来になるのですね。 この事件は、正確な年代が明記されていませんが、『八つ墓村』の後の事件です。『犬神家の一族』よりも後ですね。『犬神家』事件で金田一さんの名前が信州で有名になって、本編の活躍につながるのです。先日読んだ短編「香水心中」は、『不死蝶』事件よりも後のことになります。 今回いちばんわくわくしたのは、金田一さんがある人物に罠をかけるところですね。金田一さんのさりげない罠が大好きなのです。 *表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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