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2009.05.15
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原野昇/木俣元一『芸術のトポス(ヨーロッパの中世7)』
~岩波書店、2009年~

 岩波書店から刊行されているシリーズ「ヨーロッパの中世」の第7巻(第6回配本)です。
 原野先生は、中世のフランス文学がご専門で、私は先生も訳者の一人である『狐物語』(岩波文庫)を読んだことがあります。
 木俣先生は、中世美術史がご専門で、シャルトル大聖堂のステンドグラスに関する著作があります。木俣先生の著作を読んだのは今回が初めてですが、とても優しい(また、易しい)語り口で、その文体のファンになりました。もちろん、内容面も非常に勉強になりました。
 さて、本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
序章 中世芸術に近づく、中世芸術が近づく (木俣元一)

第I部 社会のなかの文学―フランスを中心に (原野昇)

はじめに―文学の場
第一章 文学の場としてのキリスト教
 1 フランス文学の揺籃としての教会
 2 聖人/聖母崇拝・聖地巡礼と文学
 3 イマジネールにおける巡礼と煉獄の誕生
 4 異教徒との戦いをうたう叙事詩
 むすび―上からの言説
第二章 文学の場としての宮廷
 1 ギヨーム九世と南仏抒情詩
 2 ヘンリ二世の宮廷と物語(ロマン)の誕生
 3 シャンパーニュ伯の宮廷とクレティアン・ド・トロワ
 4 宮廷風恋愛
 5 文学活動における女性の活躍
 6 ドイツの宮廷
 むすび―個の確立による横への言説
第三章 文学の場としての農民と都市民
 1 描かれた農民
 2 描かれた都市民
 3 裏からみた聖職者
 4 裏からみた騎士
 むすび―下からの言説

第II部 人間とイメージ―中世美術へのアプローチ (木俣元一)

第四章 場所と空間
 1 美術のある場所
 2 芸術制作の場
 3 空間とその表現
 4 風景の「発見」
 5 中心と周縁
第五章 物語と時間
 1 中世の時間概念と美術
 2 物語の論理と構造
 3 「タイポロジー」という手法
 4 記憶と想起のはたらき
第六章 言葉とイメージ
 1 見ることと読むこと
 2 言葉からイメージへ
 3 イメージのなかの文字
 4 映像化される声
 5 文字としてのイメージ、イメージとしての文字
第七章 見えるものと見えないもの
 1 中世美術と「見えないもの」
 2 物質とイメージ
 3 聖遺物と美術
 4 「聖なる顔」を求めて
 5 見えないものを「見る」

終章 ホモ・フィンゲンス(表象する人間) (原野昇)
 1 表出への欲求―精神の勢い
 2 宗教の場と芸術
 3 遊びと芸術
 4 異化―ミメーシスとイマジネール

参考文献
索引
ーーー

 それでは、興味深かった点を中心に、いくつか書いておきます。

 まず、冒頭にも書きましたが、序章での木俣先生の文章に引き込まれました。読者に語りかけるような文体、身近な例を挙げながらの話の展開、そして、まずは中世芸術の雰囲気を感じてみましょうというスタンスがとても魅力的です。
 たとえば、「「わかること」へのいろいろなアプローチ」という項では、学術的な研究のように、対象を細かく分析していくことで理解するという方法もあるけれど、理解の仕方はそれだけではなくて、いっぱいある。比喩を通じた理解(鳥の巣と人間の家は違うけれども、でもこの比較で鳥の巣についてのイメージはつかめる)もあるし、そうしたアプローチによって、新鮮な理解が得られることもあるよ、というのですね。具体的に美術について挙げている例でいえば、今日のフィギュアとキリストやマリアの礼拝用の彫像が似ていなくもない、といいます。とにかく、難しいことは言わないから、まずは中世の雰囲気を感じてみましょう、というスタンスが示されているので、ずいぶん肩の力が抜けます。そして、読みやすい。上で、優しいし易しいと書いたのは、こういうことが理由です。
 また、本書のスタンスとして、文学にしろ美術にしろ、芸術の背後にある人間(や社会)への視点を忘れないことが挙げられています。文学についての表現方法に関する分析や、美術作品で描かれた対象に関する細かい分析ではなく、その芸術作品を作った人々(作者、芸術家、パトロン…)やそれを受容した人々(読者、聴衆、観衆…)、そしてその作品が生まれた背景などについての目配りがメインとなっています。なので、具体的な中世社会のイメージがとてもわきやすいです(ここは、全体を通じての感想にもなりますが)。

 第1部は、フランスを中心とした中世の文学を対象としています。ここでのキーワードは、「文学の場」。「文学の場」とは、「作者が作品を生み出す場、語り手など媒介者の場、聴衆や読者が作品を鑑賞・享受する場」のことです(19頁)。< そして、教会(聖職者)、宮廷(騎士、貴族)、農村と都市(民衆、庶民)という3つの場が提示され、それに沿って話が進みます。
 第1部では、いろんな物語のあらすじが紹介され、その物語が生まれた背景(社会的背景や著者の略歴)、その物語がどのように受容されたかが示されます。中世の文学作品をほとんど読んでいないので、いろんな物語のあらすじにふれられるだけでも勉強になります。
 上に示した構成からも明らかですが、それぞれの章ごとにまとめがあって、内容の整理ができるのも嬉しいです。
 いちばん楽しく読んだのは、第3章です。聖職者や修道士には興味がありますが、それよりも自分に近い当時の一般的な人々がどのように生きていたのか、というのが私の最大の関心ごとというのもありますし、ここでは笑い話も紹介されていますし、純粋に読んでいて楽しいです。
 第2章の貴族や騎士は、私はまだどうも苦手な対象です(とても手が届かないからでしょうか…)。

 第2部は、中世の芸術(ステンドグラス、彫刻、写本挿絵などなど…)が対象となっています。
 聖顔布(キリストの顔をふいた布、キリストの顔がコピーされたというものです)など、いままで知らなかったものを知ることができて純粋に勉強になったのはもちろん、どの話も興味深く読みました。逆に全体的に興味深かったので、特にこれといって印象的だった点が挙げにくいです。
 あえていえば、イメージと文字について論じた第6章が興味深かったです。配本順では最後になる、シリーズ第6巻、大黒俊二先生の『声と文字』とも共通するテーマですね。
 見る位置からずいぶん遠くにある図像下に添えられた文字を、人々は読むことができたのか、という問題提起に対して、中世の人々は現代の私たちよりも優れた視力をもっていただろうから、ある程度は見えただろうという指摘など、興味深い指摘も多いです。

 以上、とても楽しい読書体験でした。シリーズ「ヨーロッパの中世」のなかでも、お気に入りの1冊となりそうです。

 第7回配本は、堀越宏一『ものと技術の弁証法(ヨーロッパの中世5)』のようです。

(2009/05/06読了)





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Last updated  2009.05.15 06:53:32
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