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2009.11.28
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イソップ寓話の世界
中務哲郎『イソップ寓話の世界』
~ちくま新書、1996年~

 いきなり私事ですが、私は中世西洋史を専門に勉強してきています。なかでも特に関心のある領域は12-13世紀頃の説教活動です。キリスト教の聖職者たちが人々に教えを説くわけですが、この時代には、一般の人たちも分かりやすい話を説教の中に織り交ぜようという工夫が生まれるようになりました。話を分かりやすくするために、説教の中に織り交ぜられるそうした物語を、「例話」(exemplum)といいます。
 さて、この「例話」には、過去の寓話もたくさん使われます。イソップ寓話も、「例話」の中にふんだんに取り入れられているのです。
 最近、また説教や「例話」の勉強をやり直しているところなのですが、そこに利用されているイソップ寓話にも関心が高まってきていました ―というところで、これは入手した一冊です。

 著者の中務先生は、京都大学大学院文学研究科の教授です。ギリシア時代の古典文学を専門にしていらっしゃって、『イソップ寓話集』の翻訳もなさっています(岩波文庫、1999年)。

 本書は、主に比較説話学の観点から、イソップの寓話を役割や社会での受容などを論じています。

 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
はじめに
第一章 イソップ寓話とは
第二章 寓話の起源
第三章 イソップの生涯
第四章 寓話の歴史の三区分
第五章 イソップ以前―ギリシアの場合
第六章 ギリシア作家とイソップ寓話
第七章 イソップ以前―日本の場合
あとがき

参考文献
古典および参考資料(索引を兼ねる)
ーーー

 本書は、1960年のコンゴ内戦の際、アメリカとソ連のあいだに起こったあるエピソードから始まります。両者の意見の対立から、あやうく国連の機能が麻痺しそうな事態にもなっていたそうですが、そんなとき、ケネディ大統領が、ソ連外相とある寓話を読んで大笑い、危機が回避された―というのですね。
 それでは、寓話について、そしてその祖先とされるイソップについては、どれだけのことが分かっているのか。それを、本書は見ていきます。

 第一章については、ポイントをレジュメ風にメモしておきます。
○イソップ寓話の定義(の一例)=「寓話は真実に似せた作り話である」(テオン、2世紀)
○寓話の呼称:アイノスainos、ミュートスmythos、ロゴスlogos、アポログスapologus
○寓話の社会的機能:初歩教育、無知蒙昧な者たちの説得、弱者の主張の隠れ蓑
 と、このように寓話の定義や性格をここでは簡潔に指摘します。

 第二章は、寓話の起源に関する学説の整理となっています。
 寓話の起源を探るにあたって、(1)いつの時代にどの文明圏で起こったかをみる歴史地理学的観点、(2)人間のどのような精神構造から生み出されたのかを問う心理学的観点、そして(3)どのような階層から発生したかを考える社会学的観点などの観点があります。
 ここでは、多様な文化圏の寓話などを紹介・比較しながら、それぞれの説の妥当性を探ります。そして、地理的な起源としては、東方の諺や修辞的表現が、ギリシアで「文芸としての可能性を最大限に開花させた」と、東方有力説を支持していらっしゃいます。もちろん、中務先生も断っていますが、文字に残される前から口承で寓話が語られていたことを考えると、はっきりとどこかが寓話の起源の場所だ、というのは難しいですね。

 第三章は、特に楽しく読みました。
 すでに宗教改革者ルターは、イソップ寓話はイソップ一人の手によるものではない、と指摘していました。ところが、たしかに歴史上にイソップという人物はいたようで、ヘロドトス『歴史』に言及があります。
 さて、このイソップという人物については、詳しいことは分かっていません。『イソップ伝』という彼の伝記も残されていますが、それは「まったくのフィクション」ということです。
 そしてこの章は、その『イソップ伝』について、その概略を描きつつ、比較説話学の観点からいくつかの指摘をなしています。その概略が面白いのです。
 奴隷として売られてきたイソップが、その知恵によって主人に認められ、解放されて、国の運命を左右するほどの活躍もなしつつ、最後は悲惨な死を遂げる…という流れの物語です。本章では、要所要所でイソップが語った寓話を、先述のとおり関連する説話と比較しながら分析していて、その点も興味深いです。

 第四章は、寓話には三つの歴史的段階があり、それら全てがこんにちにも生きている、ということを具体的にみていきます。
 三つの段階とは、
(1)寓話が特定の状況のもとでである人物によって語られた、と文献に描かれる段階(状況と結びついた寓話)、
(2)状況から切り離された寓話が散文の集成にまとめられる段階(=寓話の集成)、
(3)寓話集が韻文に書き直されたりと、「文学としての自己主張を始める」段階(=寓話の文学化)、の三つです。

 順番が前後しますが、第六章は、ギリシアの作家たちの著作にみられるイソップ寓話の指摘・分析を行います。

 そして、第五章と第七章は、標題どおり、イソップ寓話の誕生以前からあると思われる寓話を探ります。第七章では、たとえば「木こりと金の斧」のような話が紹介されます。

 最後の方はごく簡単になってしまいましたが、全体をとおして面白い一冊でした。なにより、多くの寓話が紹介されるので、それだけでも面白いです。
 また、巻末の古典および参考資料は、文献案内でありながら索引にもなっていて便利ですし、章ごとの参考文献が紹介されているのも嬉しいです。この手の新書では参考文献が省かれることがありますが、新書で興味をもって、さらに関連分野の文献に当たれるようにするためにも、参考文献目録はぜひあってほしいものです。
 良い読書体験でした。

(2009/11/23読了)





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Last updated  2009.11.28 07:33:12
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