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2009.11.29
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中世の身ぶり
ジャン=クロード・シュミット(松村剛訳)『中世の身ぶり』
(Jean-Claude Schmitt, La Raison des gestes dans l'Occident medieval, Editions Gallimard, 1990)
~みすず書房、1996年~

 ジャン=クロード・シュミットの邦訳書は、現時点(2009年11月29日現在)では3冊があります。本書がはじめて邦訳されたシュミットの著作で、第二邦訳書『中世の迷信』と第三邦訳書『中世歴史人類学試論』については、すでに記事を書いています。
 なお、12月には刀水書房さんから第四冊目となる邦訳書『イメージの身体性―中世の視覚文化―』(仮題)が刊行される予定です。
 本書は標題のとおり、中世の身ぶりについて、3世紀頃から13、14世紀頃までを通時的に、多様な側面から分析した一冊です。
 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
謝辞


第一章 古代の遺産
第二章 しるしの宗教
第三章 神の手
第四章 差異化
第五章 修練者の教育
第六章 俗人と聖職者
第七章 身振りの言語
第八章 祈りから法悦へ
第九章 象徴的効力
結論

原注
訳者あとがき
参考文献
図版一覧
索引
ーーー

 身ぶり―古今東西、わたしたち人間がなにげなくしてきたこと、と思ってしまいそうですが、実は身ぶりに対する態度・価値観にも歴史がある、ということを本書は解き明かしています。もちろん、通時的な相違はもちろん、社会によっても、身ぶり観ともいうべきものは異なっているでしょうが、ここでの舞台は西欧となります。

 第一章で古代末期、第二章で初期キリスト教の時代、第三章でカロリング期についてそれぞれ注目し、第四章以降は12-13世紀を中心に、身ぶりの多様な側面をみていきます。身ぶりの場(教会、世俗)や身分(関連しますが、聖職者、俗人)が、それぞれの章を分ける基準のひとつとなっているといえるでしょう。
 特に、聖職者、国王、その他俗人たちの身ぶりを扱う第六章と、大道芸人の復権(伝統的なキリスト教的価値観では身ぶりは悪いものとされていたので、大道芸人なんてとんでもないことだったのです)と説教師の身ぶりを扱った第七章が、自分の関心領域に近いこともあり、興味深かったです。

 そして、身ぶりを扱っているということもあり、本書には多数の図版が掲載されています。近年、シュミットは図像学の研究を進めていらっしゃいますが(上記邦訳近刊もまさにその領域の著作です)、図像への関心は早くからあったことが分かります。
 いろいろと面白い図像もあるのですが、特に興味深かったのは、「幸福と不幸」という8つの図像と、人の死から葬儀までを描く一連の図像です。
 前者は、上側に幸福が、下側に不幸が描かれています。それぞれに二人の人物が描かれるのですが、上側の二人は身ぶりが静かなのに対して、下の二人は大きな身ぶりをしています。また、上側にはどれにも神の手が現れているのですが(雲から手だけがにゅっと出ているのです)、下の二人は一人を除いて、「髭が生えてしかめた顔をした悪霊の仮面が先端について、一種の穴の開いた笛」が口から出ています。その独特の想像界がとても興味深いです。
 一方、人の死から葬儀までを描く一連の図像では、故人の死を悼む女性の大きな身ぶりが目をひきます。
 このブログのいくつかの記事でも書きましたが、このような泣き女(この図像に描かれているのが実際に泣き女かどうかは不確かですが)の存在も、ずっと気になっていることです。日本でもそうした習俗はあったようですが、中世ヨーロッパでの泣き女の性格はどんなだったのかな、と。たとえばその社会的身分や、彼女たちに向けられたイメージが気になるのですが、いままでいろいろ文献を読んできているものの、そうした情報はほぼ全く分からないままです。いつか、中世ヨーロッパの泣き女について論じた文献にめぐりあえることを楽しみにしながら、勉強を進めていきたいと思います。

 なにぶん原注を含めて450頁ほどの大著ということもあり、また個々の身ぶりに関する理論などを取り上げるのも大変なため、おおまかな紹介の記事となってしまいました。
 けれども、人間の身体が、どれだけ広範な問いかけの対象となりえるかということを示す好例でもある本書を、興味深く読みました。

(2009/11/24読了)





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Last updated  2009.11.29 14:40:20
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