カテゴリ:本の感想(あ行の作家)
奥田英朗『空中ブランコ』 ~文春文庫、2008年~ 変な精神科医・伊良部一郎先生が活躍(?)するシリーズ第2弾の短編集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ーーー 「空中ブランコ」サーカスで空中ブランコの役をつとめていた公平は、ある日から失敗が増え始める。両親がサーカス団員だったこともあり、保守的で家族的なサーカス仲間の付き合いが好きな公平だが、時代の流れとともに、サーカスの雰囲気も変わってきていた。そして空中ブランコのキャッチャーは、まさに新しくよそからきた内田。内田のようなよそからきた者たちが、自分を引きずり落とすため陰謀を企てているのではないか…。 疑心暗鬼の高まる中、公平はすすめられて伊良部総合病院を訪れる。それから、伊良部が練習に参加するようになり…。 「ハリネズミ」先端恐怖症になったヤクザの誠司は、内縁の妻のすすめで伊良部総合病院を訪れる。先端恐怖だというのに、伊良部や看護師のマユミは無理矢理注射を打ってくる。連日のことで注射には何度か耐えられるようになった誠司だが、縄張りをめぐるトラブルで、常に刃物を持っていることで有名な男と話し合いをもつことになり…。 「義父のヅラ」学長をつとめるようになった義父は、誰が見ても分かるようなカツラをつけていた。学生時代ははじけていた達郎だが、学長の娘と結婚してから、おとなしくするようになった。そのせいか、不謹慎なことをしたくてたまらなくなる衝動に襲われるようになった。一番強い欲求は、義父のカツラを多くの人々の前でとってしまうこと…。しかしできるわけもなく、その他の衝動を抑える苦しみもあるため、同期の伊良部のもとに通うようになる。そして伊良部は、その衝動を発散させようと、いろんなイタズラを実行に移そうという。 「ホットコーナー」ベテラン三塁手の真一は、一塁に送球することができなくなった。精神的なものもあるだろうとのすすめもあり、伊良部総合病院を訪れる。伊良部は、真一が野球選手だと知ると、どんどん練習をせがんでくる。ところが伊良部と話し、コントロールとはなにか、という問題を考え始めると、ますますボールを投げられなくなってしまい…。 「女流作家」有名女流作家の愛子は、執筆中にしばしば心因性の嘔吐に襲われるようになった。作品の登場人物に、この職業は既に使ったことがあるのではないか、このストーリーは一度書いたことがあるのではないか、という不安におそわれ、何度も自作を読み返すという行動も繰り返すようになった。 思い切って訪れた伊良部総合病院の伊良部は、自分の小説を書いてみたいという。愛子は、ますます執筆もできず、執筆のかわりに設けられた対談でも失態をおかしてしまい…。 ーーー 第1作と同じく、こちらも楽しい一冊でした。患者と同じことをしようとする伊良部先生ですが、何をやってもダメなようでいながら実は妙にポイントをつかんでいたりして、なにより自分がとても楽しそうにしているところに、読んでいるこちらまで楽しい気持ちになります。 さすがに第2話では刺青を入れるのを拒みますが…。そしてこの話がいちばん精神科医っぽい感じがしました。大活躍ですね。 良い読書体験でした。 (2010/01/11読了)
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Last updated
2010.01.16 07:25:13
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