第6章

勝敗の行方







ゼロは、城から一旦自分の家に戻った。セシリアは、城で泣き疲れて眠ってしまった。あの後城にやってきたミューとカイ、テュルティが見ていてくれているから安心だろう。
ゼロは、自分の部屋の隣、少し広い部屋に迷わず向かった。
ゆっくり、扉を開ける。
「……私が言いたいのは、いくら何でもその言い方じゃあゼロがあんまりだ、ってこと。どうして貴方は分からないの?ゼロだって……一人の、たった一人エルフなの。他の人と変わらない。運命だかなんだか知らないけど、貴方の言い方じゃあ、まるで……まるでゼロはただの兵器じゃない?」
「だが、彼失くしてムーン打倒は成し得ないのだ。少しの時間さえ惜しい。今はそういう時なのだ。ユフィ・ナターシャ。あなたなら、“運命”という言葉の意味も重々承知しているであろう?」
ユフィとアノンが口論を交わしていた。どうやら、ユフィがアノンの言葉に反論していたようだ。
「いったい、なんでそんな風に喧嘩してるんだ?お前ら」
ゼロが暗くそう言った。あんなことがあった直後、喧嘩の仲裁に入る力は無くとも止めねばならないという気持ちは溢れているのであろう。
「……なんでも……ない」
二人が押し黙り、俯いた。
ゼロはあえて何も追求しなかった。
「オレは、南の援軍に行ってくる。じっとしてなんかいられない。お前らも、気持ちの整理しとけよ」
ゼロはそう言い、去っていった。
本当は話したいことがあったのだが、ここは諦めた、そういう気にはなれないようだった。
「ゼロが……一番辛いんだよね……」
「そう……だな……」
「いがみ合っていても、ゼロは哀しむだけ、か……」
「そう……だな……」
二人は、呆然としていた。



東、作戦司令部本部。そこにウォービルの姿があった。
「いいか、スフライの軍勢はシックス・ナターシャの軍勢に当たり、ウェルド殿の軍勢はフィールディア・フィートフォトの軍勢に当たってくれ。ベル殿がいなくとも、我らならば勝てるはずだ」
ウォービルが淡々と指示を出していく。事実、東の強さにはウォービル自身驚いた。
「それで、ウォービルはどうするんだい?」
サラサラの金髪を坊ちゃんのように切りそろえて、金糸銀糸の艶やかだが、けっして派手過ぎない、総じてこういう場、戦場には一生似合わなそうな青年が言った。落ち着き払っているのか、何も考えずに、楽天家なのか、優しそうな、穏和そうな美男子の表情からは、考えが読めなかった。
「私は、西の援軍を叩きます。今の最大勢力は当方か南ですが、正直、親馬鹿かもしれませぬが我が息子、ゼロの発想力といいますか、軍才は私の数段上をいきます。南はムーン殿の力を見せ付ければきっと屈服致しましょう。どこよりも魔法というものの恐ろしさと強さを知っていますからな。北は、さして問題無いでしょう。頼みのセティ・ユールも、ウェルド殿の息子ですしな。故に、私の勘が正しければ、西を叩けば即、統一は東のものです」
老齢な姿に宿った熱き闘志に、そして恐るべき読みの鋭さに、青年は感嘆した。
「そうか。ウォービルが言うなら、そうなんだろうね」
青年がニコっと笑った。ウォービルは、この青年と息子が国王という立場で対立するという事を悔やんだ。
―――平和な世で……あったならば……。
「でも、なんでムーンは相手に南を選んだのかな?ウォービルの考えを無視したのかな?」
青年がふと首を傾げた。
「ムーン殿は、私の意見など微塵にも取り入れませんよ、殿下。ムーン殿にはムーン殿の考えがあってのことなのでしょう」
「そう……なの……かな」
青年は曖昧に頷いた。
「ウォービル様!!私の軍もそちらに同行願いたいのです!!」
一人、声を上げて志願する者がいた。少しやつれてはいるが、紛れもない、元虎狼騎士のクウェイラートであった。
北から寝返り、東に属したのは本当のようである。
「ふむ……いいだろう。お前なら、俺と同等に虎狼騎士を知っているだろうからな」
ウォービルが一考し、鷹揚に頷いた。
「ウォービル先輩、大丈夫ですか?息子さん、ゼロ君と戦うんですよ?」
スフライがにやけてそう言った。
ウォービルが手を剣にやり、抜刀。スフライのこめかみからうっすらと血が滲んだ。恐るべき速さで、恐るべき技量で薄皮のみ斬ったのだ。
スフライの表情が引き攣った。
「お前こそ、ジエルトとの一戦で右腕を失ったであろう?それこそ大丈夫なのか?」
「し、心配は無用でしたね……。そ、それじゃ僕の軍はもう出発しますので……ご、ご武運を!!」
スフライが急ぎ足で去っていった。ウォービルの眼光に気圧されたようだ。
彼はジエルトとの壮絶な一戦で右腕が全く、ピクリとも動かなくなってしまった。それ故に、邪魔だからと言って切断したのだ。
―――ゼロ……グレイ……ミリエラ……この三人は、少々キツイかもしれぬな……。
ウォービルが一人呟いた。
東と南が、今にも激突しようとしている。





「やれやれ、何もうちを相手に選ばなくてもいいんじゃないかな?ムーンも」
南に戻ったシスカは玉座に座り、すでに集まっている重鎮、騎士団長たちを見据えた。
「シックス、ナターシャ家の魔法騎士団は万全だよね?」
「いかにも、左様であります」
「フィー、君の紅騎士団はいけるかい?」
「腹の虫はまだ収まっちゃいないんだ。暴れさせてもらうよ」
「ネル、君の神聖騎士団は動けるかい?」
「……6割くらいの戦力なら……動けます」
「グッディム、自由軍は?」
「皆、意気高揚しております」
「そうか……。じゃあシックスとネルは連合して敵の横腹を付くように奇襲作戦を決行。フィーの軍は敵を迎え撃ってね。グッディムは、臣民の警護をよろしく。必ずゼロたち西の援軍が来る。それまで、頑張ろう」
シスカは、笑って言った。フィーが堕天使なら、シスカは本物の天使のようであった。
ちなみにナターシャ家の魔法騎士団長シックス・ナターシャは、ユフィの兄に当たる。つまり、ゼロ義兄でもある、次期ナターシャ家の当主だ。彼の使う魔法剣は使用者のほとんどいない高等技術で、相当難易な技であったが彼は見事に会得した武術の天才であった。ユフィとは違う暗黒色の髪を、ゼロと同じように伸ばした美男子であった。今年、成人の儀式を終えたはずだ。
グッディムとネルは、魔法三家の一つ、モックルベラ家の次男と長女で、二人の兄のストライカーはすでに病に倒れこの世を去っていた。ネルは12歳の美少女で、神の声を聴くという神童であった。白い髪を眼が隠れるくらいまで伸ばし、切りそろえている。一見人見知りする少女にしか見えないのだが。グッディムは19歳で、幼少の、5歳の時に病気で視力を全く失った、盲目の剣士である。故に彼は常時眼が隠れるようにバンダナを巻いている。少々ミステリアスな兄妹であった。
モックルベラ家はまともな人材を輩出しない、といっては失礼だが、一風変わった戦士や能力者を輩出する家で有名であった。南はその力を重宝しているのではあるが。
「それじゃあ皆、出陣だ。我らが神、ミカヅキのご加護があらんことを」
シスカの笑顔を見、皆が動きだした。





両者が出陣し、もうすぐ2時間が経とうとしていた。
すでに迎撃部隊のフィールディアと、ウェルド・ユールの部隊は戦闘接触していた。
ゼロもようやく軍備を整え、ゼロ以下、グレイ、ミリエラ、ファル、ベイト、テュルティ等精鋭虎狼騎士などを含む、兵5000を率いての出陣の構えを終えていた。
そんなころ、一人の青年が何やら騒ぎながらゼロの方へとやってきた。
「ゼロ!!お前いったいなんのつもりだ!?いきなりこんな軍勢を整えて……。西の内政も安定しているというわけじゃないだろ!!」
ゼロは、その男を計り知れない程よく知っていた。黒く焼けた健康的な肌に、荒れ放題のように伸びっぱなしのブロンドの髪。一見どこかの不良のようだが、髪を整え、正装するとゼロに勝るとも劣らない絶世の美男子となる青年。
ゼロは人知れずため息をついた。
「……ライダー…………。見ての通りだ。俺たちは東に侵攻されている南を助けに行く」
ライダー・コールグレイ。ゼロとは貴族学校時からの腐れ縁である。コールグレイ家の末っ子にして、兄五人姉三人の大兄姉の中でも一際異彩を放っている青年だ。その純粋な碧眼は、一見まだ彼を幼い少年にする見させる時があるが、実は西でも屈指の剣士で、グレイには及ばないもののミリエラ以上の猛者と噂されている。
「はっ?!だったらなんで俺の私兵騎士団を呼ばねぇんだよ?」
ゼロはまたため息をついた。
「以前の当主会談で言っただろ?私兵騎士団は各貴族から借りた兵で成り立ってんだから、西が攻められたときの防衛軍と、西の治安を守るのが任務だ、って」
ゼロは貴族学校時代から何かと彼が苦手だった。比較的簡単に事を済ませるタイプのゼロと、何故か必ず複雑な方向へと持っていく彼では合うはずもなかったが。
「だが、一言くらい連絡入れるもんだろうがよっ!!」
―――急いでるって時に……!
「分かった。次からはそうするから、俺たちは出陣する。西のことは頼んだ。
全軍、目標は南!南の軍の援護、救援を最優先に動いてくれ!無理に敵の首を狙わなくてもいい!救助が優先だ!では、出陣!!」
ゼロの声で全軍が動き出した。
ライダーが何か叫んだが、軍は止まらなかった。
「てめぇ!!ゼロ!!こら!!待てや!!」
ライダーの叫びが虚しく木霊した。





「いいかい!敵は多いが、私たちほど強いわけじゃない!!数に圧されてないで、敵を叩くんだよ!!」
フィールディアが、配下3000の兵に指揮を下した。
彼女の紅騎士団は善戦し、圧しているつもりだが一向に敵は撤退もしなければ減る様子も無い。このままでは、彼女たちが先に疲労で倒れてしまうだろう。
「っくしょう!!こいつら、何人いるんだよ?!」
ウェルド・ユール率いる軍は、総勢8000人の大軍勢であった。だが、しっかりとした戦闘訓練は積まれておらず、弱いことこの上なかったが。
それでも、常に勝利を繰り返していたフィールディアの紅騎士団には、数の錯覚で優勢に立っている気が全くしなかった。
「くそっ!他の部隊はどうなっているんだ?!」
フィールディアがまた敵兵を斬り、叫んだ。
本当に、息つく暇もないのだ。
「どうやら、苦戦しているようだな」
フィールディアの背後に、一人の男が立っていた。気配を断ち、フィールディア程の猛者に気付かれず、接近していたのだ。
「兄さん……!!」
ラスティ・フィートフォト。フィートフォト家の次期当主であり、フィールディアの兄である。放浪癖というべきか、よく人間世界やゴーレム種族の住む山々を巡る旅に出ている。その甲斐あって知識は豊富であり、有能な戦略家でもある。
「いつ……戻ってきたの?」
フィールディアが安堵の表情で尋ねた。
「……今しがた、戻ってきたばかりだ。そして新国王、シスカ様といったか……?彼に東に今攻められていることやらなにやら聞いてな。可愛い妹を助けに来たわけだ」
ラスティは、至って普通にそう述べた。
「……ふぅん……。まぁ、有難いことには変わりないわね!」
声と共に剣を一振り、敵兵をまた一人昇天させた。これで、16人目である。そろそろ彼女の剣も敵の血で切れ味が劣ろえ、衣服もさらに赤く染まっていた。
「じゃあ、俺の戦略を一つ、試してみようか……」
ラスティが、不敵に笑った。





丁度よく、空も霞み、奇襲にはもってこいの天気となった。
「これは……天の味方か……?」
シックスはぼそりと呟いた。
「いえ……神の力は働いていません……。ただの……偶然の産物です……」
ネルが呟き、シックスは苦笑した。
「なら、神を味方につけるまでだな」
シックスの軍勢はゆっくりと、だが確実に歩を進めている。
だが、スフライの軍も同様に進軍していた。





「もう少しで、南だな」
ゼロはそう思い、気を引き締めた。すると、前方に見慣れた陣形を布いた軍が現れた。
「あれは……ウォービル様の陣……?」
ゼロの隣に馬を並べていたベイトがそう呟いた。ゼロは誰よりも早くそれに気付き、言いようの無い憤怒と驚きを感じていた。
「親父の野郎……寝返りか……?」
グレイの軍、2000が先へと進んだ。
「様子見だ。もしあれが敵なら、ウォービル様とて容赦はしない。いいか?ゼロ」
「勿論だ」
そうしてグレイの軍が進む、ゆっくりと、少しずつ。
「私の軍は、南のほうから敵の横を突くわ」
ミリエラがゼロに進言し、軍勢2000を率いて動き出した。
「叔父様……嘘だよね?」
割り切りの良いテュルティも、さすがに言葉をなくした。
ゼロは、言葉もなかった。
しばらく帰ってこないで、どこにいるかと思い心配していたのに。どれほど父を頼りにしたかったか。
ゼロの気持ちは全て裏切られた。よもや、敵として現れようとはもう怒りは絶頂であった。
「あの男は西の英雄ウォービル・アリオーシュじゃない。東の手先、ウォービルだ!全軍構うな!攻撃だ!」
ゼロの軍、1000も斬りかかる。少しでも待ってくれと言って来るかと期待したが、やはりその期待は裏切られ、無情にも反撃してきたのだ。
ウォービル軍、10000と、西の軍5000がぶつかった。





「来い!!ゼロ!!返り討ちにし、お前の自信を砕いてやる!!」
―――そして、オレを倒し、オレを越えて行け!!
ウォービルたちの軍も突貫した。





「横から突くつもりだったのに……!」
ミリエラは行く手を敵に遮られ、乱戦状態となっていた。
そんな時、見知った一人の剣士を見つけた。
―――クウェイラート……?
一瞬、ほんの一瞬彼と目が合った。そして彼は一目散にこちらへ向かってきた。
二人の距離が20メートルほどあたりで、二人は対峙した。
「久しぶりだな……ミリエラ。どうだ?俺の下に来る気にはなったか?」
変わらない、クウェイラートの声。
「笑止……。言ったでしょう?次に会う時は、貴方を殺す、と」
自然と、両軍勢の闘いが収まり、二人の対峙を皆が注目していた。
緊迫感が辺りを漂った。
「ふっ……。ならば、強きが生きる世界の教えに則り、一つ一騎打ちで勝敗を決めようとするか……」
クウェイラートがそう言った。以前の彼にあった弱気はなく、恐るべき信念の持ち主へと豹変していた。
―――相当強くなっている……。
ミリエラは冷や汗が頬を伝うのを感じた。
「いいでしょう……。虎狼九騎将が一人、ミリエラ・スフェリアの戦いの前に、一輪の花として散りなさい!!」
言うや否や、ミリエラの剣が走った。
クウェイラートが愛用の剣で防ぐ、だが、明らかにミリエラの動きに対応し切れていない。
右に、左に、足に、顔に、ミリエラの鋭い猛攻をクウェイラートは必死に耐えた。
優雅な蜂の攻撃を、必死に蟻のように避け、防ぐ。
年の差ではクウェイラートが4つ上だが、二人は潜ってきた修羅場が違う。ミリエラは、ただひたすらに、ゼロの力になりたかった。その為だけに、命を削り、血を吐くような訓練にも、男ですら根を上げる訓練にも耐えてきたのだ。
対してクウェイラートは、非常に武才に恵まれていた。天性の才は、グレイを勝り、ゼロにも劣らなかった。だが、生来の弱気な性格が、それを打ち消してしまっていた。貴族の子として甘やかされて育つのではなく、普通騎士の子として育っていたならば、彼はきっと西でも1,2を争う剣士となっていただろう。
勝敗とは、想いの強さが大きく左右する。
力が五分五分ならば、尚更のことである。
かたや想いは届かないが、いつも優しく見ていてくれる人のため。
かたや想いを跳ね除けられた怨故のため。
勝敗は見えていたも同然である。
だが。
「俺は……俺は……生きて……生きてエルフの王となるのだ!!このような場所で死ぬつもりはない!!!」
クウェイラートがいきなりその剣を振った。ミリエラの剣を避けた直後、であった。
さしものミリエラも、不意打ちと少々の油断で頬をザックリと斬られた。
痛みと共に、赤い鮮血が彼女の白い頬をゆったりと流れ出した。
縫合の必要な傷だろう。
ミリエラは少し苦悶と悔しさの篭った表情をした。
「……油断しました。……元虎狼九騎将の名、忘れたわけではないようですね……」
ミリエラがすっと眼を閉じた。
クウェイラートが一瞬焦り、動いたが間に合わなかった。
「イシュタルよ……我に力を……大いなる神の力を!!」
魔法が発動。ミリエラが刹那輝き、斬り込んで来たクウェイラートの剣を弾き飛ばした。
〈干渉系〉の、身体能力を一定時間高める魔法である。その効果は術者の魔力が左右する。クウェイラートの焦りと、ミリエラ自身が西一の魔法騎士だったことから効果は高いのであろう。
「……これは……厳しい戦いだな……」
クウェイラートが呟き、またミリエラの猛攻が始まった。
―――彼女はこの魔法使ったら必ず早期決着を狙っていた。確か……五分以内だったか……。つまり、この五分を防ぎきれば勝てる……!!
二人の、長い長い五分間が始まった……。





「シックス様……敵です……」
ネルの呟きとほぼ同時にスフライの軍は切り掛かってきた。両軍、奇襲部隊のつもりだったが、相殺の結果になったようである。
スフライの軍勢ざっと4000に対し、シックスの魔法騎士団とネルの神聖騎士団の統計は6000。
それが真っ向からぶつかり合うその様は、非常に豪胆で、多くの血が流れた。
「各騎!!個々の力でも、数の上でも我らが上だ!!臆するな!!我らに敗北の文字などない!!」
シックスの激励で魔法騎士団は活気付いた。
盛り返し、敵を押す。
「ええい!!何をやっているんだ?!僕が出る!!各個続け!!」
スフライが先頭指揮をし、突撃を掛けた。
「神聖騎士団……今です……。弓矢……放て……!」
一斉に弓兵が矢を仕掛ける。さしものスフライもこれには退いた。
そこにシックスの魔法騎士団が攻めたのだから堪ったものではない。
「ええい忌々しい!!退けぇ!!まずは、生き延びろ!!」
スフライが情けなく撤退する。非常なほどに悔しかっただろう。
一騎打ちなら負けないというのに。
そういう気持ちがスフライに溢れた。
「案外……呆気なかったな……。フィールディアの所の援護にでも行くか……?」
「……そう……ですね」
シックス側犠牲、大よそ500。スフライ側犠牲、大よそ2000。
南側の、圧勝であった。





「フィー、いいか?一旦退き、敗走を装うんだ。だが、あくまで見せかけだ。まとまって逃げるでもない、各々が東西南北に逃亡するんだ。そして油断して斬り込んで来たところを、切り返し戻ってきた軍が切り裂くんだ」
ラスティの策は、フィールディアの好むような、猪突猛進玉砕覚悟の策ではなかったが、流石の彼女もそれしかないと肯いた。
早速伝令。
「くっ……!!一旦……退く!!!」
フィールディアが悔しそうに叫んだ。見事な名演技である。
そうして紅騎士団は各個散開。しばらく逃げを装った。
「……む……?ついに逃げ出したか。くくく……。突撃だ!!南の堕天使をひっとらえよ!!」
―――気丈な娘の鼻っ柱を、へし折ってやる……。どんな声で泣くのやら……。くくくくく……。
ウェルドは、ラスティの策にまんまとはまった。
そして、油断して突撃してきた兵を前に、紅騎士団が反旗を翻した。
「今だ!!全軍、反撃に移れ!!!」
フィールディアが叫ぶ。
後は、ご想像の通り。
ウェルドの軍勢は散りじりとなり、紅騎士団が勝利を収めた。







確かに南の軍勢は強いのである。









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