第15章

 戻ることの出来ない道








西、南、北の3国の兵を合わせた大部隊が広く、東の王城のようなクールフォルト家を取り囲むかのように布陣していた。だが、そのクールフォルト家を守るように布陣する東の軍勢も、連合軍に負けない数だった。
連合軍は大部隊を3つに分断し、ミュー、シックス、クローをそれぞれ分けて配置していた。直接ムーンを叩く突撃部隊は、この戦いが始まり、混戦状態に乗じて乗り込む手はずとなっている。
ゼロたち突撃部隊は、ムーンとの戦いだけに集中するため温存し、最後方から戦いの行方を見守っていた。
「……流石に緊張するな」
この戦いで全てが決まる。ゼロはぽつりと呟いた。
この戦いの全ての権利を委ねられたゼロは、不安に押しつぶされそうであった。権利を委ねられるというのは、同時に責任も圧し掛かるということだ。
こんな時、ユフィがいれば、そう考えるのも無理はなかっただろう。
ゼロはしばらく会っていない、王妃のことを思い出していた。
―――ユフィは、必ず来る。
そう信じて、彼は待つのだ。
「合図を出せ。最後の、最後の聖戦の始まりだ……!」
ゼロは大きな決意を胸に、高らかに叫んだ。
こうして“最終決戦”の火蓋が切って落とされた。



「合図です!さぁ、みなさん!私たちには、イシュタルを始め、三柱の神のご加護がついています!恐れず未来の平和のために戦うのです!!」
ミューは自ら最前線に出陣して兵士たちを鼓舞した。彼女は3つに分けたうちの、クールフォルト家から見て正面を担当している。彼女の部隊の働き如何で、ゼロたちの突撃の成否が決まるのだ。

「合図だ!行くぞ!真の平和を目指すんだ!」
シックスは合図を見て突撃の指示を出した。彼専属の魔法騎士団は全てここ、正面から右側の部隊に配属されている。最も力を持った部隊であろう。
数だけの東の兵を相手に、シックスらはひたすらに戦っている。

「よし、行くぞ!」
合図を見たクローは二人とは対照的に、穏やかな攻めを見せた。彼の部隊は、戦力的には大差なくとも、彼自身の経験不足から最弱と思われ、持ちこたえるだけ持ちこたえ、後からミューとシックスの部隊との挟み撃ちを敢行する作戦を選択しているのだった。



「始まったわねん♪」
ムーンが不敵な笑みを絶えず浮かべている。
「さぁ、みんなもそれぞれの持ち場についてん♪ゼロちゃんたちを、最高の御もてなしで迎えてあげましょう♪」
ムーンにも、ムーンなりの作戦があるようだ。



東側のミューの部隊と相対するのは、アルの部隊だった。
「上手く敵が消耗してくれればいいけど……」
彼の講じた作戦は、数だけの兵を敵にぶつけ、消耗したところを彼率いる精鋭本隊が攻める、という非情なものだった。
―――何が最良だろうなぁ……。
「ルー。ボクに力を貸しておくれ……」
亡き友を思い、彼はもうすぐ来るであろう敵勢を待ち構えていた。

同様に、シックスと相対するのは、ヴァルクの妹コトブキの部隊だ。
魔法使いや、弓使いを揃えた彼女の部隊の作戦は、前線の兵を囮に、後方から派手な攻性魔法を唱えるというものだった。
「い~ぃ?敵が見えたら、一斉に放つのよ?そして、ひるんだとこに魔法を浴びせちゃって!」
まだ幼いながらも、彼女の口調には迷いはなく、強い思いが込められていた。

そして、クローと相対するのはルティーナの部隊だ。
「……………………」
特に指示もなく、彼女は兵に戦わせていた。彼女自身は後方でそれを見守っている。
―――本当にこれでいいのかしら……。
ルーを失い、彼女にはまだ“今”が見えていなかった。
大きな不安と困惑を抱えながら、彼女は黙って戦局を見守っていた。



黙々と時を待つ。今はまだクールフォルト家の門も見えない。
家と呼ぶには相応しくない、巨大なその建物は、西のホールヴァインズ城に匹敵する巨大な建物だ。
「先輩、大丈夫ですよ」
リンは、ずっとゼロが下を向いているのが気になってそっと声をかけた。
その声に気付いたゼロは彼女のほうを向くと軽く微笑み、空を見た。
「……もうすぐ、満月だな……。だが、その前に、一雨きそうだ……」
ゼロの言葉が終わるとほぼ同時に、パラパラと雨が降り出し、すぐさま土砂降りとなった。
「恵みの雨と、なってくれよ……」
突撃するメンバー全員の気持ちを、ゼロは呟いた。



―――手応えがなさすぎる……。先方隊は、もしや、囮?
ほとんど死傷者を出すことなく突き進むミューの部隊。彼女は上手くいきすぎていることに疑問を感じ始めた。
そして、部隊の一部が一定ラインを越えた、その時。
「薄々感づいたようだけど、遅かったね」
アル率いる、精鋭騎士団の突撃が始まった。
おおよそ軍の大半を犠牲にするという作戦は、普通ならば敢行されることはないだろう。だが、彼もこれが最後の戦いと予想していたらしい。大胆で非情なその作戦は、見事に功を奏した。
2時間近く、命の削りあいで疲弊した連合軍の兵たちに、体力を温存していた東の精鋭騎士たち。15000対8000ほどの戦いも、勝敗は見えなくなっていた。
―――敵の70%は討ち取っておきながら、勝敗が揺らぐなんて……。流石アル、油断できませんね……。
前線で戦っているとき、チラッと見えた元同級生の青年に、ミューは皮肉ながら賞賛の念を覚えていた。同時に、貴族学校時代も優等生として成績争いをしていたことを思い出す。
―――でも、負けるわけにはいかない……!
ミューの闘志が膨れ上がった。
「烈風!!」
彼女の刀が一閃。一振りで、数人の敵を薙ぎ倒した。
「まだまだ!まだまだです!!」
雨に濡れ、返り血で赤く染まった防具に身を包み、ミューは自分の信念を貫くために、兵を鼓舞した。その刀には迷いはなく、あらゆる不安を断ち切るかのような威力があった。
「もう……大切な人を失うなんて御免よ……!」
その彼女を、アルは遠くから哀れみの目で見つめていた。

ミューが東の手痛い攻撃を食らったのとほぼ同刻、シックスはしてやられたように、顔をしかめた。
元々は、15000対30000ほど。それを、大体12000対18000くらいにしたであろう。だが、彼らが一定距離に達した時、コトブキの作戦が炸裂した。
そして現在、おおよそ5000対18000。明らかに押されている。
「どうしたものか……」
手ひどい攻撃を受け、雨に乗じて一時後退したものの、何か策があるわけでもない。
僅かながら頭をよぎり始める、“敗北”の二文字。
「おやおや……よくもまぁ、可愛い家臣をここまで手ひどくやってくれたもんだ。しっかり、落とし前つけてもらわなきゃね」
シックスは、普段よく聞いている馴染みの、場違いな程軽い声を耳にした。
振り返れば、そこに大きな巨人に乗ったシスカがいた。
「陛下……?コイツはいったい……?」
驚きを隠せないシックスをわき目に、シスカはマジメな顔をして思考を始めた。
「遅れといてごめんだけど、詳しい説明は後回し。まぁ、これから戦況を逆転させる秘密兵器だと思っといて」
シスカの適当な説明に、シックスは困惑の表情で頷いた。
「はぁ……」
「よし、ハンゼル。敵は眼前の者全てだ。この状況を打破し、僕の願いを叶えておくれ」
「了解シマシタ」
シスカを地面に下ろすと、ハンゼルと呼ばれた巨人はコトブキの大部隊に単騎突撃をかける。
「ハンゼル……?まさか?!陛下、あ、あの“呪われし騎士”を、再び生成なさったのですか?!」
「ま、そういうこと♪」
驚愕するシックスに、シスカは笑って答えた。
―――戦いの才能はなくとも、コライテッドの血は確かなのだな……。

「ん?なんだろあれ?」
雨の中、もの凄い勢いで向かってくる得体の知れない“何か”に対して、コトブキは僅かながら疑問を抱いたが、気にせず、命令を下した。
「よくわかんないけど、蹴散らして!」
その声とほぼ同時に、無数の魔法が“何か”に炸裂する。
が、“何か”はなんらダメージを受けた様子はなかった。
「え?!どゆこと?!」
驚くコトブキなどお構いなく、“何か”、ハンゼルの大剣は、彼女の部隊を次々に潰し始めた。
「もしや……ピンチ?」
降りしきる雨の中、青ざめた顔でコトブキは呟いた。

一進一退。15000対30000で始まった、クロー部隊対ルティーナ部隊の戦い。依然として、どちらに転んでも可笑しくない現状であった。
力量は、連合軍が上。数では、東が上。指揮官は、指揮未経験のクローに、何か迷いを抱くルティーナ。5分5分の条件が揃いに揃っていた。
「わたしは……」
彼女の迷いはこの天気と同様に、まだ晴れることはなさそうだった。



雨の影響などほとんどなく、戦いは続いている。
ゼロたちはただただ、いつチャンスがくるのだろうか、と待ち構えていた。



ミューの獅子奮迅の働きで、正面は連合軍が優勢に思われ始めた。
「そろそろ、ボクもでようか」
その状況を見かねたアルがついに最前線に移動を始めた。
華奢な身体の中に、大きな信頼感を持っている彼は兵たちにとって支えとなった。
―――ルーが死んで、もうどうでもよくなったのかもな……。
アルの中に、そんな気持ちが生まれ始めていた。

アルの魔法は、連合軍にとって災厄に等しかった。
彼の魔法で、何人もの兵がその命を散らしていく。
アルの姿を捉えたミューは、すぐさま間合いを詰め、彼に接近し一閃した。
「ひゅぅ。危ない危ない」
おどけた様子で、アルが言った。
無言のまま、対峙する二人。周囲の兵にはそこに割って入るような度胸などなく、静かな雨音と自分の息遣いだけが二人の耳に入った。
「頂上決戦だ。ここの戦いでこれ以上死者を出さないために、ボクらだけで決しようじゃないか」
「分かりました」
そしてすぐさま、ミューが動いた。彼女の流れるような体捌きは、まさに疾風迅雷。雨の影響で地面がぬかるんでいるのにも関係なく、眼にも留まらぬ速さである。
が、アルはそれも辛うじて避けた。再び相対する。
赤く染まった防具が、ミューを堕天使に見立てている。
対するアルは、黒い法衣に身を包み、悪魔の如く不敵に対峙する。
「……貴方が東の貴族だということは知っていました。でも、まさかこうして貴方と対峙することになるとは夢にも思いませんでした。……お互い、もう退けるような立場ではありませんね。悪いですが、容赦はしません」
ミューは、普段の彼女からは想像できないような冷たい声を発した。少し俯いて、続けてこう言った。
「死んで……もらいます」
言いたくなどなかった言葉。自分の目指す侍道は、こんなものではなかった気がする。
だが、今は絶対に負けるわけにはいかない。形振り構わず、この手をいくら汚すことになってもゼロたちに夢を繋げなければならない。
「……来い」
―――そして、ボクを殺してくれ……。
もう後戻りできない自分に、終止符を打とう。迷いの中から抜け出せないアルは、そんな心境だった。



「温存作戦って言っても、精神的にこりゃ疲れるな……」
ライダーの呟きも一理あった。
何人もの同志たちがその命を賭け戦っている中、彼らは仮設本陣のテントの中でひたすら待っているだけなのだ。聞こえるのは、戦いの喚声と雨がテントに当たりはじける音。
「加勢したいところだな……」
元々気の長いほうではないフィールディアも、段々と苛立ってきているようだ。
「少し動きがあったようだ。少し進もう」
ゼロは出来る限りの冷静な状況把握を心がけていた。
ミューとアルの一騎打ちには気付いていないが、何か動きが変わったことを感じ、歩を進めた。
―――ミュー……頼む。
ゼロは、気高き侍に祈りを捧げた。



ミューの攻撃は休むことがない。今まであれほどの、激しい戦いを繰り広げていたのに、彼女の体力は底なしに思えた。
アルはその攻撃をギリギリで避け続ける。いや、序々にではあるがかすり傷を負い、そこからの出血は多くなっている。
―――殺してくれなんて思う以前に……勝てる見込みもなかったな……。
神経をすり減らし、感覚を研ぎ澄まし、アルは動いている。すでに疲労はピークに達し、意識も保つことさえも危うい。
迷いを断ち切って戦っている者と、迷いを断ち切れていないものではこうも違うものだろうか、そんな風にも思えてくる。
ついにミューの刀はアルを捉えた。左腕に大きな刀傷が生じる。
利き腕ではないものの、その痛みと出血量が、彼を死へと誘うのは時間の問題であろう。
「参ったね……。もう動けないよ。さぁ、僕を殺せ」
―――初めから勝つ気のない僕に、勝利なんかない……。
ミューは彼の側まで歩み、一瞬、憂いを含んだ瞳で彼を見下ろした。
「何故、共に学びあった私たちが、今こういう時を迎えているのか……、どうしても解せません。でも……運命と割り切るしかできないのです。少なくとも、今の私には……」
アルは薄れゆく意識の中、その言葉だけを聞いていた。
―――甘い、甘いよ……。全てを現実と見つめていかなきゃ……裏切られるだけさ……。夢は見ちゃいけない……。まぁ……僕に言えた義理じゃないか……。
ミューは刀を振り上げた。その刀を見上げた時、ほぼ全身赤く染まった彼女の、涙している顔が見えた。
―――綺麗で……純粋だ……。
雨の中、一瞬顔を覗かせた太陽が彼女の刀を照らした。
その最期の光景は、彼にとってひどく眩しかった。
ゆっくりと、その刀が振り下ろされる光景が、彼の見た最期の光景だった。



ミューの戦っていた方面から、一際大きな歓声が上がる。
ゼロはこれをチャンスと思った。どちらにせよ、敵は油断している筈である。
「行くぞ!」
ゼロたち突入部隊は、神速の如きスピードで戦場を駆け抜け、門前にたどり着いた。
通り過ぎて来た感じ、どうやらミューたちが勝利を収めたようだ。
安堵もつかの間、ひとりでに空いた門を見て、一同は意を決し、最後の戦いへと歩を進めた。



明朝に始まったこの戦いも、すでに9時間ほどが経過していた。それでもまだ午後3時ほどなのだがクールフォルト家の中はひどく暗く、壁に点けられた小さなランプだけが視界を照らしていた。
「なかなか凝った演出だね」
「そう……だね」
テュルティは軽くそう思っているが、ベイトにはそうは思えなかった。
おそらくこれはムーンの魔法で、この家に届く光を全てカットするように仕組まれている筈だ。決戦前だというのに、無駄な魔力の消費にしか思えない。
ゆっくり慎重に進む一行の前に、大きな扉が現れた。どうやらそこ以外道はないようだ。さらに慎重に、ゼロは扉を開けた。
扉を開け切った瞬間、視界いっぱいの光に、一向は目を覆った。
そこにひときわ明るく、場違いな程陽気な声が響いた。
「ようこそ♪私のクールフォルト家へ♪」
その声に反応し、全員が前方を見た。
派手なドレスに身を包んだムーンがそこにいた。
「ここからは私の3つのルールに従ってもらうわん♪まず1つめ。こちらが指定した人数で戦ってもらうのん♪あ、心配はいらないわよん♪こちらも指定通りの人数だからん♪つづいて、2つめ♪どちら側かが死ぬまで戦いは終わらないわん♪当然外野の手出しは禁止、正々堂々、お仲間が死に逝くのも見届けること♪そして3つめ♪ルールを破った場合は、今外で戦っている人たちを所属国関係なく、“皆殺し”にするからん♪」
そのルールの中でも特に3つめのルールにゼロたちは絶句した。たしかに、彼女から見ればそこらへんの一般兵を殺すなど、赤子の手をひねるも同然であろう。
「それじゃぁ、第一回戦♪相手は、この人♪」
そう言ってムーンの指差した方向に現れた人物は、ゼロの父、ウォービル・アリオーシュであった。
「それじゃぁ私はこれで♪最上階で待ってるからねん♪」
そういい残し、転移魔法を使ったのかムーンが消えた。
「さて、これは一種のゲームのようだね。使える戦力をよく考えて戦う人を選出しないと……ねぇ、ゼロはどう思う?……って、え?」
前方に用意されたバトルフィールドに、早くも足を踏み入れているゼロを見て、ベイトは呆れて声も出なかった。
「まぁ……ウォービル様を倒せるのは、君くらいだろうけど……」
冷静を一番装おうとしていたゼロが、一番早く冷静さを欠いたことに対しベイトは苦笑するしかなかった。

「……俺は今、あんたほど憎んでる奴はいない」
半身の体勢で父を睨み、ゼロは低い、地の底から這い出るような声を響かせた。
「母さんは死んだよ。最期にあんたに会いたがってた。なのに……今、こうしてあんたは俺の前に敵として現れた。……もう……いい加減にしろッ!ウォービル・アリオーシュ、あんたの息子として、あんたを殺す」
ゼロは言い終えると、動くとともに抜刀し横薙ぎの一撃を放った。だが、ウォービルは容易くそれを己の剣で防ぐ。
「!!」
ゼロの放った一撃を止めた剣は、恐ろしいほど硬く、重かった。
―――長期戦は覚悟の上……。絶対にコイツを殺す!
ゼロはさらに速く、鋭くウォービルに迫った。
彼の繰り出す剣は、全てが必殺のようである。目にも留まらぬ、達人のみが見極めることが出来るような、そんな域にある剣。
だが、そのどれもウォービルを捉えてはいない。
ゼロは一旦距離を置いた。あれだけの動きをしているにも関わらず、息一つ切らしていない。
―――俺に剣を教えてくれたのは……あんただったな……。
久しぶりに会った父はやはり大きく、その圧倒的な威圧感は、ゼロにとって超えねばならない最大の“壁”であった。

フィールド外のメンバーは、二人の“次元の違う攻防”を、ただただ見つめるだけだった。
「これが……今のゼロの全力……。アタシと戦った時とは、桁違いじゃないか……」
フィールディアは、以前自分が見た彼の本気と比べて、今の彼の力量に絶句した。あの時の彼の剣は、辛うじて見ることはできた。だが、今はそれも出来ない。
「どうやら、私たちと彼は全然違うレベルのようですね」
セティは、それを改めて実感した。
以前ゼロが北にいた時、彼はゼロとシューマの手合わせ拝見している。その時が本気だったか分からないが、シューマはそれなりに互角の勝負をやってのけていて、自分も同等に戦えるだろうとは思っていた。
―――死神……ゼロ・アリオーシュか……。
「す、すごい……。先輩、こんなにまで強くなってたんだ……!」
周りの音など聞こえない。眼前の戦闘だけを見つめるリンは、驚愕の念とさらなるゼロへの敬意の念を抱いた。
彼女もここ数年、並ならぬ努力をした。そして今までの戦闘のデータなどから、ゼロとほぼ同等の実力をつけたと思っていた。
だが。
ゼロの実力は。
―――どうすれば、この差を埋められるかな……?







最後のゲームが始まった。
もはや誰にも止めることはできない。
どちらかの一方が死ぬまで続く壮絶なゲーム。
その第一戦、ゼロと、彼の父ウォービルが命の削りあいをしている。
何故、親子がこんなことをしなければならないのか。
戦争、理想、夢、野望、願望、欲望、平和、希望、嫉妬、愛情、憎悪……あらゆる野心と感情が、螺旋状に渦を巻き、その全ての上でムーンが待っている。
果たしてゼロたちはムーンを倒し、遥かなる統一の夢を掴むことができるのだろうか。





最後の戦いは、まだ始まったばかりである。













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