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M17星雲の光と影

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2006.04.22 楽天プロフィール Add to Google XML

緑色の研究
[ その他 ]    

木々がいっせいに新しい緑色をまとっている。輝きを増した陽光につやつやとした緑の若葉が照り映えているところを見ると、心がやすらぐ。咲き誇る花を見てもこのように落ちついた気持ちになることはない。気分がはなやぎ、こころが浮き立つことはあっても、やすらぎをもたらすことにかけては、この季節の新緑にまさるものはない。しみじみとそう思う。

そのやすらぎの中には、遠い日の記憶と未来への予感がまじりあっているような不思議な感覚がある。昨日までの枯れ枝に唐突に緑色の舌がにゅうっとあらわれ、それが太陽に向かって背伸びをするように徐々に広がっていくさまを見ていると、こころの奥にある何かがそれに感応するのを感じる。それは遠い日の記憶のよみがえりのようでもあり、あるいは未来への漠然としたあこがれのようでもある。そして、その気持ちの核心にあるのはあざやかな若葉の緑色である。あの緑色の中にはわれわれのこころの奥深いところにつながる何かがある。そういう気がしてならない。

考えてみると、緑色をした動物というものは少ない。植物一般の標準色ともいうべき緑色は動物の世界ではむしろ珍しい色に属する。ミドリガメという名称は、緑という色がそれだけで他の種とは識別可能なくらい頻度が少ない色であることを示している。それ以外の緑色の動物というと、ある種のカエルくらいしか私は思い浮かべることができない。

では植物はなぜ緑色をしているか。その理由は明らかだ。それは光合成の主体となる葉緑体、葉緑素が緑色だからである。植物は太陽光線のエネルギーを炭酸ガスと水を用いて有機化合物に換え、自らの体と生存に必要なエネルギーを作り出す。それは自然界に適応した生き方とは何かという問いに対するほぼ完璧な解答である。さんさんと降り注ぐ陽光、地表を覆う炭酸ガス、同じく地表の大半を覆う水分。この三者を組み合わせて自らの体と生きるためのエネルギーを調達する。ありあまる資源の有効利用。そしてその結果、排出される物質はせいぜい酸素だけである。その酸素を用いる物質代謝の主体としてやがて動物が生まれてくる。

なぜ地球上の生命は植物の段階でとどまらなかったのか。それはひとつの謎である。おそらくは地球の歴史のある一点で、炭酸ガスを酸素に変換するプロセスが急激に進行し、こんどは逆に酸素を吸収して炭酸ガスを排出する生命体を生み出さなければ、地球上の大気のバランスが保てなくなったからではないかと思うが、その生命体の中でもっとも進化したと自己申告している生物が、過剰な炭酸ガスの排出で地球が存亡の危機に瀕していると大騒ぎしているのも皮肉といえば皮肉な事態ではある。

植物の緑はいわば「自足」のシンボルカラーである。それは貪欲とは対極にあるライフスタイルの象徴だ。光、水、炭酸ガス。それだけを資源に自らの生を営む生命体。補食を必要としない生き方。そこには略奪も簒奪も収奪も見られない。われわれの目に新緑が深い安息をもたらすのは、おそらくは植物が生まれた時の穏やかな自足の気分をその緑色が鮮やかに示しているからではないだろうか。

それは遠い記憶の色である。そしてわれわれが遠い昔に失った「自足」の象徴でもある。その頃の穏やかな気持ちに戻るために、人間は庭に草花を植え、、室内に花を飾り、森の中をあてもなく散策する。それはもう戻ることのできない安息の日々への遠い憧れに導かれた行いなのである。

植物的生のもうひとつの特徴、それは「回帰」である。冬枯れの枝は死の象徴だ。しかし、やがて日のぬくもりにつれて、そのひび割れた樹皮の下からみずみずしい青葉が外界に向かって弾き出されてくる。一年というサイクルのなかで植物は死と再生を繰り返す。それは一直線に老化と死へ突き進む動物的生の流れとはまったく異なる生の軌道である。

「自足」と「回帰」。そのような生き方の象徴としての「緑」。

貪欲と競争に駆り立てられるあわただしい日々、滅亡と消滅に怖れおののく不安なこころ。その対極にあって、静かに人間を見つめつづける緑色をした有機体。

やわらかで、しなやかで、つややかで、みずみずしい、みどりいろのわかばをそっとうでのなかにだきしめながら、わたしは自足と回帰の世界をさまよう愛する人の寝顔をみつめる。そしてそのちいさくあいらしいひたいにかるくくちびるをおしつける。

われわれはどこからやってきて、どこへいくのだろうか。そんなことをぼんやりとおもいながら。







Last updated  2006.04.22 21:25:09
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