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網野善彦「日本社会の歴史」… (そのほか)楽天ブログ 【ケータイで見る】 【ログイン】
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2006.08.09 楽天プロフィール Add to Google XML

網野善彦「日本社会の歴史」 本日の1冊(13775)」
[ 本 ]    

三週間連続で授業を行っている間、行き帰りの通勤電車の中でひたすら網野善彦「日本社会の歴史(上・中・下)」(岩波新書)を読んでいた。他者への出力行為を毎日3時間、15日間にわたって続けている時には、物語世界の中にどっぷりと浸って、焦点のずれた目で生徒を見るわけにはいかないし、さりとて授業のことで頭をいっぱいにしていると、かえって頭の中が煮詰まって煮こごり状態になってしまう。こういう時には、淡々とした学術的な歴史叙述がむしろ「つきづきしい」のではないかと、ひそかに考えたのである。

それに、こまごまとした歴史知識の習得には何の興味ももてないが、日本の通史を全体としてイメージし、頭の中に入れておきたいという気持ちは以前からあった。

もっとも、この本は通史とはいえ、その叙述は封建時代で終わっている。それ以降は「展望」という形で巻末に軽く触れられている程度である。

やや固い表現が多く、歴史用語も頻出し、一般的には読みにくい印象を与える本ではないかと思われるが、個人的には読み終えて「頭がすっきりする」本だった。驚くような発見があるわけではないのだが、なによりも著者の視点に揺らぎがない。その視点の設定の基盤には確固とした信念がある。叙述にけれん味がなく、その根底にある視点というか、立脚点がすっきりと明快なので、読後の印象がとても爽やかである。そういう意味では好著といっていいと思う。

この本を読みながら、いくつかのことを思った。まず第一に「日本における東西の差」について改めて感じることがあった。本書の長所は、「日本」という概念を自明のものとしていないところにある。太古において、日本はアジア東部の陸橋であったという叙述から本書は始まる。それは樺太から琉球をむすぶ細長いアーチ状の陸地として存在したのである。その陸地は東西に細長く伸びている。この列島における東西の差は、ほとんど歴史以前、縄文、弥生の時代から歴然として存在していた。紀元前後、銅鐸、銅矛の分布図においても東西の文化圏はくっきりと対照的な姿を示している。この列島における東西の文化差ははるか遠い由来をもつのである。しかし、その差異は近年急速に破壊されつつある。その均質化の圧力と破壊の速度の異常さを考えると、改めて慄然とする。

本書を読むと、日本列島の西と東は、あたかもメトロノームの両端のように、ある時には西へ、ある時には東へと、時の権力を交互に移動させてきたことがわかる。この振り子は日本国のエネルギーを起こす巨大な発電装置だったのである。

ある時には正統的な西の王朝へ権力が回帰し、ある時には東でつちかわれた「もののふ」の潔い倫理がそれを東方へ呼び戻し、再び王政復古の風が西に吹き、それに抗うようにリアリスティックな覇道の風が東へ吹きつける。その振り子の振幅がこの国の歴史を作り、エネルギーを発生させてきたことが読みとれる。

そしてこの東西に推移する振り子が止まった時になにが起こるか。それは天下統一を成し遂げた秀吉の第一の政策が「朝鮮出兵」であったことが象徴的に物語っている。この国の内部における対立軸の喪失は、急速な国内の均質化を招き、その結果は国外への膨脹政策の形をとる。これはこの国を支配する運動法則のひとつではないかと思える。

薩長土肥の雄藩の群雄割拠を止揚した結果、生まれた明治維新後の政府の方針を見てもそれはわかる。昭和維新の空気がたちこめた時代の大陸への膨脹政策を見ても、それはわかる。

この国の特質は、細く長い列島の形状に由来する。その細さは凝集力の強さを示し、その長さは多様性を示す。いったん何事かが起こればただちに凝集して国力を急激に高めるメンタリティをもつことはおそらくこの国の長所と考えていいだろう。

また、国土面積の小ささに比して、その列島が東西に比較的長いスパンを有することは、国内における文化にある程度の多様性をもたらすことになる。

何事かが起こった時の凝縮力、瞬発力の強さ、国土面積に比して大きい地域格差。この両者が良いバランスを保つことができれば、国力の効率的な発展と、その多方向への伸長が約束される。

しかし、それが裏目に出れば、ヒステリックで情緒的な波の急速な高揚と、国内が均質化した結果、引き起こされる国外への夥しい膨脹圧力の合体が見られることになる。一言でいえば、ヒステリックな排外主義、拡張主義がこの国にはしばしばあらわれるのである。

国力を凝集することは、けっして短所ではない。しかし、この国が国内における多様性を見失った時、その凝り固まった力が堰を切ったように国外へと放出される傾向があることに対して私たちは自覚的であらねばならない。

この国を一色に塗りつぶす力に対してはいつも警戒の念を忘れてはならないということである。

先日、私はテレビジョンを「完璧な洗脳装置」と呼んだ。おそらくその文章を読んで、その内容にぴんとこられなかった読者の方も多かったのではないかと思う。

私がいいたかったのはこういうことだ。冒頭で述べた何千年にもおよぶ日本列島の東西の文化差を今日急速に破壊しつつあるのは何か。地域ごとの文化を破壊し、方言を撲滅し、この国を一色に染め上げつつある道具は何か。人々のゆったりとした落ち着きを奪い、表面的には自主的な選択という形をとりながら、その実、人々の生活から自主的な選択権を奪っている道具は何か。

その道具についてあらためて考える必要があるのではないか。私はそういいたかったのである。

この弓状の列島を一色に染め上げる精巧で高性能な道具。それはまた国外に対して途方もない暴力的なエネルギーを放出する道具にもなりうるということを、われわれは自覚する必要があるのではないだろうか。

私がいいたかったのはそういうことなのである。



Last updated  2006.08.09 21:51:45
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難しい問題ですね。   freedomさん


Re:難しい問題ですね。(08/09)   M17星雲の光と影さん


お久しぶりです   somewhere else not hereさん


Re:お久しぶりです(08/09)   M17星雲の光と影さん


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