6. 1/28UP!6.タクシーの運転手さんがドアを開けました。 「早く逃げろ!」ありがたいのですが、手錠がつながったままです。 しかも暴れたせいで、アヤの手首にしっかり傷がつきました。 「これ。外してください」 じゃらっと手錠でつながれた手首を見せ付けます。 「わかりました」 克己が案外、素直に外しにかかったので拍子抜けです。 ちいさな鍵で、ようやく手首が自由になりました。 「ピッキングの技術を身につけるべきだな。 まさか大人の玩具で捕まっていたとはね、とんだ悪趣味だ」 志信さんがチャカで克己の頭を殴りつけました。 うずくまる克己を見ながら、「昔、ローターを持ち出したひとがいましたね」 アヤがきっぱりと言い放ちます。 「ほう?」 志信さんが苦笑しています。 「俺は初めてだったのに、とんだ悪趣味です」 「おおいに暴れてくれたよな。おかげで、アヤに惚れた」 志信さんが反対側のドアを開けました。 克己を引き摺り下ろすと、「持って行け」と声をかけています。 何事でしょう??と、アヤがタクシーから降りると。 「アヤさん。ご無事で何よりです!」 黒いスーツの男たちが、タクシーを取り囲んでいました。 離れた所にはスモークはったセンチュリー。 志信さんの愛車です。 そして、舎弟たちが乗ってきた数台のベンツも。 「今日は克己が大叔父に謝罪に行く予定だった。 しかし定刻になっても克己が現れない。 時間厳守で生きてきた男だったから、これは様子がおかしいと大叔父から連絡が入っていたが、まさかアヤを攫うとはね」 チャカをさくっと上着にしまいこむと、無言でアヤを見つめます。 アヤの頬に出来た傷が気にかかるようで 「怪我をさせたか」 「あなたが」 志信さんがアヤを抱き寄せました。 「怖い思いばかりさせてしまうな。すまない」 アヤを両手で抱き締めて、黙り込んでしまいます。 「謝らないでください。もったいないです」 アヤは志信さんの匂いを嗅いで、ほっとしました。 汗に混じるムスクの香り。 もう間違えない、間違えてたまるか。 しかし・・ 「アヤ~~!!」 遠くからスキップをしながら近づいてくるその声に、アヤの心臓が跳ねました。 「アヤ、無事か?」 なんとノブが登場です。 どうしてここにいるんだ・・とアヤが硬直。 しかしノブはアヤの様子に気づかないようで、大好きなアヤを志信さんから剥ぎ取ろうとします。 「兄貴!何やってんだよ!どいてくれよ。」 「おまえこそなんだ。今まで車の陰に隠れていたくせに」 志信さんが軽く追っ払います。 「その弱腰のままでは、おまえに舎弟はつかないだろうな」 「!兄貴、アヤの前で極道の話はやめてくれよ。まだその話はしていないんだ。アヤがびびるだろう!カタギなんだからさ! それにしても、兄貴。どうして捨て身でアヤを助けてくれたんだ? 極西会も来ているし・・このひとたちは大叔父の直系じゃないの?」 鈍すぎます。 「ノブ、」 アヤが言おうとしましたが、 「こうまでおめでたい奴とは知らなかった」 志信さんがため息をつきました。 「私の彼女が見てみたいと言っていたな。親よりも先に紹介しよう。 新垣アヤだ。私とともに、いずれは大叔父の意思を継ぐ」 「はい?」 ノブが目を丸くしています。 「アヤさん、オヤジサンから電話が入っております!」 幹部がひとり携帯を持って走ってきます。 「どうぞ!」 うやうやしく携帯を渡していますよ。 「は?なにそれ。大叔父??なんで?」 ノブの頭は混乱です。 「俺のすべてを預けていられるのは、志信さんだけだよ。黙っていて悪かった。 ごめん、ノブ」 アヤはすらすら暴露して、すぐに携帯に出ます。 「はい。あ、はいはい。あ~・・」 まるでツレと話しているようですが・・相手は極西会の親分さんのはず。 舎弟も落ち着かない様子で、アヤの周りを数名がうろうろしています。 そしてノブも大騒ぎ。 「アヤ~!どうして黙っていたんだよ!!」 「聞いていないからだろう」 志信さんがかわりに答えてあげました。 「兄貴!!俺がアヤを好きだと知ってて・・」 「そんなことは知らん。そのまえにアヤは、おまえでは無理だ」 志信さんは煙草を銜えています。 「兄貴ならいいのかよ!そんな理屈が通じるもんか」 ノブが暴れだしました。 「いつからだよ~!」 「忘れた」 志信さんがうざそうにノブを追っ払います。 冷たいお兄さんです。 「おまえは誰かに家まで送ってもらえ。私は今から、大叔父のところに寄っていくから」 「アヤは?」 「連れて行くに決まっているだろう。大叔父がアヤをお気に入りなんだ」 志信さんが白い煙を吐き出しました。 「おかげで今日も団体さんで、食事会だろうなあ」 「俺も行きたい!」 「来なくていい」 志信さんがアヤに近寄ると、舎弟たちがさっと道をあけました。 「じゃあ、志信さんにかわります」 タイミングよくアヤが携帯を渡します。 「・・切れているじゃないか」 「知りませんよ」 「大叔父め、年をとっても色欲は落ちないか。 きちんと話をしなければいけないな・・。アヤをそこらの男娼と間違えていやしないか」 「男娼じゃなくて、孫でしょう」 アヤは平然と言い切ると舎弟たちに「上着貸して」 「ああ、寒そうですね。アヤさん!俺のをどうぞ」 一斉に男たちが脱ぎだしますが・・脱いだあとのシャツ姿にはもれなくチャカが隠してありました。 「着ていてよ・・」 さすがのアヤもどんびきでした。 「ノブが持っていたぞ、ほら」 志信さんが投げて遣します。「制服姿で大叔父に会うなんて、おこずかいがもらえるぞ。きっと」 志信さんがセンチュリーに乗り込みます。 「ほら、さっさと来い」 「そのまえに、すみません。お金貸してください」 「は?」 「タクシーの料金」 ああ、と志信さんが財布を開けました。 渡したお札はやたら分厚いのですが・・? 「修理代も含めて」 「そう伝えます」 アヤが運転手さんにおわびしながら渡すと「きみ・・ヤクザなの?」 「はあ。そうらしいです」 「きみの人生は間違っていないか・・?」 「しょうがないです。好きな人がヤクザものなので」 アヤがあまりにも平然としているので、運転手さんも笑うしかありません。 「車を壊してごめんなさい」 アヤが頭をさげて微笑むと、運転手さんが「その怪我、残らなきゃいいね。もしも、跡が残ったら償ってもらうんだよ?」 ひらひらと手を振ってエンジンをかけました。 「ありがとう」 アヤが一礼してタクシーを見送ると、見守っていた男たちも頭を下げました。 「そこ邪魔」 取り囲む男たちをどかして、アヤがセンチュリーに駆け込みます。 「傷よりも髪か」 アヤがルームミラーで髪を直していると、志信さんが頬を触ります。 「強くなったな」 「ええ。あなたの傍にいて、つりあえる人間になりたいんです」 シートベルトを外して、体を近づけます。 「あなたが好きだから」 志信さんはハンドルから手を離してアヤを抱き寄せました。 「私は果報者だな」 互いに求め合うキス。唇が唾液で濡れていきます。 いつまでも発進しないセンチュリーに、数台のベンツが足止めです。 クラクションも鳴らせません。 「オヤジサンに密告しましょうか」ベンツの中では舎弟に苦笑されていたとか、いないとか・・。 幸せなふたりに、野次も飛ばせませんね。 <人違いのキス。>おわり。いつもありがとうございます! お時間ありましたら・・また遊んでやってください。 アヤの卒業編。組同士の乱闘の予感~。 開始しました。1話です。 ジャンル別一覧
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