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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

2. 2/9UP

2.

「ほう!ノブの同級生か。ならば今年で卒業だね」
瀧本家の主。
志信さんのお父さんがブランデーを片手にご機嫌です。

瀧本の家の夕食に、なぜかアヤが連れてこられました。
どこの組のものとも知れぬものがうろつくので、用心のために実家で様子を見ることにした志信さん。
当然、アヤをひとりにはできません。

「それにしても、うちのノブとは全然違いますね。
雰囲気というか、顔だちはともかく・親が違いますから・・
まあなんというか・・。
細いし、顔が小さいし・・。
ねえ、お父さん」
動揺しているようで、歯切れの悪いお母さんがお父さんに助けを求めます。

「そうだなあ。可愛らしい!この一言に尽きるね。
この新垣くんに、うちの塾の受付をしてもらってから生徒が増えたけれど、
見物客も増えたなあ!あっはっは!」
お父さんは塾の経営者です。
大叔父からの跡継ぎの指名は、長男である志信さんでした。
兄を慕う弟のノブまでも付いていくといいだしてしまい、瀧本の家は跡継ぎを失いました。
この瀧本の家と、塾の後継者を考えると頭が痛いのですが・・。

大叔父にはとても意見ができません。
この瀧本の家は別として、塾は極西会があってこそ成り立つ商売でした。
進学塾といえば、金の成る木です。
そこを狙ってヤクザものがふらふら現れ{用心棒代}として、ミカジメ料を取ろうとすることはこの業界ならずとも水商売でもよく聞く話です。

しかし、極西会がしめている塾です。
ほかのものは手出しが出来ません。
おかげで揉め事ひとつなく、塾を運営して来れました。


「新垣くんは、今後はどうするのかな?大学進学かい」
ご機嫌お父さんは、アヤの事情を全くご存知ありませんね。

「いえ、俺は」
言いかけたアヤを、志信さんが制します。
「黙っていなさい。おまえは、ときどき素直すぎる」

「ときどき・・?」

お母さんが聞き逃しません。
「志信?新垣くんに対して、言葉が乱暴すぎませんか。
あなたは大叔父に似たところがあるので、心配ですよ。
新垣くんは瀧本の家の元の家業を知らないから、ほら・驚いているじゃありませんか。
そんな言い方をしてはなりません」
そう言いながら、目の前でマスクメロンを包丁で真っ二つ。
アヤもびびりました。
「丁度、食べごろのようね」
ザクザクとメロンを切っていきます。
飛び散る果汁。
細い指が、わたと種をわしづかみ。
そして部屋に広がる甘い香りに、もうこれだけでおなかがいっぱいになりそうです。
食べるのを拒否したくなります。

綺麗なお顔立ちのお母さんですが、やることはアグレッシブ。
それに慣れているようで、志信さんは体をひきながら身を守っています。
お父さんはさりげなく立ち上がって「きれいな夜空だね~」などど、しらじらしい独り言。

アヤは固まっています。
豪快な包丁さばきは、まるでマグロの解体ショー。

「新垣くんはメロンはお好きかしら」

嫌いとはいえません。食べたくないとは言えません。
言ったら刺されそう。

「冷えていたら」
アヤは素直すぎます。
隣で志信さんが爆笑しました。
「面白い子ね、新垣くんは」
お母さんが、みずみずしいメロンをアヤに渡します。

「遠慮なく、どうぞ」
いや、遠慮したいですね。
固まるアヤを面白そうに志信さんが眺めています。

「食べながら、お話がしたいのだけれど。
志信。尼崎ナンバーのベンツに心当たりがありませんか」
「いいえ。大叔父のところではそのナンバーは使いません」

「ならば。先ほどから停車しているあのベンツは、よそものですね」
カーテンを開け放した窓の向こうに、街灯で浮かびあがる黒塗りのベンツが。

「窓から離れてください」
志信さんがお父さんに向って叫びました。
「なんの。手出しはすまい。
瀧本の家はカタギだからね。カタギに手を出したら、あの世界では生きてはいけない」
お父さんは余裕です。
「何者か知れません。奴らのことは大叔父が調べている途中で、もしも」

「撃てば抗争だ」
ひんやりとした空気が流れました。

「俺が見てきます」
アヤがおかしなことを言い出しました。
「俺は顔が知られていないでしょうから」
「待ちなさい、」
志信さんが立ち上がるアヤを制止しようとしましたが、

「あなたが行ったら撃ってくるかもしれません。
次期組長、あなたに怪我させるわけにはいきません」
アヤがそういいながら腕をふり払うと、走って出て行きました。

「次期組長か。あの子はどこまで知っているんだ?」
お父さんが志信さんのほうを見ました。
志信さんはそれに答えずに、立ち上がります。
「メロンを冷やしておきましょう」
お母さんがラップをかけました。アヤは一口も食べていません。
「志信、何処に行くの。手伝いなさい」
「アヤを見てきます」
「志信。あの子はすべて知っているな?ならば、ノブと同じにおまえの舎弟。
おまえのために盾となることくらい、覚悟しているのだろう」

「舎弟ではありません。アヤは私の・・」


志信さんが両親にとんでもない告白をしている頃、アヤは玄関の前にいました。
黒塗りのベンツが沈黙しています。
受付男子のスーツ姿のまま、ゆっくりと近寄ります。
ベンツは動きません。
様子を伺っているのでしょうか。
アヤはナンバーを確認します。尼崎。その次の数字・・

「どこの坊っちゃんだ」
助手席のドアが開いて、長身の男が出てきました。
煙草を銜えています。
「ああ。塾の受付にいた子だな。暗闇でも映えるね~、そのツラ」
白く濁った煙を吐き出しながら、アヤをまじまじと見つめています。
「かわいいね。甘い匂いがする。メロンでも食べた?」
「何か御用ですか」
「お。たいそうな口の聞き方をするね。ここがどんな家だか知っているのか?
ヤクザの家になんて関わらないほうがいいぞ」
言い終えると煙草を捨てました。
まだ火がついています。臭い煙が立ち上ります。

ムカッときたアヤが、長身の男の前に立つといきなり叱り付けました。
「煙草を路上に捨てるな」
「は?」
「ここはあなたの私有地じゃない。拾って、持って帰れ」
「は・・?」

「それに、さっきから上から物を言う・その言い方が気に入らない」

アヤがとんでもないことを!
相手はヤクザかもしれませんよ、しかも極西会に喧嘩を売るヤカラかも知れないのに。

「面白いガキだな?見かけは可愛くても、胆の据わったこの体。
おまえ、もしかして極西会の関係者か?」


シリアスになれないアヤです・・ 
3話です。


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