5. 2/16UP5.「ふざけるな!」アヤの細い足が志信さんの頬をかすめました。 「暴れるんじゃない」 志信さんが足首を掴みます。 しかし、ばたばた暴れるアヤの足。 容赦なく志信さんを狙って蹴りが飛んできます。 「縛って欲しいのか?」 志信さんが厄介そう。 「そんなプレイはしたくない」 「俺だって望んでいませんよ!なにが大叔父のところで身を隠せだ。 今更、そんなことを言われて<はい>と言えません」 アヤが身を起こして、今度は平手打ちに来ました。 志信さんがアヤの足を持上げて体勢を崩しました。 「喧嘩をしにきたわけじゃないぞ・・」 アヤも志信さんも息があがっています。 間抜なふたりに、布団から抜け出た羽毛が舞い落ちます。 「アヤ、落ち着いて聞きなさい」 「何が」 「その反抗的な態度を改めろ」 「あなたがいけないんでしょう!」 ぷんぷんに怒っているアヤの前でネクタイを緩めながら、 「私といると、狙われる」 志信さんはため息をつきました。 「抗争にならないようによそ者と話をつけるまでの間だ。暫らく大叔父に・・」 どんっと音がしました。 ようやくアヤの蹴りが志信さんのみぞおちにヒットです。 「・・アヤ!」 細いながらも男子の蹴りです。 しかもその蹴りで、何人もの男を倒してきましたからね・・なかなかの威力があるはずです。 「あなたは、俺を何だと思っているんですか!?」 ネクタイを掴んで詰め寄ります。 「あなたの傍から離れません。俺は覚悟を決めているんですよ! それなのに子供扱いして・・俺だってあなたを護りたいんです」 真剣なアヤのまなざしに、志信さんは自分の愚かさに気がつきました。 いつのまにか、アヤは弟ノブと同じ年であっても、他の誰よりも自分のよき理解者となりつつあったのです。 護って当たり前だと思っていた子に、<護りたい>と言われて志信さんはようやく目が覚めました。 アヤとの出会いは、最初はセフレでした。 お金で繋がる関係に嫌気がさしていたのは志信さんも同じでした。 アヤのことは、一目で気に入っていたのです。 教えた携帯の番号に、アヤがすぐにかけてくる。 特に用事でもないくせに。いきなり黙り込んだりして。 会えない日は、互いが携帯を見ながらかけてこない相手を思っていたりしました。 「会いたい」 一言でも言えば、志信さんはいつでも走ります。 「そこで待っていなさい」 言われればアヤは、必ず待っています。 アヤに思いのたけを打ち明けられた日に、志信さんはアヤを手放さないと決めました。 いつでも傍に置こうと。 とても大事だから。 なのに、いつも一緒にいると忘れてしまう。 いるのが当たり前だからと、アヤをいつも危ない目にあわせてしまう。 アヤを護りたい、でも護りきれない不甲斐なさを感じた志信さんは、一番忘れてはいけない気持をどこかで落っことしていました。 「離れたくないって言ってるんです!」 ちっとも返事をしない志信さんに怒りまくりのアヤが絶叫したら 「悪かった」 ぎゅっと抱き締められました。 「本当に、悪かった」 泣かせた子をあやすようにぽんぽんと背中を押して「離さない。私が護る」 「・・志信さんの傍にいると怪我ばかりだ。でもあなたが怪我をするより、随分と気が楽です」 抗争を控えた時期組長の自分に、ここまで言える人間がほかにいるとは考えられませんね。 身内ですら、逃げ出すかもしれないのに。 「悪かった」 「もう・・何度も言わないでください。勿体無い」 アヤの髪に顔を埋める志信さんに、お風呂に入れてもらおうかなあ・・とアヤはぼんやり想いました。 その頃、大叔父に宣戦布告のつもりか・・ 「看板を上げおったか!」 極西会のシマで、よその組の看板が上がりました。 6話です。 |