4.4.アヤが敵地に乗り込んでいるとは知らず、 極西の本家は儀式の準備が進められていました。 組長襲名の儀式には極西の会員約千人が集まります。 そして季節柄、新年会も同時に行うことで決まっています。 組の全員が羽織袴を準備し、広間には祭壇が設けられ、 極道の神である天照大皇神の軸が掛けられています。 そして山の幸と海の幸を祀ります。 これは山の神と海の神の照覧を仰ぐものとされています。 普段よりも一層、緊張感の増す本家は私語が無い程に静かでした。 「極西の組長が代替わりするらしいな」 永哉がアヤに尋ねます。 「俺の質問が先だ。さっさと答えろよ。不審火はここの仕業か?」 敵地にいても、気が強いアヤです。 永哉は、そんなアヤを見て驚きを隠せません。 「世間知らずなのか? そんなことを堂々と聞く奴はいないだろう」 「正直に言えよ」 「うちの組は新聞沙汰になるようなことはしていない」 「そうか。それならいいんだ」 「…はあ?」 安堵した様子のアヤに、永哉は急に胸が苦しくなります。 「永哉の組と抗争になることだけは止めたかったんだ」 「そ、そうか」 永哉は足元がよろけて、思わずアヤの肩に手をかけます。 「何だよ、鬱陶しい」 「転びかけたんだよ!いいじゃないか、肩くらい」 アヤはその手を払います。 「俺にそうやすやすと触れて欲しくない」 「は」 永哉はアヤの顔を凝視しました。 姿は見えなくても、アヤを護るものがいるのだと悟ります。 「新垣。これ以上ここにいたら俺は庇えない」 「わかった。帰るよ」 ひらひらと手を振って出て行くアヤを見送りながら、永哉は疲労を感じます。 「新しい組長が、新垣の旦那ってことか」 アヤに対して芽生えかけた感情を押し殺して、 居間に戻ろうとすると永哉を、山本組長が呼び止めました。 「どうして帰した?」 「子供のお使いだったからです」 「アホか―」 組長が呆れ顔です。 「極西のものなんだろう?捕まえておけばいい切り札になるというのに」 組長は、どうやら極西と一戦交える腹積もりのようでした。 「おやじさん、抗争だけは」 永哉はアヤを気遣いました。 「どうした。いつから腰抜けになったんだ?」 ぎらりと組長の目が光ります。 「わしと親子盃を交わしたというのに、今日のざまは何だ」 「すみません!」 永哉が深くお辞儀をすると、その腕にぴしりと木刀が当たりました。 「ぐっ…」 堪えながら「ありがとうございました!」と礼を言いました。 組は縦社会であり、組長の意見には絶対服従です。 「来週は極西で儀式がある。これを邪魔するわけにはいかない」 その声に安堵したのもつかの間、 「今週中に、目に物を見せてくれよう。邪魔な極西は解散させる」 組長は木刀をぶら下げて、中庭から居間へ戻っていきました。 それを追うように男衆が続きます。 立ち聞きされたのも恐ろしいのですが、 アヤの存在を知られたことが永哉の失態です。 「新垣アヤ…」 守れるのでしょうか。それとも抗争を止められるのでしょうか。 アヤと同じ年の永哉には名案が浮かびませんでした。 押すと5話へ ジャンル別一覧
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