99.「俺と絵が描きたいなら、描くよ?」 一陣の冬の冷たい風が吹き抜けていきます。 足元に枯葉が踊りだして、立っているこの気持すら揺らぎそう。 「別にいいじゃん。一緒に描けば」 まだキツネは試しているようでした。 優しい微笑に隠したのは隙をうかがう鋭い目。 章がひるんだら、指がひょいと伸びそうです。 章にとって、絵を描くというのは特別な思いがありました。 絵を描くのがすき。勿論そこから始まりましたが、 上手くなりたくてもがいてきました。 ひと目ぼれした先輩を描きたくて、この高校に入学したのですし、 美術部にも入りました。 絵筆を持たない自由気ままなネコとの作業が続きましたが、 不満を言いつつも来夢でよかったと思うのです。 主張のある自分の作業の仕方だと、普通なら衝突したことでしょう。 しかしかえって、あの気ままさが性にあうようです。 そう言いたいのですが・・。 「あのさ、寒いんだけど」 宇佐美が鼻を擦ります。 「中で話さない?」 ちょいちょい、と手招きして校舎に入れてしまいます。 「移動で使っていない部屋があるから。そこで話そう?」 スタスタと先を歩く宇佐美に綱をもたれたように、付いていってしまう章。 宇佐美がドアを開ける寸でのところで、危ないと気づきました。 「あ。でも授業が始まるから。またあとで」 すらっと腕が伸びて、章の頬をかすめました。 「帰したくない」 章の眼鏡をずらすと、 「その目で、俺だけ見ているわけにはいかないのかな?」 低い声が本心であることを伝えます。 「章のこと気にいっているんだけど」 そんなことを言われても困ります、でもすぐに拒否できません。 「宇佐美さん、俺は」 ドアを開けて、中にどんと押し込まれました。 床にしりもちを着いて、顔を上げると視界がぼんやり。 眼鏡を取られているからです。 「宇佐美さん、ふざけないでください」 「ふざけていないよ。俺は大真面目」 「来夢~。さっきから俺の話を聞いていないだろ!」 友人がぶうぶう文句を言います。 「うん、ごめん」 来夢は上の空です。 もう授業が始まります。でも教室に戻らない章が心配です。 「また、あいつのこと?ムカツク~」 友人は、章がいない隙をチャンスとばかりに 「クリスマス、俺と遊ばない?」 「家族と過ごすから無理」 「・・来夢。俺はあいつよりもきっと、来夢を大事にできるよ」 「なにそれ?」 「来夢に、そんな不安な顔をさせないってこと」 顔を赤くしながらの告白に、来夢は瞳を瞬かせました。 「脈あり?」 「章じゃなきゃイヤだ」 姿の見えない相手に伝わるように、祈りをこめた言葉でした。 →→10話に続きます。 ジャンル別一覧
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