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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

9

9.

「俺と絵が描きたいなら、描くよ?」
一陣の冬の冷たい風が吹き抜けていきます。
足元に枯葉が踊りだして、立っているこの気持すら揺らぎそう。
「別にいいじゃん。一緒に描けば」
まだキツネは試しているようでした。
優しい微笑に隠したのは隙をうかがう鋭い目。
章がひるんだら、指がひょいと伸びそうです。

章にとって、絵を描くというのは特別な思いがありました。
絵を描くのがすき。勿論そこから始まりましたが、
上手くなりたくてもがいてきました。
ひと目ぼれした先輩を描きたくて、この高校に入学したのですし、
美術部にも入りました。
絵筆を持たない自由気ままなネコとの作業が続きましたが、
不満を言いつつも来夢でよかったと思うのです。
主張のある自分の作業の仕方だと、普通なら衝突したことでしょう。
しかしかえって、あの気ままさが性にあうようです。
そう言いたいのですが・・。

「あのさ、寒いんだけど」
宇佐美が鼻を擦ります。
「中で話さない?」
ちょいちょい、と手招きして校舎に入れてしまいます。
「移動で使っていない部屋があるから。そこで話そう?」
スタスタと先を歩く宇佐美に綱をもたれたように、付いていってしまう章。
宇佐美がドアを開ける寸でのところで、危ないと気づきました。
「あ。でも授業が始まるから。またあとで」
すらっと腕が伸びて、章の頬をかすめました。

「帰したくない」

章の眼鏡をずらすと、
「その目で、俺だけ見ているわけにはいかないのかな?」
低い声が本心であることを伝えます。
「章のこと気にいっているんだけど」

そんなことを言われても困ります、でもすぐに拒否できません。
「宇佐美さん、俺は」
ドアを開けて、中にどんと押し込まれました。
床にしりもちを着いて、顔を上げると視界がぼんやり。
眼鏡を取られているからです。
「宇佐美さん、ふざけないでください」
「ふざけていないよ。俺は大真面目」




「来夢~。さっきから俺の話を聞いていないだろ!」
友人がぶうぶう文句を言います。
「うん、ごめん」
来夢は上の空です。
もう授業が始まります。でも教室に戻らない章が心配です。
「また、あいつのこと?ムカツク~」
友人は、章がいない隙をチャンスとばかりに
「クリスマス、俺と遊ばない?」
「家族と過ごすから無理」
「・・来夢。俺はあいつよりもきっと、来夢を大事にできるよ」
「なにそれ?」
「来夢に、そんな不安な顔をさせないってこと」
顔を赤くしながらの告白に、来夢は瞳を瞬かせました。
「脈あり?」
「章じゃなきゃイヤだ」
姿の見えない相手に伝わるように、祈りをこめた言葉でした。

→→10話に続きます。











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