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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

17.終わり

17.

突然、家の電話が鳴り出して驚いた。
母がまだ帰宅していないので、俺が出るしかない。
「ふぁい、西野です」
鼻を啜りながら出ると相手は驚いたのか、声を失っている。
無言なので「どちらさま、ですか」と聞いた。

「……すぐそこまで来ているから、ドアを開けてくれる?」
(藤江さんの声だ!)

 俺は受話器を放り出すと玄関へ行き、頬を拭きながらドアを開けた。

「……そんな泣き顔を見る為に来たのではないんだけど」
 藤江さんがばつが悪そうに首を傾げている。

「泣き顔も、悪くないね」
 頬を指で軽く突かれた。
「どうして来てくれたんですか」
「会いたいって、あんなに言う子は初めてだから」
 気持は伝わっていたのか。藤江さんを見上げるだけで涙が零れてしまう。
涙は嬉しいときにも流れるものなのか。

「生意気な子が従順になると、心が動くよ。それも私の影響かと思うと気分が高揚する」
 俺も鼓動が高まっている。
「陽斗さんと呼ばせて下さい」

「うーん。従順と誉めた途端にこれか。しかし悪くない。好きに呼んでいいよ」
 陽斗さんは腕組みをしながら苦笑いだ。
嫌われたくないし、子ども扱いも辛い。

「外方を向かないで下さい。俺と向き合おうと、少しは思ってくれたんでしょう?」
陽斗さんは「そうだね」と言って、俺を見つめてくれた。

「あなたが好きです」
 告白すると、体の力が抜けていく感じがした。今こそ力を出すべきなのに。

「私もだよ。だから自分を追い込むな。私は職業柄、恋人を作らないようにしてきたんだ。相手に『会いたい』と言われても仕事中は会えないし、出かける約束もできない。だが、蒼空にここまでいわれたら男冥利に尽きる」
 そして優しく微笑んでくれた。

「一度突き放してみてよかった。蒼空は私の好みだから、私の想いも募っていた。両想いなんて嬉しいものだな。来月はクリスマスだし、楽しいことは早めに準備するといいな」
 俺は言わされたのか? でも後悔はしない。

「好きだよ、蒼空」
 陽斗さんが俺の涙を拭い、抱き上げてくれた。
鼻の頭が触れ合う近さで見詰め合うと、どちらからでもなく唇を重ねた。
そして舌を絡めあい、互いが唾液を欲して吸う。

「陽斗さん、下ろして」
体が火照り、我慢ができない。玄関先で上着を脱ぎ、シャツのボタンを外した。
「跡を付けて欲しい」
 ねだると陽斗さんは応えてくれた。
鎖骨を吸うようにして赤い跡をつけ、痺れる感覚で起った突起を指で転がして刺激した。


「次は私の好きにさせろよ」
 喘ぐ俺を抱くと、床にあお向けにされた。
 下着の中に手を入れられたとき、陽斗さんの指の冷たさに体がびくりと跳ねた。
「この指を温めて貰おうか」
 陽斗さんが力強く俺の自身を扱いた。
この気持よさに早くも先走ってしまい、その液を陽斗さんの手が受け止めた。

「んっ、んー!」
 その濡れた指が自身を撫でて刺激する。
むず痒いような感覚にじっとしていられずに下着ごとボトムを下ろすと「いい子だ」と陽斗さんは口角を上げて俺をうつぶせにした。

「お尻を上げてごらん」
 言われたようにお尻を突き出すと、陽斗さんが俺の秘部に指を入れて慣らす。
「いけそうだな。一回で慣れたのか」
 陽斗さんの顔は見えないが、自身が入ろうとしているのがわかる。
濡れた先端がお尻を突いたからだ。

「力を抜いていればいい」
 俺の腰を揉みながら挿入し、昨日よりも奥まで来てくれた。
そして激しく打ち始めて、
体のぶつかり合う音が俺の気持を高揚させた。
「あっ、あん。陽斗さ……」
 陽斗さんは挿入したまま、俺を抱き締めた。
「……陽斗さん、イきたい」
「だめ。もう少し体温を感じたい」
 その言葉だけで目が眩む。
やっと、欲しいものが手に入ったのだ。

それはお金ではなくて、好きになった人の心だ。


 


俺は陽斗さんが母に話したとおり家計を助けるべく繁華街の靴屋でバイトを始めた。
平日は冷やかしが多いと聞いていたが、俺が声を掛けると、取り置きを依頼する客が増えた。
「西野くんは親しみやすい雰囲気なんだよね、だからお客がつくんだなあ」
 店長が誉めてくれるが自覚は無い。
「そうですか?」
 首を傾げながら店頭に並べたブーツの埃を払っていると同級生がやってきた。

「おお、蒼空。頑張ってるー?」
「俺達は受験生なんだから程々にしろよ?」 
これこそ冷やかしだが、声を掛けられると嬉しい。
友人と少し会話をして店内に戻ると、スーツを着た男性が店長と話していた。

「いらっしゃいませ」
 声を掛けると陽斗さんだった。
しかし唇に指を当てた。他人の振りをしろということだ。
「明後日、友人の結婚式でね、合う靴を探しているのだよ」
「でしたら、エナメルをお勧めしますよ。サイズはお幾つですか?」
「二十六センチだ。在庫はあるかな?」
「はい、すぐに確認します」
 まるっきり普通の客と店員の会話だ。在庫を出してきて、陽斗さんを椅子に腰掛けさせると

「失礼します」と靴を脱がせた。
「へえ。凄いサービスだね」
「お客様の手を煩わせないように勤めるだけですよ」
 いつまでこの他人行儀を続ける気だろう。

「誰に対しても、靴を脱がせて、履かせてあげているのかい?」
「女性客にはしませんが」
「そうだね。失礼だとお叱りを受けそうだ」
 店長を含めて皆で笑う。とても和やかな雰囲気だ。陽斗さんも微笑んでいる。
「では、この靴をいただくよ」

 陽斗さんはごく普通な態度で、靴を買ってくれた。
「ありがとうございました」
 靴の入った紙袋を渡して見送ろうとすると「ああ、きみ。ちょっといい?」と、ようやく声を掛けてくれた。
「これでよろしく」
「あ、はい?」
受け取ったのは名刺だった。
しかし裏を見ると『バイトが終わる二十時に迎えに来るから』の文字と走り書きの文字があった。
(えっ、凄く嬉しい!)
 陽斗さんは仕事の合間を縫って、わざわざ時間を作ってくれたのか。

「あ。ありがとうございます」
 照れてしまって、声が上ずる。
「どういたしまして。バイト、頑張って」
微笑みながら肘を突かれた。

「客の靴を脱がせるサービスは納得しかねるな。他の客に嫉妬しそうだが。二十一時には蒼空
を独占できるから、よしとするか」
 俺も陽斗さんを独占できるのが待ち遠しい。
爪先立ちで「嬉しいです。あなたのものになりたい」と陽斗さんの耳に囁いた。


終わり

ありがとうございました!


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