15.15.『惚れたぁ?』 俺は力が急に抜けた。 拳骨の指は解けて風雅さんにしがみついた。 「もう一回言って下さい」 「言いたくない。私は年下に興味は無い体質だと思い込んでいたのに、その凝り固まった思考を文字通り叩き崩したのがおまえだ」 「は、そんな言い方ではよくわかりません」 上着の裾を引っ張ると肩を抱き寄せられた。 「何度も人の体を叩きやがって。組の者でも私に手を上げる奴はいないぞ。もしもそんなことをしたら腹を切らせるが」 何て怖い世界だ。まだ時代が昭和なのか? 腹を切ったところで苦しむだけで、絶命しないだろう。 「風雅の兄貴、では、あっしらは他所の回収に向かいますんで」 「残らず頼むぞ。私はこのやんちゃを家に送り届ける」 頼んでもいないのにまた車に乗せられた。 むっとしながらシートベルトをつけると、鼻に違和感を覚えた。 「あれ。煙草臭くないですね」 「下端に掃除をさせたんだよ。クレハが嫌がるから」 「え」 「クレハ、一つ聞いておこう。極道の彼氏を持つ度胸はあるか?」 「ごっ……。そんな事を言われても経験が無いからわかりません!」 一体、何を言い出すのだ! 混乱しそうだ。 「早く腹を決めろ。まずはキスを教えてやる。昨日みたいなものでは子供騙しで起つものも起たない」 「たっ……」 「口での処理は出来るのか?」 「それはやって貰う側です!」 次第に嫌な汗をかいてきた。俺は守られたのではなく、拉致されたのではないか? 「男の経験が無いのか。これはまさしく上玉だ。私はついているな」 「風雅さんは同性の経験があるんですか」 「あるわけが無いだろう。クレハが初めてだ。濁りの無い目に威嚇されると私は弱いらしい。 こんなにやんちゃで我侭な子供に欲情した」 車は細い裏道を抜けて、県道に入り更に南下して国道を目指していた。 「……家とは逆の方向なんですが」 憮然として足を組むと、風雅さんは前を見たまま呟いた。 「今朝方ルリさんを見舞った。元気になったじゃないか。ならば外泊してもおまえの良心が咎めないだろう」 「がー?」 まさか。何をしようとしているんだ? 「昨日、携帯の番号を教えたのに掛けて来なかったのは何処のどいつだ。生殺しにされて私は非常に、気が立っているんだよ。 全く、この年まですっぽかされた経験が無いのにクレハには振り回される」 苛立つのかハンドルをコツコツと指で叩く。 昨日はそれを見て嫌われたと思ったのに、焦れていたのか。あと一押しだったんだ。 「私は追いかけた経験も無いのに、このお姫様は性懲りも無く財布を置いていくから一晩おまえのことだけ考えて、しかも私がおまえを探すなんて、人生が変わったよ」 「俺は振られたと思い込んで、ずっと悔しくて昨日は眠れなかったのに」 「それで瞼が腫れたのか。はあ、一晩、遠回りさせられたが気が合うのかもしれないな」 何だか胸が一杯になった。嬉しくて思わず手を伸ばして風雅さんの膝に触れてみた。 16話に続きます。 ジャンル別一覧
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