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■いい紅茶が手に入った、
と今朝ヒシムからメールが来ました。 俺は早速「シュウ」でレアチーズケーキを買い求めてきました。 今日は約束の日にあたります。 あと数分で、 彼はこのアパートの一室にやって来るでしょう。 しかし、今日はいつもとは少し事情が違います。 二日前、ヒシムの秘書と名乗る男が、 この部屋を訪ねて来ました。 在職中の与党議員の病死により、 遠く石川県からヒシムが与党公認候補として、 衆議院議員の補欠選挙に出馬することが決まったそうです。 その秘書から、 二度とヒシムと会わないで欲しい、と告げられました。 ヒシムは友人として雑談をしに、 時折俺の部屋に立ち寄っているだけだ、と俺は立腹したふりをし、 その男を追い返しました。 しかしその時から急に世界が色を持ち始めました。 空想の旅と作り話の彩りこそあったけれど、 それは所詮、暗く狭い部屋で映画を見ているようなものでした。 二度と逢えなくなる時が来るとわかった瞬間、 俺はヒシムを愛していたことをはっきりと悟りました。 そのことを自覚した瞬間から目の前の世界の隅々が光輝き、 突然鮮やかな色をもち始めたのです。 俺は、いや俺たちは季節を持ってしまった。 季節が二人の前にあることを知ってしまった瞬間でした。 もうじき、ものの数分でヒシムはこの部屋にやって来ます。 ヒシムを玄関に立たせたまま、その時俺はきっと、 クリームも何もついていない右手をそっと彼に差し出すでしょう。 差し出された俺の指を、彼はどうするでしょうか。 その時の彼の仕草がどのようなものであれ、 俺たち二人にとって季節が始まってしまったことを告げようと思います。 たとえ拒まれたとしても。 今はただ彼を待ちながら、 目を閉じて彼の舌の感触を思い出していたい、と思うのです。 (終わり) ~チーズケーキ専門店「シュン」@新中野(その4)~ |
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