テーマ:意外な戦記を語る(748)
カテゴリ:山本長官の死
(カモメ)大西滝治郎中将の話に戻るけど、そもそも特攻を考え出した日本人の精神的源泉は、切腹の武士道の流れから来ている。アメリカ国防省が戦後出してきた記録映画でビデオになっている「戦記シリーズ・太平洋作戦」の中で米軍の指揮官が、空母に体当たりしてくる日本の特攻機をみて、「どうしても彼らの特攻パイロットの気持ちが理解できない」と言っているんだ。米軍パイロットはそんなことは考えもしないんだよ。大和魂なんて理解できないんだ。
(ウツボ)だけどね、大和魂というけど、本来、大和魂という言葉が出て来たのは、それは平安時代かそこらの女流作家から出たものなんだ。たしか紫式部だったかな。今から1000年前だよ。それを第二次世界大戦になって意味合いを戦争にこじつけた。「大和魂で敵艦に突っ込め」とかね。それは結局戦前の戦争を行うための精神教育なんだ。若者はそのような教育を受け、いわば洗脳されてきた。洗脳についてはオウム真理教がいい例で、俺達も目のあたりに洗脳、プロパガンダの実例を見ている。そういう軍国教育を受けてきて洗脳された若者に対してさらに、ある種のムードをつくりあげ、大西長官をはじめ、海軍首脳部が若者に自発的に特攻を志願するようにした。これは実は強制とおなじことなんだよね。特攻の予備学生の若者だって恋もするし、遊びたかったんだ。今の若者とどれ程も変わりはしなかった。 (カモメ)大西長官については、側近だった人などの話によると非常に部下思いの、人情味のある人だったと伝えられている。だからこそ特攻作戦を発想したともいえる。当時はもう即製のパイロットの技量ではアメリカ軍のパイロットに太刀打ちできない。バラバラ落とされている状況だった。どうせ落とされるのなら、特攻をやったほうがいい。むしろ大西長官にしては慈悲の心境だった。 (ウツボ)それはそうかもしれないが。現実としてそうだろう。だが、こういう意外な話もある。「名将・愚将・大逆転の太平洋戦史」(講談社)によると、戦争中に製薬会社がヒロポンを大量に海軍省に収めたと。それもヒロポンのまわりをチョコレートでくるみ、菊の御紋章を刻印して納入したというんだ。著者は夢想だがと断って次のように述べている。そのチョコレートを出撃前に特攻隊員に食べさせたのではないかと。それを食べた若者は意気揚々と発進して出撃する。そして、いきりたって敵艦に体当たりするんだ。考えればむごい話だね、これは。 (カモメ)なるほど。しかし、それをむごいと見るか、そうは見ないか、考え方というか、それをどう解釈するかだね。 (ウツボ)それは人間の尊厳に関わる、あまりに重い話になってくる。俺はこれ以上詮索する必要を感じないのでこの話は置いておこう。それで、そのヒロポンの話だが、大西が自決する時、すでに腹を切って苦しい息の元で児玉誉士夫を呼び「お前でなければ出来ない事だから、お前に頼む。あの袋にはヒロポンが詰まっている。これを金に換えて日本の再建のための資金にしてくれ」と言ったとあるんだ。 (カモメ)腹を切って苦しい息の元で、そう言ったんだね。う~ん僕はそんな真似なんかできはしないなあ。君はできるかね。 (ウツボ)俺はできない。第一切腹はしない。しかし若者を特攻に出した責任を取るとしたら、最後に一人でゼロ戦で突っ込むね。 (カモメ)それは頭で計算した答えだ。君なら腹を切るよきっと。 (ウツボ)ハハハ、そうかね。それはそうと、ロッキード事件のとき、児玉の家に軽飛行機で突っ込んだ若者がいた。戦後唯一のいわば特攻だった。セスナで突っ込んだ、児玉の家の二階に。若者は児玉に特攻をかけた。若者は死んだが、児玉は運良く逃れた。どの時代でも、やるやつはやるんだ。そのころだと思うが、児玉は「最近、大西閣下がよく夢に出てくる」と言っていたそうだ。 (カモメ)それは、夢にも出るさ。大西中将は、身を捨てて国に殉じた。だが、それでも、死の直前でさえも日本の再建を思い、児玉に託したんだ。大西中将は、誤解された伝聞が多いが、もののあわれを知っていた人だと僕は思っているんだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.09.30 16:56:29
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