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意外な戦史を語る~  カモメとウツボのメクルメク戦史対談

意外な戦史を語る~ カモメとウツボのメクルメク戦史対談

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2006.07.21
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(カモメ) 戦後、「回想の将軍・提督」(潮書房)の中で岩田正孝氏(元陸軍中佐・井田正孝氏)が、阿南陸相自刃について述べている。

(ウツボ)井田正孝氏は阿南大臣に日頃から目を掛けられていて、井田も阿南を尊敬していた。

(カモメ)そうだね、それを述べておかないと、今から話すことが誤解されやすいということにもなる。井田中佐が陸相官邸を訪れたのは昭和20年8月15日午前4時頃だった。陸相の義弟の竹下中佐の案内で陸相と面会を許された。

(ウツボ)その時陸相は上半身を裸にして、腹部に白布を巻き、抜身の刀をかたわらに置き、整然としていたんだね。

(カモメ)そう、つまり切腹する直前に井田中佐が来たんだ。阿南陸相は井田中佐に「いま切腹してお詫びしようと思うが、君はどう思うか」と尋ねた。井田中佐が即座に「結構でございます」と答えた。

(ウツボ)「結構でございます」か。結構にもいろいろあるが、この場合の結構は、身を刺す様な衝撃的な言葉として迫ってくる。

(カモメ)だけど、それはもう当時は、高級軍人は皆、死ぬ覚悟をしていたんだ。だから陸相はわが意を得たりという風情で満面に笑みを浮かべて喜ばれ、井田中佐の手を握って「あとを頼むよ」と言われたんだ。

(ウツボ)その時、井田中佐はすかさず「私も閣下のお供をいたします」と述べた。

(カモメ)そうだ。その途端、陸相はいきなり井田中佐の頬に往復びんたを加え「馬鹿を言っちゃいかん、死ぬのは俺一人でよいのだ、お前達は生き残って日本の建て直しをやらねばならぬ、死んではならぬ、よいか、わかったか」と諭された。そのあと両手で、井田中佐を強く抱きかかえて号泣した。井田中佐も相擁して泣きに泣いた。

(ウツボ)日本が負けるというくやしさも二人の根底にあった。

(カモメ)「一死大罪を謝す」(新潮社)によると、実際には、阿南陸相は午前五時過ぎに切腹を始めて、臨終は午前七時十分だった。

(ウツボ)それは陸軍省高級副官美山要蔵大佐のメモによるものだね。

(カモメ)そうだね。そのメモによると、前田軍医少佐と、陸軍省衛生課長の出月三郎大佐が阿南の屍を清めた。

(ウツボ)三十数年後、出月三郎氏は「阿南大将の割腹から絶命までの時間が長かったのは頚動脈が切れていなかったためです」と証言している。

(カモメ)このカテゴリも終盤に近づいたので、ここらで阿南の自刃の理由について話そう。「日本のいちばん長い日」(角川文庫)によると、阿南自刃後、義弟の竹下中佐は、陸相官邸を出て、陸軍省に行き、若松次官以下に大臣自刃報告をした。

〈ウツボ)その際、若松次官が「遺書に『一死大罪を謝し奉る』とあるそうであるが、その大罪は、何をさしているのであろうか。貴官はどう思うか」ときいた、とある。

(カモメ)竹下中佐は次のように答えているんだね。「大罪について、私は特に大臣に質問はしませんでしたが、おそらくは、満州事変以後、国家を領導し、大東亜戦争に入り、ついに今日に事態におとしいれた過去および現在の陸軍の行為に関し、全陸軍を代表して、お詫び申し上げたのだろうと思います」と。

(ウツボ)義弟で側近であった、竹下中佐の推察だから、当を得ていると思うが、一番常識的な説であるわけだ。

(カモメ)次回では、もっと現実的な自刃の理由が述べられている資料について話そう。







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最終更新日  2015.09.26 17:53:58


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