息子の勝ちやなっ。
大阪の梅田まで、月4回程度レッスンに通っている息子と、帰る時間が同じになる事がある。実はそんな時は二人で待ち合わせして通勤快速に乗って、色々話ながら帰ったりする。あれは先月の事だった。いつもの様に22時発の電車のホームで待ち合わせをしていたら、いつもより早く息子がやってきた。いつも乗車するのは、通勤快速なので、ボックス席になっている。でもこの日は人身事故か何かがあったらしくダイヤが乱れていて、定刻通りの運行はしていたものの、横並びのベンチシートの車両がやってきた。少々ガッカリしながら仕方なく、車両最後尾の四人掛けの端に息子を壁際にして座った。今日のレッスンの様子など聞きながら次の十三(じゅうそう)に着くとさすがに金曜だけあって車内はアルコール漬けの人で混んできた。息子の横の壁は元運転席だったようで、隣の車内に行く通路の両側は結構なスペースがあり数人の人がゆったり立っていた。十三の駅であるサラリーマンがそこを目掛けて私達の前を通ったらしかったが全く気がつかなかった。どうやらそのサラリーマンはゆったりスペースに入れなかったらしく、息子側の壁のすぐ脇の隣の車内に行く通路の入口に立ったらしい。いきなりだった、息子に酔眼を向け「俺のズボンの裾が汚れるやないか、足組むのやめろっ」と言ったのだ。わたしは一瞬何を言われているか分からすに確かに裾に当たりそうなのが目について「あっ、どうもすいません」と言った。でも息子は険しい顔をサラリーマンに向けて「足を組んでいる奴は他にもいるやろっ、俺に言うなら他の奴にも言えっ」と言った。辺りは凍り付いた。さすが元スーパーサイヤ人ヘアーの息子、全く負けてない。私も良く考えたら、最初からそこに足を向けていたのは息子だったと思った。後から来て、自分の都合が悪いからと言ってどけろというのはオカシイと思った。まして、人の通行に邪魔になるほどだらしなく座っている訳でもない。サラリーマンはまた「俺のズボンの裾が汚れるだろう」と言った。息子は一歩も譲らず「そしたらそっちが下がったらいいやろっ」と言った。こういう場面をよく昔みた。それは息子の父親の元亭主だ。すぐに相手の胸倉に掴みかかって一歩も引かず、カッとしたら殴る事しか頭に無い人だった。それを思い出して、満員に近い電車で何かあってもと思い、割って入るべく身構えた。息子は「どこで降りるねん!」と言った。決着をつけようと言うのだ、サラリーマンは思わず「高槻」と答えたものの引いていた。わたしは息子に「いい加減にしなさい」と何度も言った。それからサラリーマンは「もういいわっ」と言って場所を少しずらしたが、大人の意地があるらしくほとんど同じ位置に立ったいた。息子は高槻に着くまでサラリーマンから目を離さなかった、私は何とか息子に他の事を考えさせようと話かけたが、返事はするものの、間が持たなかった。高槻近くになった。サラリーマンがネクタイを外したので、「やるのか!?」と思い身構えたが何もせずに新聞に目を落としていた。もう駅という時、息子がすっくと立ち上がった。わたしは「えっ!?やるの!」と思ってまた身構えたが、「ちゃんと謝ってくれるかっ、俺は悪くないやろっ」と言った。サラリーマンは悪かったと言い、息子は「握手しよ」と言って握手して終わった。サラリーマンは高槻市駅で降りて行った。いやー、息子は私より勿論サラリーマンより、勿論自分の父親より冷静で上手だった。それでも「酔っ払いは何するかわからんから、あんまり突っ張ったらあかんで」というのが親の役目だ。無事で良かったけど・・・。