ハムカツカレー 梵 ~コテージ居酒屋的食堂にて~
一つ告白してしまおう。「ハムカツ」というのが、けっこう好きである。「けっこう」というのは、その中にかなりハニカミの気持ちが混入しているのであって、本音のところ「そうとう」と言い切ってしまっても間違いではない。自分の中の「フライ好感度選手権」では常に上位を占め、年に何度かはトップの座についたりする。ごくまれだが、猛烈に食べたくて仕方ないときがある。見た目いかにも貧相。「カツ」といっても名ばかりで、その面影すら見えない。薄さが必須のミラノ風カツレツの更に上をいく。ワイド感や量感などみじんもないし、厚みもない。揚げの下手なものは、クラゲが浮遊するがごとくに波打っていたりする。存在自体マイナーそのもので、裏料理界でしか認知されていない。料理本に載ってない。載っているわけがない。TVの料理番組で登場することも皆無。しかし確かに実存する。スーパーの揚物コーナーでは、アジフライ、イカフライ、メンチカツあたりと同等の価格設定、キャラ設定で並べられていたりする。マイナー王でいながら、今一つ冴えが感じられない。「ハムエッグフライ」や「茄子のひき肉はさみフライ」あたりの格上の超レアものがとなりにくると、たちまち人気を横取りされ、見向きもされなくなる。現に「ハムカツ」好きの私でさえ、簡単にそちらに浮気してしまう。食欲界においては「そそる」「そそられる」というのが重要なムーブメントだと思うが。残念ながら、その方面が決定的に弱い。「ハムカツ」という字を見て、口のなかによだれがジュワーとたまることは難しい。「茄子のひき肉はさみフライ」あたりは、そのへんのポイントをしっかり押さえている。ナスのパフ感、サンドされた挽肉のやわい食感、その間からみっちり沁み出してくるだろう適度な肉汁、口に入れたときの独特のぬめりやらを、きちんとイメージすることができる。正味のところ、そそられる。「カツ」という名称で救われている部分がある。正直その世界の盟主である「トンカツ」氏から言わせれば、これは「カツ」とは呼べない。単なる「ハムフライ」でたくさんだと思われているに違いない。あらゆる局面において、存在感の微弱さが際立っている。それは外食の世界においても例外でなく、これをメニューに入れているお店は本当に数少ない。もしメニューにあれば頼む気満々でいるのだが。なかなかお目にかかれない。一つ情報が入った。「ハムカツカレー」を出しているお店があるという。これはもう飛んでいくしかない。場所はエアロビクスセンターの一画。ホテル「トリニティ」のとなりに位置していた。宿泊用のコテージを改装したお店で、玄関口には居酒屋風情たっぷりな提灯が揺れていたりする。さすがにコテージなので木目ふんだん。大らかといえばそうだし、大雑把といえばその通り。食堂でもレストランでもない。見た目そのままにコテージ居酒屋としか言いようがない。この取りとめのない雰囲気は、実際に行った人にしか分からないだろう。定食としてその名はないが、単品のほうで「ハムカツ」が用意されていた。それをメインにして「ハムカツ定食」を組むこともできるが。ここは初志貫徹で、カレーのほうを注文する。(1~10段階まで辛味を選ぶことができる。中間にしておいた)程なくしてやってきたのは、実際外見では何カレーかわからない、少し不思議な代物だった。サラダ、玉子、福神漬け以外の部分をルーが覆いつくしている。かわいそうに、フライが皮膚呼吸ができないくらいどっぷりと掛かっていた。さっそくド注目のハムカツに行かせてもらう。スーパー的な品物とはまったく異なり、うれしい厚みがある。ボローニャ風で身が赤いタイプ。存分にやわらかくて、普通に美味。ルー本体としてはそれほど辛さは感じなかった。なんともいい難いモンネリした辛さで、シャープさには欠ける。激辛好みの人は、度数を上げて頼まないときついかもしれない。スプーンを大鉈のようにふるい、上から下まで貫通させる。ルー、ハムカツ、ライスという構造的3層をそのままの形で口に投げこむ。…微妙といえば微妙。もったいないと言えばもったいない。とにかく、カツカレーを頬張るときのような(重厚系フライとカレールーが織りなす)スペシャルな充実感はない。カレーのインパクトが強すぎて、ハムカツの良さが削がれてしまっていた。素材そのものからは強烈なる旨味はやってこないながら、それでもどこか自分は肉なんだぞ、自分のルーツは確かに肉なんだぞと遠い彼方から悲しい自己主張してくる練物肉が、上位皇位である「トンカツ」と同様の衣装を身にまとい、ようやく成しとげた果ての理想の御姿。その庶民的な華美から導かれる、しみじみ系の素朴感。やや悲哀を帯びたB級感。ぜったいに噛みきれないということが起きない、安価で平滑なる噛み心地。同時に、肉質や厚みやボリュームでごまかせない、コロモの良し悪しがストレートに表出する切迫した現場。これを食するとき、自然にくりひろげられるだろうそういう美点や美状況が、何ひとつ叶えられていなかった。ほとんど自らは発汗しない、したとしても微弱で微量にしか絞りだすことができない「ハム」という素材の決定的な弱点が、そこにしかと表出されていた。一品として考えると、どうしてもプライス面で疑問符がついてしまう。CP的に感心できない。それでも勇気をもってこのメニューを出してくれていることは、どれだけ感謝してもしたりない。この点は素直に認めておこう。ふるさと茶屋「梵」(ぼん)住 所:長生郡長柄町上野526-8アクセス:「トリニティ書斎」となり 地図参照 P(無) 電話番号:0475-35-4283営業時間:10:00-22:00/定 休:不定休座 席:テーブル9卓以上/利用種別:個人向け/家族向け/グループ向け/仲間向け/料金支払:あと払い/メニュー:【カレー】 ビーフカレー870/チキンカレー800/コロッケカレー960/ ハムカツカレー960/いかかつカレー960/ドライカレー920/ スペシャルカツカレー1260/海老フライカレー1000/ カツカレー1100/ 【ラーメン類】 醤油ラーメン650/野菜ラーメン780/味噌ラーメン800/ 【そば類】 ざるそば600/ざるうどん600/煮込みそば800/山菜そば800/ 【その他】 炒飯920/特製焼きそば700/親子丼850/肉野菜炒め定食820/ 【おつまみ】 鶏の唐揚780/枝豆580/ゆで落花生600/ピリ辛ソーセージ780/ チーズ580/たこの唐揚700/ポテトフライ550/コロッケ500/ メンチカツ600/串かつ500/野菜サラダ500/手羽先550/ 【デザート】 あんみつ400/クリームあんみつ500/アイスクリーム400/ 【飲物】 生ビール550/びんビール600/冷酒700/コーヒー350/紅茶350/ コーラ400/オレンジジュース400/ウーロン茶350/評 価:☆☆☆☆ (味3/量4/サービス3.5/雰囲気3/CP3.5/駐車場1)