可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回です♪
第七十ニ段　～娼婦なのか聖女なのか～

★☆★☆
第七十三段


ホワイトは声を大きくして言った。『さあ着いたぞ』

左右に大きな門が開き、

そこを入ってアプローチを少し走り装甲車が止まると

周囲の建物より一段と大きな建物の

大きい重たそうな金属の扉が警報とともに、

上にゆっくりと上がりはじめた。

武装した警備兵たちが出来た隙間から身をかがめつつ

どっと這うように出て来て車の周囲を守り、

彼等とともに大型の車両は建物内に入った。

入ってすぐは、がらんどうだった。

おそらく以前の住民はここを地球由来の植物を植えた

贅沢な庭として楽しんでいたのだろう。巨大な温室のような造り。

ところどころに生き残った植物の緑の茂みや枯れかけた巨木があった。

地球の空の描かれた高い天井には植物用の照明器具を外したと思われる

剥き出しの地肌が何か所も見えていた。

そして翼を広げた天使たちの絵。

今の所有者は植物には興味がないと見え、

この場所を駐車スペースにしていて、

味気ないカーキ色の軍用車両と、ベージュ色の古い小さい民間用車両が

何台も停められていた。

かつては噴水だったとおぼしきものも、かなりの場所を占めていたが

もちろん水は一滴も出ていない。

名だたる火星の長官の私邸とは思えない殺風景さだ。

車から降りて少し歩くと

シアンがミックを背負っているジョンにいつのまにか寄り添ってきて

彼の腕にそっと触れて、連れだって歩いていた。

シアンはジョンの歩調に合わせて歩きながら

時々うつむいて、そして時々背負われているミックを見た。

彼の後悔を感じた。そして深い懸念を。

触れている手から彼の心の動きがさざ波のように

ジョンの身体に流れ込んでくるような気がした。

それは悪い気分ではなかった。

シアンの思いやりに満ちた暖かい感情は

ジョンの荒んだ心を潤すようだった。

ふと、昇降ポッドでのシアンに対する優しい気持ちを思い出し

気を許して、さきほどの悪夢について心易く彼に尋ねたくなった。

だが、今はただ、彼の暖かさに浸っていたいと思って口をつぐんだ。

やがてひとつ扉を抜けてさらに廊下を行き、

もうひとつの扉を開くと

またもやがらんどうの広い部屋に着いた。

そこが目的地のようだった。

駐車場と同じくらいの高い天井。

飾りけも何もない無機質な灰色の部屋。

そのペンキの下には前は何かが固定されていたと想像できる

四角や楕円状の跡が残っており、棚があったような形跡もあった。

今はなにもない。のっぺらぼうのただの壁だ。

かつて、世界政府が火星を支配していたころは、

この部屋ではパーティが催され、人々がダンスや音楽や

観劇に興じていたに違いなかった。

今では隅にいくつか古い二段ベッドやロッカーが無造作に置かれ、

居間あるいは客室というより捕虜収容所のようだった。

捕虜か。

その通りかもしれなかった。ジョンはぞっとしながら考えた。

軍服こそは着ているが装備はなにもなく、

当てになるのは腕っぷしと頭だけだ。

『食事はすぐできるが、その前にシャワーを浴びたければ

あのドアの向こうに設備がある。

疲れているなら、話しは明日でもいいが

できるだけ早く事を進めたいんだ。いいかな？』

ホワイトは、長官というより、

長い間離れ離れになっていた家族を迎えた男のように見えた。

ジョンに奇妙なくらいかいがいしい態度だった。

危うくかしこまらなければならない自分の身分を忘れそうになる。

それは客に対するホワイトの流儀なのか、

元反政府軍の流儀なのかは知らない。

血みどろの戦地以外で彼らを見たことは無かったから。

戦場では彼等は不屈の精神で戦う、決して侮れない

おそるべき敵だったのだ。

この親切に見える男も、あの当時に出会っていたなら、

ジョンに劣らぬ殺人鬼だったろう。

『長官がよろしければ、私の方は今からでも話し合いたい』

ジョンはそう言いながら首を後ろに振り向け

ユーリに預けたミックが二段ベッドの下の段に

そっと寝かされるのを見届けた。

場所はここでいいでしょうか？とジョンは言った。

ミックから離れたくなかった。

ホワイトは頷いた。いいさ。食事もここに運ばせよう。

何か注文はあるか？飲み物とか、欲しい物は？

『アルコール以外なら何でも構いません。』

自分もだが部下も訊ねたいこと確かめたいことが山のように

あるはずだった。

詳しい説明なしには、ホワイトをシアンを

このまま信じていいものかどうかも分からない。

納得のいく話しを早く聞きたかった。

気づくといつの間にかシアンは姿を消しており、

彼が触れていたのは腕のほんの一部分に過ぎなかったのに

衣服を全てはぎとられたような寒気と、頼りなさを

ジョンは感じていた。



つづく




　　　　　



↓次回です♪
第七十四段　～彼の愛の深さはわかっているだろう～


最初からお読みになりたいごキトクな方は
（たぶんいらっしゃらないと思うけど）
下記の

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑
からどうぞ♪

[◆映画・テレビ・華流・韓流] カテゴリの記事
↑『ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、
ペン・シャオペン　William Feng 以上全部同じ人』的な(笑)
ほとんどしゃおちゃんのことばかり♪
『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑ってことでヨロシク♪
第百三十九段～寵臣～★第百四十段～ケイレブ～
第百四十一段～コーマ～★第百四十二段～エスコート～
第百四十三段～理想郷～★第百四十四段～謀反～
第百四十五段～大天使～★第百四十六段～孤独～
第百四十七段～運～★第百四十八段～勅～







ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン　以上全部同じ人（笑）

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪