可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回です♪
第七十九段　～使役犬～

★☆★☆
第八十段

ホワイトは軽く咳払いをし全員に聞こえる声で

『ちょっと聞いてくれ』と言った。

気の重い話しをしなければならない。

『皆に心得ておいてもらいたいことがあるんだ』

それを聞いてシアンが大儀そうにジョンから身を離した。

それくらいの礼儀は思い出せるらしかった。

ジョーも欲望を抑えて食べ物から視線をホワイトに移した。

彼もその程度の礼儀はわきまえているらしかったが

しかしその顔つきはまだ食い足りない様子に見えた。

ジョンはと言えば、しかめた顔をホワイトに向けた。

普通に指令を受ける態度でホワイトを見たのは

黒服のふたりだけだった。

『君たちはしばらくここを出ないでくれ』

ホワイトは先が思いやられるとうんざりしながら言った。

『勝手に火星をうろついてもらいたくないんだ。』

申し訳ないが、と言いつつ彼はジョンに視線を定めた。

『君たちが命令違反を懸念していることは分かっている。

だが、総帥はそもそもスティールを暗殺してほしいとは思っていない。

今回の作戦はキューザック家の無念をおもんばかって

仕方なくだった。』

ジョンは、それを聞いて思い出した。

ポールですら、暗殺計画よりシアンとの結婚話しの方に

夢中だったことを。それについては誰にも何も言うつもりはなかった。


今日聞いたホワイトやシアンの話しに偽りはないのかもしれない。

いや、あるいはふたりして、口裏を合わせ

嘘をついているのかも知れない。

彼らの話しの全てを簡単には鵜呑みにできない。

『俺たちはキャプテンの命令にしか従うつもりはない』

ユーリは言った。

それに対してジョーが頷いた。

彼は『それはあいつも同じだろう』と顎で寝ているミックの方を

示しながら言った。

『頼むよ。大尉』ホワイトはあくまでも丁重だった。

『少しの間なら長官、あなたの意向を飲みますよ』

ジョンは慎重に応えた。

『なにしろ我々は今回の事柄について、あまりに情報量が少ない、

残念ながら。

あなたがたを本当に信じてよいものかどうかもまだ決められない』

ジョンはそう言いながら、裏切り者の顔をちらりと見た。

そのシアンはと言えば、上の空の様子で、

焦点の合っていないような目をしていた。

『どのみち、あなた方は、我々に監視をつけるだろうし、

なんとしてでも我々の行動を制限するつもりだろうから。

勝手に動こうったって、無理な話でしょう？』

ジョンは皮肉っぽく笑い顔を作った。

ホワイトは、苦笑しながら『もちろん監視はつく』と応えた。

私の星で勝手な行動はつつしんでもらいたい。

厳しい口調だった。

この私邸の中なら自由にしていて構わない。

何もないが、広さだけは充分あるから。彼はにっこりした。

外に出たなら、何があっても保障はできない。

私の命令を聞く連中ばかりでないことは

君たちも昼間に経験しただろう？


いずれにせよ、この人数で何ができるだろうか？

ジョンは絶望的に考えた。

ミックは目覚めない。彼をこのままにして

どこへ行ける？

しかしもしミックが身体が動かないだけで口をきけるとしたら、

自分を置いて行けと言うに違いない。

自分の面倒は自分でみるからと。

ジョンたちがそれをためらうなら、彼は死ぬだろう。

どのような手を使ってでも、そうするに違いなかった。

それはジョンたちも同じだった。

作戦遂行のために自分が障害になるなら、そうすべきだからだ。

だがジョンは、そのようなことで仲間を失うことを

是とはしてこなかった。

その意味では彼は甘かったし、それゆえに皆から慕われてもいた。

彼が非情にふるまうのは敵に対してだけだった。


ホワイトにしろシアンにしろ、まだ敵味方の判断ができなかった。

特にシアンに関しては、アレクが

息子が敵に寝返った裏切り者であると分かっていながらも

譲歩に譲歩を重ねて、火星に危害を加えないでいる。

そのことからして、シアンが何をたくらんでいるにせよ

彼を害する者が居れば、その者は

アレクからどのような処分を受けるか分かったものではなかった。

総帥はただやみくもにシアンに夢中なのだ。


どんな方法を使っても、シアンの居所が掴めない。

だからどこを攻撃することもできない。

その攻撃がシアンを殺してしまう結果を恐れているからだ。

シアンの本気を前に、アレクは手足をもがれていた。


シアンの本気？

それを思うとジョンは笑い出したくなった。

俺と結婚したいだと？

この男のいったいどこをどう押せば、そんな馬鹿馬鹿しい考えが

思い浮かぶのだろうか。


いずれにせよ、

今までジョンたちが考えて来た世界とは違う世界が出現していた。

そしてそれを理解するには、吟味する材料が少な過ぎた。

あまりにも重要である多くの事柄がジョンたちに隠されていたのだ。

確かにコマンドには必要ではない情報なのかも知れなかったが。


まかり間違えば軍法会議ものだな。

ジョンたちに少なからぬその可能性が重くのしかかっていた。





つづく







↓次回です♪
第八十一段　～ジョン、殺していいか？～



最初からお読みになりたいごキトクな方は
（たぶんいらっしゃらないと思うけど）
下記の

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
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ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン　以上全部同じ人（笑）

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪