可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回です♪
第八十一段　～ジョン、殺していいか？～

★☆★☆
第八十二段


キューザック！強く心揺さぶられる声がした。

切なく懐かしい声。

目を見開き、声の方を見た。

澄みきった目だ。切れ長で、

切れ味のよい彫刻刀で一気にすくい取ったような

涼やかな形。

長い睫毛に飾られている。

かつて羨望の思いで、この美を眺めたことがある。

『君たちの話しをしているのだ』

その目の持ち主がいぶかしみながら言った。

視野が開けて来て、

現実の全てがようやく見晴らせた。

『サー』ジョンは頷いた。

もう少しで彼の名前を思い出しそうだった。

記憶の糸を辿ろうにも、

それはすぐにもつれてぼやける。

だが確かにホワイトを別の名前で呼んでいたのだ。

その思い出が血生臭さとともに蘇りそうになっていた。

脳の正気の部分が警告のドラを鳴らしていた。

ジョンはいや増す頭痛と恐怖に震えた。

彼の名は、

思い出すべきでない忌わしい何かをも伴って

現れる気がしたのだ。

『君たちの結婚の話しだ』

そう言いながらホワイトは眉を寄せ目を細めて、

ジョンの目の奥を射るような様子を見せた。

彼は慌てて、目を逸らした。

けげんそうに見つめる他の皆を見返しながら

ジョンはもう一度頷いた。

『ええ』

大きな円卓の向こうに

シアンと同じ顔の男がふたり見えた。

そっくりの目鼻立ち。色白。髪だけが違う。

王子の四つの目が疑念を湛えて、

散漫な様子のジョンを

じろじろ不躾に眺めまわしていた。

同じ顔形なのに、今ははっきりと違いが分かる。

ジョンはその違いは何なのだろうと考えた。

考える事柄、考える時ではないのに、

何かから逃げるように考えた。

グラスの中でぬるくなったジュースを

一くち口に含み、

隣りの本物を見た。

いや、本物ということならば、奇妙にも

テラ(黒服)たちの方が本物なのだ。

シアンはジョンを見つめ返した。

作り物の顔であるにもかかわらず、

心を豊かに現わして、

シアンの目は、表情は、

ジョンに気遣わしげな問いを発していた。

ジョンは、それに気がつかぬふりをした。

本当は彼の肩を抱いて引き寄せ、

頬に口づけて囁きたかった。

俺を心配するな、と。

ただひたすら彼を安心させたかった。

彼が本当に恋人なら良かったのに、と思ってふと、

自分さえ受け入れれば、シアンは恋人である

という事実に気がついた。

だがそれは見てはならない夢だと思う。

だから王子。あなたも俺のことは諦めるのだ。


ホワイトが鍛えたのだろうか、

昼間にシアンを抱きしめた時の

強靭でしなやかな筋肉の感触が思い出された。

昔の弱々しい感じは微塵も無く、

細いのは相変わらずだが

かつての記憶の彼の身体とは全く違っていた。

あの日、シアンは

いきなりジョンの胸に飛び込んできた。

思春期の少年のか細い身体。

果たしてもう一度この胸に、

彼を抱く時が訪れるのだろうか。

自分でも驚くようなやるせない思いが湧きおこった。

だが暗然とジョンは自分に言い聞かせた。だめだ。

彼は俺ではだめだ。


『殿下たちの結婚式』ホワイトはジョンの思いも知らず、

揶揄を含んだことさら明るい声で言った。

それには、心ならずも捕虜にしてしまった者たちへの

償いの気持ちも込められているようだった。

『列席者は君たち全員以外はまだ未定。』

ここ、とホワイトは床や天井を見た。

『火星』で行うんだよ。

この部屋よりはもっとましな場所を準備するよ。

彼は唯一軽口が通じそうな相手、

シアンを見て、片方の眉をくいっと上げて微笑んだ。

それから、とホワイトはさらに言った。

君たちは、それまでに

ふたりきりの時間をたっぷり持つべきだな。

彼は、そう言って一度ジョンを見やり、

またシアンに視線を戻した。

『話し合うんだ。

もちろん、ふたりきりの場所でなら

別のことをしても構わないが』

ウインクを閃かせた。

その間に、私はさっさと

ややこしい問題をかたずけて行くよ。





つづく







★




『お嬢さんをボクに下さい』
『まっ、まだそんなことを言っているのかっ！』


↓次回です♪
第八十三段　～全身全霊で叫んでいるじゃないか～

最初からお読みになりたいごキトクな方は
（たぶんいらっしゃらないと思うけど）
下記の

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑
からどうぞ♪







ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン　以上全部同じ人（笑）

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪