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↓前回です♪
第八十三段 ~全身全霊で叫んでいるじゃないか~ ★☆★☆ 第八十四段 シアンは一心にジョンの顔を見つめていた。 シアンが欲しいものをジョンは与えようとしない。 無我夢中で口づけをしたあの時のほんの束の間、何かを感じた。 ジョンの心の一部。 あれは勘違いで、 単にひとときの欲望の発露に過ぎなかったのだろうか? 今ジョンは彼に見向きもせず、頑なな表情に変化は一切なかった。 よく訓練された特殊戦闘員らしく 幾重もの厳重な扉の向こうに感情は完全に引っ込み、 表に現れているものは火星の錆びた砂のように乾燥しきった虚だ。 『父に異議は唱えさせない』シアンはついには憤りを隠そうともせず、 強い口調で言った。 迎え撃つ王子の方もまだ未熟だ。 ホワイトは彼等の行く末を悲観的に予想せざるを得なかった。 危ぶんだ通り、シアンは言わなくてもよいことを後に続けた。 『君は僕が心のない政略結婚を企んでいると思っている。あるいは そう思いたい。 僕は違うと反論したいが、今は証拠を見せられない。 この胸を切り開いて見せられるなら、そうしたいくらいだ。 でも、きっとそれでも君は僕の内臓と血しか見ないんだろう。 だから僕の身分が君を隷属させるに充分であるなら それを利用させてもらおう。 僕は君と結婚したいだけだから、その願いが叶うなら、 君がどう考えようとどうでもいい。』 彼の言葉は終りになるにつれて一層高飛車になり 穢れたものを投げ捨てるように放たれた。 それは彼には似合わない燃え上がるような怒りで、 皆を圧倒し、室内の空気がたぎると思われるほどだった。 しかし、それでもなお、彼は惨めで憐れに見えた。 なぜなら、その激情にかられた言葉も追いつかないほどに シアンが気も触れんばかりにジョンを求めて彼の足もとに ひれ伏していることが 誰の目にもあからさまに見えてしまっていたからだ。 その様はこの場に居合わせる者たちの心の琴線に触れた。 ふと前に座るユーリが仲間だけが分かる動きを見せた。 『手加減を』というサインだった。 つまり、思いやりを見せろという意味だ。 ジョンはそれに対して『関わるな』と返した。 出過ぎたまねをするなということだった。 ふたりとジョー以外の者たちの目には 砂をかきならしたように何も起きていなかった。 この血を吐くような求愛を受け入れないなら、 血の通った人間ではないだろう、 という目に見えない全員の圧力を押しのけるようにして ジョンはようやくシアンの顔を見た。 その表情には感情がわずかに滲み出ていた。 『殿下が結婚すべき相手は私ではない。なぜ私なのです? 誰もが思うでしょう?殿下はこの世で一番ふさわしくない相手を 選ぼうとしている。』 穏やかな、優しい、とも言える問いかけだった。 そうとも。 ホワイトは思った。それがお前の苦悩の正体だろう? 『殿下のために言っているのです。』そう言ってからジョンは、 『もう遅いのですか?』と訊ねた。 彼は『分化』のことを言っていた。我ながら愚かな質問だと思えた。 ドールのことに詳しい人間は少ないが、 それにしてもジョンにさえ、その答は分かり切っていた。 ただ、一縷の望みに賭けたのだ。 『遅いかだと?』シアンは鋭く応じた。『そうだ、遅い!』 『なにとぞお許しを』ジョンは思わず詫びた。 その謝罪がこの場面に最適かどうかも定かではなく ただ、シアンの人生を自分は台無しにしたのかもしれない という強い自責の念があった。 あの時の自分の我を忘れた振る舞い。 若いシアンはコントロールできなかった。 そう仕向けたのは自分だった。 彼を制御不能にしたい思いがあったはずだ。 一瞬でも彼を支配したかった。 『何故詫びる』シアンは胸をぐっと張り、 いったん引いた顎を心もち上げると高圧的に言った。 眉をひそめ冷たく蔑むようにジョンを睨みつけていた。 『分化は関係ない。分化がなくとも、 僕は明日には父に君との結婚の承諾を得るつもりだった。 今も昔も僕の気持ちは変わらない。君が欲しい。それだけのことだ。 多分、僕は君が僕をどう思っているかなどもとから関心はないのだ。 君が僕の申し出を断れないのは幸いだ。 僕の思い通りにする。今後も、君の意向を訊くことはない。』 王子のプライドを甚だしく傷つけたようだった。彼の激しい怒りを前に ジョンは胸に手を当て『殿下』と言ったきり、うつむいた。 きゃんきゃん吠える犬。ジョンは密かに思った。 尻尾を尻に巻き込むまいと必死だ。 怯えた犬だ。 牙をむき出して、震えながら唸る。赤い歯茎が丸見えの。 脆い犬。 そんな犬こそ俺を殺す。 シアンの怒りで潤んだ視線はよく叩きこまれた鋼の刃のように 真っ直ぐに俺の胸に突き刺さってくる。 彼は頭痛以上のその痛みに耐えていたが ホワイトの他の誰ひとり、その表情からは服従の意志以外の感情を 窺い知ることは出来なかった。 ジョンのそのへりくだった態度は一層シアンをいらつかせていた。 ホワイトは一挙に疲れを覚えて、肩を落とした なんという組み合わせだ。昔のままだ。 これではだめだろう、永久に、このふたりは。 あまりに昔のまま過ぎて、ホワイトは危うく懐かしさから 涙ぐみそうになった。 つづく ↓次回です♪ 第八十五段 ~ああ、どうしよう~ 最初からお読みになりたいごキトクな方は (たぶんいらっしゃらないと思うけど) 下記の 『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表 ↑ からどうぞ♪ ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン William Feng 以上全部同じ人(笑) 『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.09.09 16:40:22
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