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「マンハッタン」(原題:Manhattan)は、1979年公開のアメリカのロマンティック・コメディ&ドラマ映画です。ウディ・アレン監督・共同脚本・主演、ダイアン・キートン、マリエル・ヘミングウェイ、メリル・ストリープら出演で、ニューヨーク、マンハッタンを舞台に、一人の中年作家と彼を取りまくニューヨーカーたちの恋愛とライフスタイルを描いています。第52回アカデミー賞で脚本賞(ウディ・アレン/マーシャル・ブリックマン)、助演女優賞(マリエル・ヘミングウェイ)にノミネートされ、また文化的に重要としてアメリカ国立フィルム登録簿に登録、アメリカ議会図書館に永久保存されている作品です。
「マンハッタン」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン/マーシャル・ブリックマン 撮影:ゴードン・ウィリス 出演:ウディ・アレン(アイザック) ダイアン・キートン(メリー) マイケル・マーフィー(エール) マリエル・ヘミングウェイ(トレーシー) メリル・ストリープ(ジル) エミリー(アン・バーン) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 ガーシュインのラプソディ・イン・ブルーをバックにモノクロのマンハッタンの風景で始まる本作は、ビタースイートなニューヨーカーの恋愛模様やライフスタイルをウィットの効いたセリフで品よくユーモラスに描く、初期の作品の中で最もウディ・アレンらしさが感じられる、彼の代表的ロマンティック・コメディ&ドラマ映画です。 モノクロのニューヨークの風景が美しい ニューヨーカーのビタースイートな恋愛やライフスタイルを品よくユーモラスに描く 冒頭、クラリネットのソロで始まるガーシュインのラプソディ・イン・ブルーをバックに、美しいマンハッタンの風景がモノクロで映し出され、心を鷲掴みにされます。ウディ・アレン監督は、ガーシュインのレコードを聞いてモノクロのロマンティックな映画の制作を触発されたと言います。「ラプソディ」(狂詩曲)には、「民族音楽風で叙事詩的な、特に形式がなく自由奔放なファンタジー風の楽曲」という意味があります。ジャズをアメリカにおける「民族音楽」と捉えるガーシュインが、「アメリカン・ラプソディ」というタイトルでジャズ風のピアノと管弦楽の為の曲を作曲、後にジャズを連想させるタイトルに改題されたのが、「ラプソディ・イン・ブルー」(ジャズ風のラプソディ)です。ウディ・アレン自身、ジャズを好むクラリネット奏者ですが、彼の音楽センスと映像センスが見事に結実した作品と言えます。 「ゴッドファーザー」シリーズ(1972年〜1990年)の陰影に満ちたライティングと琥珀色のノスタルジックな色彩、絵画のように構成された映像で映画界に衝撃を与え、「暗闇の王子」と呼ばれた撮影監督のゴードン・ウィリスは、「アニー・ホール」(1977年)でウディ・アレン監督と組み、ウディ・アレンの映画作家としての才能を飛躍させました。その後、二人は「マンハッタン」の撮影を始めますが、二人ともニューヨークはモノクロで撮らなければばならないと考えており、昼食を食べながらいとも簡単にモノクロで撮影することが決まりました。制作会社のユナイテッド・アーティスツは、当初、その市場性を懸念しましたが、最終的にモノクロでの撮影に合意しました。ニューヨークの美しい風景が挿入されている他、驚くくらい数多くの場所でロケをしており、ウディ・アレンのニューヨーク愛が感じられます。 「アニー・ホール」の成功により、ユナイテッド・アーティスツに好きな映画を撮って良いと言われていたウディ・アレン監督は、「アニー・ホール」と「インテリア」(1978年)を組み合わせる様な形で本作を制作します。彼は「インテリア」で初めてシリアスなドラマに挑戦したものの、興行的に失敗、本作ではコミカルなドラマの方向性を目指したものと思われます。 ウディ・アレン(アイザック) ダイアン・キートン(メリー) 「アニー・ホール」で演じたアニーに比べて屈折した役柄だが、都合8回、ウディ・アレンの映画に出演、そのうち7回を彼が監督を務め、6回が彼との共演というキートンは、ウディ・アレンとぴたりと呼吸の合った演技を見せる。 マイケル・マーフィー(エール) マリエル・ヘミングウェイ(トレーシー) 当時18歳、内気で怖気づいていたというヘミングウェイは、ウディ・アレン監督の巧みリードで、ナチュラルで新鮮な素晴らしいパフォーマンスを見せ、アカデミー助演女優賞にノミネートされた。 メリル・ストリープ(ジル) アイザックの別れた妻役を演じるメリル・ストリープは、存在感が半端ない。出番は多くないが、彼女が登場すると画面がぴりりと引き締まる。ウディ・アレンの映画が、一瞬、彼女の映画になる印象だ。 トレイシー役の第一選択は、マーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」(1972年)で12歳の少女娼婦アイリス役を演じ、アカデミー助演女優賞にノミネートされたジョディ・フォスターでしたが、結局、実現せず、作家のアーネスト・ヘミングウェイの孫である、マリエル・ヘミングウェイに白羽の矢が立ちました。当時、18歳で、内気で怖気づいていたというヘミングウェイは、次の様に語っています。 「ウディは映画製作の一部のように私を扱ったわ。私が内気で怖気づいていたことを知っていた彼は、私を美術館に連れていき、マンハッタンに住む若い女の子がどんな風だか、経験させてくれたの。今となっては、滅多にないことよ。彼は基本的に、俳優任せなの。だから、一度、親しくなることによって、それを私にわからせようとしたんだと思うわ。だから、映画で彼が別れを切り出すシーンでは、家族と別れるような雰囲気を自然と感じたわ。それは私がよく知っている雰囲気で、私は彼を大切な友人のように思っていたから。彼の目をじっと見ながら彼の言うことを聞いた、とてもとても注意深くね。」(マリエル・ヘミングウェイ) 16歳の時に「アニー・ホール」出演、編集でカットされた女優のステイシー・ネルキンは、17歳の時に42歳のウディ・アレン監督と恋愛関係にあり、本作のステイシーのモデルは彼女自身であるとしていますが、ウディ・アレン監督は彼女との関係はもっと後のことだとしています。真偽のほどはわかりませんが、ニューヨーク州の性的合意年齢は18歳の為、彼はステイシーの言い分を認められない立場にあります。なお、ステイシー・ネルキンは本作に出演していませんが、後に「ブロードウェイと弾丸」(1995年)に小役で出ています。 ダイアン・キートン演じるメリーは「アニー・ホール」で演じたアニーに比べて屈折した役柄ですが、都合8回、ウディ・アレンの映画に出演しており、そのうち7回を彼が監督を務め、6回が彼との共演というキートンは、ウディ・アレンとの呼吸もぴったりです。メリル・ストリープは主人公の別れた妻役で、存在感が際立っています。出番は多くありませんが、彼女が登場すると画面がぴりりと引き締まり、ウディ・アレンの映画が、一瞬、彼女の映画になる印象です。因みに、ストリープは、同年に公開された「クレイマー、クレイマー」で、ダスティン・ホフマンを相手に同じく別れた妻役を演じています。本作でエールの妻、エミリーを演じているアン・バーンは、実生活でダスティン・ホフマンの別れた妻で、ウディ・アレンとキートンが一時、恋愛関係にあったことに加え、くっついたり離れたりしながらも同じ業界で、時に同じ仕事をしている現実が、本作で描かれている恋愛事情と重なり、興味深いです。 ウディ・アレンは「アニー・ホール」、「インテリア」に続いて本作と、三年連続でアカデミー脚本賞にノミネートされました。ナチュラルで新鮮な、素晴らしいパフォーマンスを見せたヘミングウェイも、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされてます。本作からのノミネートはヘミングウェイになりましたが、主人公の別れた妻を演じたストリープは同年公開の「クレイマー、クレイマー」で同じく別れた妻役を演じ、アカデミー助演女優賞を獲得しています。ヘミングウェイにとっては残念ですが、これはもはや格の差としか言いようがありません。 高い評価を得、興行的にも成功した本作ですが、ウディ・アレン本人自身は失敗作と考え、もう一本、ギャラなしで撮るからこの映画は公開しないでくれと、制作者会社のユナイテッド・アーティストに頼んでいます。 「これしかできないなら、制作会社は私に制作費を払うべきじゃないと考えたんだ」 「本作を見ても、夢中になれなかった。今日に至るまで、がっかりした思いでしかない。美しく撮れていないということではない。ゴードン・ウィリスが撮ったモノクロ映像だ。出演者もいい。でも、脚本が、説教じみていて、独善的なんだ。」(ウディ・アレン) しかし、逆に言えば、他の作品に比して彼の価値観がより強く滲み出ている、より彼らしい作品で、ウディのファンにとってはそこが何よりの魅力です。ウディ・アレンの価値観を感じさせる場面は随所にありますが、卑近な例では、アイザックが挙げる「生きる価値をもたらすもの」は、紛れもなくウディ・アレン自身のものです。
余談になりますが、主人公の友人、エールはスポーツカーが好きで、最初はフォード・マスタング・コンバーチブルの1967年型に乗っており、これをポルシェ356に乗り換えます。フォード・マスタングは、ベビーブーマー世代向けの中型車として開発され、低価格ながらスポーティーな外観と充分な性能で、T型フォード以来と言われる大ヒットとなり、「ポニー・カー」(マスタング(野生馬)に引っ掛けた仔馬の車という意味で、日本で言うスポーティ・カーに近い)という新たな分類を生み出しました。シリーズは未だに健在で、「ブリット」、「007 ダイヤモンドは永遠に」、「バニシングin60″」、「ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT」など、数多くの映画に登場します。 フォード・マスタング・コンバーチブル1964年型ミニカー(楽天市場) 一方、エールが乗り換えるポルシェ356は、1948年から1985年まで生産されたドイツの高級スポーツカーです。どこかしら大衆性を感じさせるフォード・マスタングに比べて、よりスノッブなイメージを持つ車です。こちらも映画「トップガン」で女性教官がっそうと乗り回すほか、「ノーマンズランド」、「ブリット」、「スペースカウボーイ」などの映画に登場します。本作の中で、「渋滞の多いニューヨークでは車は不要」という下りがありますが、そんなニューヨークでいずれもスポーツカー、さらにオープンというのがミソで、エールのスノッブな人物像を象徴しています。 ポルシェ356・カブリオレ1962年型ミニカー(楽天市場) 【動画クリップ(YouTube)】 【サウンドトラック】 Manhattann Original Soundtrack輸入版CD(楽天市場) 1. Rhapsody in Blue (Instrumental) by Gary Graffman & New York Philharmonic Orchestra 2 Land Of The Gay Caballero (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 3. Someone To Watch Over Me (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 4. I've Got A Crush On You (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 5. Do, Do, Do (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 6. Mine by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 7. He Loves And She Loves (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 8. Bronco Busters (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 9. Oh, Lady Be Good (Instrumental) by Zubin Mehta;New York Philharmonic Orchestra 10. 'S Wonderful (Instrumental) by Zubin Mehta;New York Philharmonic Orchestra 11. Love Is Here To Stay by Zubin MehtaNew & York Philharmonic Orchestra 12. Sweet And Low-Down (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 13. Blue, Blue, Blue (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 14. Embraceable You (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 15. He Loves And She Loves (Instrumental) by Zubin Mehta;New York Philharmonic Orchestra 16. Love is Sweeping the Country/Land of the Gay Caballero (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 17. Strike Up The Band (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 18. But Not For Me (Instrumental) by Zubin Mehta & New York Philharmonic Orchestra 【撮影地(グーグルマップ)】
「マンハッタン」のDVD(楽天市場) 【関連作品】 ウィディ・アレン脚本・監督作品のDVD(楽天市場) 「泥棒野郎」(1969年) 「ウディ・アレンのバナナ」(1971年) 「アニー・ホール」(1977年) 「マンハッタン」(1979年) 「カメレオンマン」(1983年) 「ブロード・ウェイのダニー・ローズ」(1984年) 「カイロの紫のバラ」(1985年) 「ハンナとその姉妹」(1986年) 「ラジオ・デイズ」(1987年) 「ウディ・アレンの重罪と軽罪」(1989年) 「夫たち、妻たち」(1992年) 「ブロードウェイと銃弾」(1994年) 「世界中がアイ・ラヴ・ユー」(1996年) 「ギター弾きの恋」(1999年) 「マッチポイント」(2005年) 「それでも恋するバルセロナ」(2008年) 「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年) 「ブルー・ジャスミン」(2013年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2017年03月19日 05時00分04秒
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