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「ミッドナイト・スペシャル」は、2016年公開のアメリカのSFファンタジー&ドラマ映画です。ジェフ・ニコルズ監督・脚本、マイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、キルステン・ダンストら出演で、実の父親が超能力を持つ息子をカルト教団から誘拐、友人と妻と共に追手から逃れて息子の目指す場所へ向かう姿を描いています。
「ミッドナイト・スペシャル」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ジェフ・ニコルズ 脚本:ジェフ・ニコルズ 出演:マイケル・シャノン(ロイ・トムリン、教団の信者、教団から息子を誘拐する) ジョエル・エドガートン(ルーカス、ロイの幼馴染、元州警察官、ロイを助ける) キルステン・ダンスト(サラ・トムリン、ロイの妻、教団に息子を奪われた) ジェイデン・リーバハー(アルトン・メイヤー、超能力者、ロイとサラの息子) アダム・ドライバー(ポール・セヴィア、NSAの分析官、仕事熱心で純粋) サム・シェパード(カルヴィン・メイヤー、カルト教団の牧師、アルトンの養父) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 超能力を持つ息子の両親とその友人、カルト教団、政府の分析官らを通して、親の愛情、友情、信念のあり方を、ミスリアスな演出と実力派俳優による人間味溢れるパフォーマンスで描く、寓話的SFファンタジーです。 「未知との遭遇」(1977年)や「E.T.」(1982年)など1980年代のSF映画を観て育ったジェフ・ニコルズ監督が当時のテイストのSF映画を作ろうと思った時に、夜に南部の裏道を車で走る二人の男のイメージが浮かんだと言います。この時点で後部座席に子供がいるかどうかは不確かでしたが、ニコルズ監督は親子関係を絡めてこのイメージを発展させていきます。冒頭、少年の誘拐を報じるニュースが流れる中、目張りを外して日が落ちたことを確認した男が「行くぞ」と声をかけ、身支度をするもう一人の男とシーツをかぶってコミックを読んでいる少年が映し出されます。暗がりの中、三人は車に乗って夜の道を走り出します。二人の男は誘拐した少年の実父とその友人です。彼らは、政府やカルト教団から逃れて少年をある場所に送り届けようとしてますが、少年が陽の光に弱い為、夜間に移動するしかありません。原題「Midnight Special」はかつて南部を走っていた夜行列車の名前で、刑務所からこの列車の灯りが見えると釈放が近いと歌うフォークソングの題名にもなっています。アルトンらの夜の逃避行と、解放を暗示するタイトルですが、わくわくする出だしです。 アルトンが陽の光に弱い為、逃避行では夜間に移動する 暗号解読のシーンなどはあるものの、本作は少年の超能力や少年が目指すパラレルワールドを科学的合理性で追求するようなハードSFではありません。少年の両親とその友人、カルト教団の牧師、政府の分析官らを通して、親子、友人、組織と個人、信念といったものを描く寓話的なSFファンダジーですが、ミスリアスな演出と実力派俳優による人間味溢れるパフォーマンスで、寓話的でありながら娯楽性が感じられる作品です。 アルトンに超能力を見出した教団はこれを利用する為に彼を牧師の養子にし、教団で育てます。信者がアルトンの実母が育児放棄したので教団で育てた証言しますが、サラは育児放棄するような母親には見えません。ロイは教団に残りましたが、養子に出すことに耐えられなかったサラは教団に残ることができなかったというのが真相です。しかし、アルトンの意思を無視しあくまでも利用しようとする教団に我慢できなくなったロイは、自分の息子を「誘拐」します。一方、アルトンの超能力に気づいた政府はアルトンを追跡します。政府はアルトンの超能力が脅威ならばこれを封じ、役立つならば利用しなければなりません。 サム・シェパード(カルヴィン・メイヤー、カルト教団の牧師、アルトンの養父) サム・シェパード(1943年〜)は、イリノイ出身のアメリカの劇作家、俳優。戯曲「埋められた子供」(1979年)でピューリツァー賞を受賞、「ライトスタッフ」(1982年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。本作では知的で精悍な老牧師を演じ、邪悪さを見せずに誤った信念の怖さを醸し出す。 ジェイデン・リーバハー(アルトン・メイヤー、超能力者、教団の子として育てられる) ジェイデン・リーバハー(2003年〜)はアメリカの俳優。2013年に映画デビュー、「ヴィンセントが教えてくれたこと」(2014年)のパフォーマンスが注目され、様々な若手俳優賞にノミネートされ、いくつか受賞している。< やがて両親は、息子がパラレルワールドに目指していることを知り、息子に二度と会えなくなることを悟ってショックを受けますが、それを受け入れ、必死に息子の願いを叶えようとします。ここに、「子供をコントロールするのではなく、子供が自分であることを助けるのが親の務め」というニコルズ監督のメッセージが込められています。 マイケル・シャノン(ロイ・トムリン、教団の信者、教団に奪われた息子を連れ出す) マイケル・シャノン(1974年〜)は、ケンタッキー出身のアメリカの俳優。ロックバンドのPVでデビュー、シカゴで舞台に立つようになる。「恋はデジャ・ブ」(1993年)で映画デビュー、キャリアを重ね、「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」(2008年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。「テイク・シェルター」(2011年)、「MUD -マッド-」(2012年)など、ジェフ・ニコルズ監督作品に必ずと言ってよいほど出演している。 キルステン・ダンスト(サラ・トムリン、ロイの妻、教団に息子を奪われた元信者) キルスティン・ダンスト(1982年〜)は、ニュージャージー出身のアメリカの女優。3歳でCMに出演、1989年に映画デビュー、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年)でゴールデングローブ助演女優賞にノミネートされる。「スパイダーマン」シリーズ(2002年 - 2007年)のヒロインを務め、「メランコリア」(2011年)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。本作では、優しいがどこかしら弱さを感じる母親役を好演。等身大の女性をノーメイクで見事に演じ、さらなるスケールアップの可能性を感じる。 元州警察官のルーカスはロイの幼馴染で、ロイが両親に連れられて教団に引っ越してから交友がなかったものの、数日前にロイに助けを求められ、アルトンの超能力を目の当たりにして全てを投げ打ってロイを助けようとします。この貴重な友人は最初からニコルズ監督のイメージの中にあった男で、本作ではロイと共に最後まで登場します。ニコルズ監督が友の存在を非常に重視していることがわかります。 ジョエル・エドガートン(ルーカス、ロイの幼馴染、元州警察官、ロイを手助けする) ジョエル・エドガートン(1974年〜)は、オーストラリア出身の俳優、脚本家、映画監督。「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」(2002年)、「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」(2005年)への出演で、一躍、有名になる。「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)、「華麗なるギャツビー」(2013年)と、大作の助演でしっかりとした印象を残す実力派。2010年頃から脚本も書いており、「ザ・ギフト」(2015年)で長編映画監督デビューと、活動の幅を広げている。 本作では教団も政府も誤った信念を持った人間の集団のように描かれています。しかし、NSAの分析官セヴィアはアルトンの目的地を解読するものの、アルトンの超能力を目の当たりにし、彼が親元に帰るのを密かに手助けします。セヴィアは組織にありながらも、人間らしさを失わない好青年です。一方、三人が最初に立ち寄った家でアルトンを利用しようとしてロイに倒される元教団の男は邪悪で、信念や行動の是非は組織にあるのではなく個人にあることを示しています。 アダム・ドライバー(ポール・セヴィア、NSAの分析官、組織の信念に毒されていない) アダム・ドライバー(1983年〜)は、サンディエゴ出身のアメリカの俳優。TVドラマシリーズ「GIRLS/ガールズ」に主人公の恋人役で出演、2013年〜2015年にエミー賞にノミネートをされる。「リンカーン」(2012年)、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)、「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年)、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)、「沈黙 -サイレンス-」(2016年)と高評価の映画に出演し続けている。本作ではNSAの分析官を好演、彼の器用さがわかりやすいはまり役。 【「上の世界」が意味するもの】 ニコルズ監督の作品は個人的体験に触発されていますが、それとわかるようには制作しません。例えば、前作「テイク・シェルター」(2011年)は世界金融危機の社会不安と、結婚生活の将来への不安に触発されていますが、彼は社会不安を巨大竜巻への不安に置き換え、不安感が家庭生活を脅かすという見事なサイコ・スリラーに仕上げています。結婚したばかりの映画製作者にとって、大不況は彼の家庭生活を脅かす死活問題だったわけですが、映画を見る限りそんなことは全く感じられません。また、そんなことを知らなくても映画を十分に楽しめます。 この映画も彼の個人的な体験に触発されています。結婚後、ニコルズ監督は息子に恵まれますが、その子が生後8ヶ月の時にひどい熱性けいれんを起こします。熱性けいれんは、子供によく見られるけいれんで、発熱は38℃以上、身体を硬くして手足をガタガタ震わし、顔色が悪くなり、白目をむき、意識障害を起こすこともあります。ニコルズ監督はこの体験について、次のように語っています。 それは妻と私にとって恐ろしい瞬間でした。私は子供を病院に担ぎ込みましたが、このまま死んでしまうのではないかと思いました。この話を踏まえると、ニコルズ監督は本作で熱性けいれんを超能力に置き換えていることがわかります。超能力がポジティブなものなのか、ネガティブなものなのかは未知ですが、親が為す術を持たないのは熱性けいれんと同じです。 超能力を持つアルトンは、自分は「上の世界」に属すると言います。「上の世界」がどのようなものかについてあまり語られていませんが、アルトンの味方であること、行ったり来たりはできないことが示唆されています。この「上の世界」をアルトンが自らの超能力を自分の為に活かすことができるレベルの高い世界と捉えることもできますが、同時に天国の比喩と捉えることもできます。荒っぽい言い方をすれば、もはや超能力を持つことがなく、この世界に戻ることがない点において、この二つは同じことです。ニコルズ監督はそうとわかるようには作っていませんが、子供の生死に関して全く為す術を持たない親の愛と希望を、「上の世界」と「天国」の二重性に託したものと思います。 【撮影地(グーグルマップ)】
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2017年06月18日 05時00分04秒
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