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「その名にちなんで」(原題:The Namesake)は、インド・アメリカ合作のドラマ映画です。新人作家としてきわめて異例なピューリッツァー賞を受賞しているインド系米国人女性作家ジュンパ・ラヒリがインドから米国に移民した家族を描いた2003年発表の同名長編小説が原作に、インド出身のミーラー・ナーイル監督、イルファーン・カーン、タッブー、カル・ペンら出演で、ロシア人作家のニコライ・ゴーゴリの名前から、ゴーゴリと名づけられたインド系二世米国人として育つ息子の名前をめぐる物語を軸とし、インドから移民した両親の伝統的価値観と、米国ニューヨークに生まれ育った子どもたちのアイデンティティとの葛藤を描き、親子の愛情、家族の絆、そのすれ違いや関係修復への努力を描いています。
「その名にちなんで」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ミーラー・ナーイル 脚本:ソーニー・ターラープルワーラー 原作:ジュンパ・ラヒリ「その名にちなんで」 出演:イルファーン・カーン(アショケ・ガングーリ、一家の父、列車事故で九死に一生を得る) タッブー(アシマ・ガングーリ、アメリカに留学中のアショケに嫁ぎ、一男一女を生む) カル・ペン(ゴーゴリ・ガングーリ、アショケとアシマの長男) ジャシンダ・バレット(マクシーン、ゴーゴリの恋人、白人女性) ズレイカ・ロビンソン(モウシュミ、ベンガル女性、アシマが紹介しゴーゴリと結婚) サヒラ・ナイール(ソニア、ガングーリ家の長女、白人男性と結婚する) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 移民一世と二世、それぞれにとってのインドとアメリカを繊細な内面描写で描く本作は、肯定的で成熟した印象を与える爽やかなドラマ映画です。 見合い結婚したインド人の男女がアメリカで新婚生活を送り、子供が二人生まれて、子供が大きくなり巣立っていくまで、さして大きな事件もないままに淡々と描いた作品です。原作者も監督も女性で、日常的なシーンやさりげない言葉が移民の内面や心情を反映する、穏やかで美しい作品です。 アショケ:気分はどうだい。回復するのに数日かかる。地球を半周して飛んできたんだ。行って休みなさい。紅茶を持っていくよ。行って。アメリカ流だよ。さあ、行って、行って、休んで。 アショケ:この国では、子供たちが決める。 ミラおばさん:イェール大学にはあなたをつかまえようとたくさんの女の子が待ちかめているわ。大いに楽しみなさい。でも・・・ アシマ:アメリカ人みたいに、「愛している」と言って欲しい? ゴーゴリ:君に知っておいて欲しいことがある。キスも手も握るのも駄目。君の両親と違う。僕は両親が触れるの見たことがない。 異国で生活することは楽ではありませんが、暗黒大陸から輝く新世界にやって来たという悲壮感、勇壮感はありません。変った名前をからかわれるシーンはありますが、差別で惨めな思いをするシーンもなければ、一攫千金を狙うギラギラ感もありません。インドを否定してアメリカを肯定する、或いはその逆もありません。程度の違いや葛藤こそあれ、一世にとっても二世にとっても二つの国はどちらも大切なものという肯定的なスタンスが本作の特長です。30年にわたる移民の人生模様を優しく俯瞰する原作者、監督の成熟した視線が感じられます。 インドのタジ・マハールを訪れたガングーリ一家 原作者のジュンパ・ラヒリ(1967年〜)は、デビュー作の短編集で新人としては異例のピューリッツァー賞を受賞した、才能あふれるインド系アメリカ人の小説家です。彼女はベンガル系インド人移民の娘としてロンドンンに生まれ、3歳の時に家族とともにアメリカに移住しました。彼女は自身をアメリカ人と考えており、「アメリカで生まれたわけではありませんが、生まれたも同然」と語っています。本作でも一家がカルカッタを訪問するシーンがありますが、ラヒリの母親は子供たちにベンガル人としての遺産を知って育つことを望み、一家はカルカッタの親族をしばしば訪れたと言います。彼女の幼稚園の先生は、ニランジャナ・スデシュナという彼女の出生名よりも発音しやすいという理由で、彼女をジュンパと呼びました。彼女は、「自分の名前にはいつも困惑させられます。自分自身であることが誰かに苦痛を感じさせているように感じるのです。」と、回想しています。ラヒリが自身のアイデンティティに感じている愛憎相反する両面価値は、風変わりな名前をめぐる本作の着想に繋がっています。 もともとのひらめきは、変った名前に悩まされる少年についての小説を書くことでした。この本を書きながら、彼が自分の名前を受けいることは、とても重要で、避けられないことであることに気がつきました。親に与えられたものは捨てることが出来ないのです。この本は名前そのものに関するものではありません。むしろ、考え方、価値観、遺伝子など、誰もが親から受け継ぐ、様々なものを描いています。如何に自分の人生を作り上げ、自分が欲しいものを手に入れようとも、祖先から逃れることは難しいのです。(ジュンパ・ラヒリ) ラヒリの著作の特徴は、平易な言葉遣いと登場人物にあります。彼女の著作の登場人物たちはしばしばインド系アメリカ移民の第1世代で、異国の地で家族を持とうとする苦闘や、子供たちをインドの文化・伝統になじませ、成長後も、両親と子供たち、孫たちがひとつ屋根の下に暮らすインド流の大家族とのつながりを保つよう、子供たちを近くにおこうとする努力でした。しかし、異国の地に築かれた世界に育ち、アメリカ文化に同化した移民2世や3世を描くようになって、彼女の小説は個人に焦点を移し、出自にこだわる親たちから離れていきます。本作はちょうどその端境期で、子供たちへのプレッシャーは強くないものの故郷のインドを懐かしむ母親と、生まれ育ったアメリカの世界に巣立っていく子供たちの両方が描かれています(ラヒリ自身も、ギリシア・ガテマラ系アメリカ人のジャーナリストと結婚、二人の子供がいます)。 ミーラー・ナーイル監督は、インドからアメリカに戻る機中で原作小説を読みました。ちょうど、実母のように慕っていた義母を突然亡くすという悲しい経験をした直後で、深く沈み込んでいた彼女は原作がより心に響き、同じように理解してくれる人に出会えたと安ら 本作は、若者が文化や名前、アイデンティティーに揺れ、自分自身を発見していく様も描いていますが、ナーイル監督にとって最もパーソナルな作品だと言います。 私にとってこの物語は、見合い結婚をしてから恋に落ちたアショケとアシマのラブ・ストーリーです。現代的な愛ではなく、手で触れられない、周囲には分からない種類の、深い情熱です。上品な覆いの中に、現代の若者のような情熱がほとばしり、ユーモアと気まぐれが詰まった愛です。私たちの親の世代のその種のラブストーリーなのです。(ミーラー・ナーイル監督) 本作に故国を捨てるメランコリーや喪失によるカタルシスはありません。本作のスタンスはポジティブで、誰もインドを捨てないし、失わないのです。一世も二世も、それぞれにインドの文化とアメリカの文化の中で行きていきます。それは舞台となる2つの都市、ニューヨークとコルカタ(カルカッタ)の描写にも反映されています。 面白いのは、コルカタとニューヨークのエネルギーがとても似ていることです。橋が多く、文化の懐が深く、エネルギーに満ちていることなど、2つの都市は多くの点で共通しています。この2つの都市をフィルムに収めたいと思いました。移民は、気持ちの上では同じ場所に留まっていると感じているけれど、その実、足場は常に2カ所、3カ所にあるのだと最初から分かっていたし、視覚に訴えるものになると思ったからです。 <ネタバレ> 父アショケ亡き後、ゴーゴリとマクシーンはお互いの喪失感を理解できないまま別れます。母アシマが知り合いのベンガル女性を紹介し、ゴーゴリはデートを重ねて結婚します。妹のソニアも結婚が決まり、肩の荷が下りたアシマを家を売ってインドに帰る決意をします。しかし、ゴーゴリが結婚したベンガル女性に別の男がいることがわかり、ショックを受けたアシマはアメリカに残ると言い出します。ゴーゴリは今まで感じたことがない自由を感じているとアシマを説得、彼女をインドに帰します。かつて父から贈られたゴーゴリの短編集を列車の中で読むゴーゴリに、「枕と毛布を持って旅に出ろ、世界を見ろ、絶対後悔しない、ゴーゴリ」という亡き父の声が聞こえてきます。インドでシタールを手に民族音楽を謡うアシマの声では幕を閉じます。 <ネタバレ終わり> イルファーン・カーン(アショケ・ガングーリ、父、列車事故で九死に一生を得る) イルファーン・カーン(1967年〜)は、インドの俳優。イスラムの家系に生まれる。1980年代後半からテレビドラマの脇役など俳優としてのキャリアを積み、90年代からは映画にも進出するが、しばらくは注目されなかった。2000年代に入ってその演技力が評価され始め、本作以降、国外での評価も高まり、アメリカやイギリスの映画にも出演している。 タッブー(アシマ・ガングーリ、アメリカに住むアショケに嫁ぎ一男一女を生み育てる) タッブー(1970年〜)は、インドの女優。おば、姉も女優。15歳で映画デビュー、インドで多くの賞を受賞し、2007年にはハリウッド映画の本作に出演。「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)にも出演している。 カル・ペン (1977年〜 )は、ニュージャージー出身のアメリカの俳優。インド系アメリカ人。 カル・ペン (1977年〜 )は、ニュージャージー出身のアメリカの俳優。インド系アメリカ人。 【サウンドトラック】 「その名にちなんで」オリジナル・サウンドトラック(楽天市場) インド風あり、叙情的な曲あり、コミカルな曲あり、ラップありと、変化に富んだ、センスの光るサウンドトラックです。
【撮影地(グーグルマップ)】
「その名にちなんで」のDVD(楽天市場) 【関連作品】 「その名にちなんで」の原作本(Amazon) ジュンパ・ラヒリ著「その名にちなんで」(楽天市場) ミーラー・ナーイル監督作品のDVD(楽天市場) 「サラーム・ボンベイ! 」(1988年)・・・北米版BD、日本語なし 「モンスーン・ウェディング」(2001年) 「Queen of Katwe」(2016年、日本未公開) イルファーン・カーン x タッブー共演作品のDVD(楽天市場) 「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(2012年) 「Guilty (Talvar)」(2015年)・・・輸入版、英語字幕 イルファーン・カーン出演作品のDVD(楽天市場) 「The Warrior」(2001年、日本未公開)・・・輸入版、 「スラムドッグ$ミリオネア」(2008年) 「めぐり逢わせのお弁当」(2013年) 「シッダルタ」(2013年) タッブー出演作品のDVD(楽天市場) 「Fanaa」(2006年、日本未公開) 「Haider」(2014年、日本未公開) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2017年08月22日 05時00分14秒
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