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「女王陛下のお気に入り」(原題:The Favourite)は、2018年公開のアイルランド・アメリカ・イギリス合作の宮廷コメディ映画です。ヨルゴス・ランティモス監督、オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズら出演で、18世紀初頭のイングランドの宮廷を舞台に、病弱な女王アンと幼馴染のサラの前に元貴族のアビゲイルが現れ、アン女王の寵愛を奪い合う熾烈な争いを描いています。第91回アカデミー賞では、作品、監督、主演女優、助演女優賞(エマ・ストーン、レイチェル・ワイズのダブル・ノミネート)、脚本、撮影、美術、衣装デザイン賞、編集の最多9部門10ノミネートを獲得し、主演女優賞(オリヴィア・コールマン)を受賞した作品です。
「女王陛下のお気に入り」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ヨルゴス・ランティモス 脚本:デボラ・デイヴィス/トニー・マクナマラ 出演:オリヴィア・コールマン(アン女王) エマ・ストーン(アビゲイル・メイシャム、サラの親族) レイチェル・ワイズ(マールバラ公爵夫人サラ、女王の側近、幼馴染) ニコラス・ホルト(ロバート・ハーレー、政治家、アビゲイルの遠縁) ジョー・アルウィン(サミュエル・マシャム大佐、若い貴族) マーク・ゲイティス(マールバラ公爵ジョン、サラの夫、陸軍軍人) ジェームズ・スミス(シドニー・ゴドルフィン、首相(大蔵卿)) ジェニー・レインズフォールド(メイ、娼館の女主人) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 不条理劇を得意とするヨルゴス・ランティモス監督が、史実に触発されて実在した女性たちのキャラクターを大胆に開発、オスカー女優三人がこれを演じ、理不尽な宮廷を舞台に人間の本質を鋭く描き出すダーク・コメディです。 理不尽な宮廷を舞台に人間の本質を描き出すダーク・コメディ 英国女王アンの実話に触発された作品 アン(1665年〜1714年)は、現在のイギリスに直接つながるスコットランドを併合したグレートブリテン王国の最初の君主、及びアイルランド女王です。マールバラ公夫人のサラ・チャーチルは少女時代からの親しい友人で、アンが女王になってからは女官として公私にわたって重用しますが、戦争を推進するサラに対して、女王は和平推進に傾き、次第にサラを疎むようになります。代わりにサラの従妹アビゲイル・メイシャムを重用するようになり、晩年にはサラを宮廷から追放、夫のマールバラ公も横領の疑いで失脚します。アン女王は計17回と毎年のように妊娠しましたが、双子を含め6回の流産、6回の死産を経験、運良く生きて生まれた子も病没し、一人の子も成人しませんでした。不幸な出産の原因は、抗リン脂質抗体症候群を患っていたためとされています。 エリザベス1世やヴィクトリア女王のような派手さのない女王ですが、女性として凄絶な生涯を送った女王と言えます。 ちなみにアン女王の友人だったサラ・チャーチルは、
不条理劇を得意とするヨルゴス・ランティモス ヨルゴス・ランティモスは、
デボラ・デイヴィスによるオリジナル脚本を彼が初めて読んだのは、「籠の中の乙女」が公開された2009年でした。ランティモス監督は、アン女王、サラ、アビゲイルの三人の女性の関係が国政に大きな影響を与えたことに、強い興味を覚えます。デボラ・デイヴィスは歴史に詳しく、オリジナル脚本はしっかりとした史実に基づいたものでしたが、「違った声を聞きたい」と考えたランティモス監督はプロデューサーとともに別の脚本家を探し、トニー・マクナマラが脚本を書き変え始めます。これが2011年で、その後、断続的にプロジェクトが継続、7年後の2018年に公開されるまでに脚本は大きな変貌を遂げます。 最終的な作品は、大きな枠組みは史実に従いながら、アン女王、サラ、アビゲイルの三人の女性のキャラクターを大胆に開発、宮殿の扉の向こうでの三人の間の出来事も大胆に創造されています。例えば、
といった具合です。大きな史実の枠組みを押さえながらも、ランティモス監督は敢えてフィクションとわかるような物語、演出を志向しています。彼が権力を持つ三人の女性の戯画を通して描きたかったのは、個人的な人間関係や気分、ちょっとした機会が意志決定に影響し、一国の運命に影響する不条理でした。 絶対的な権力によって生み出されるものが、不条理なんだ。そんな状況下では不条理がまかり通り、権力者たちが大多数の生活を左右する。だから、特定の時代や王室、国家を正確に描くことが重要だと思ったことはない。権力を持った一握りの人間が、その他大勢の人生に影響を与えられる。そんな選ばれた人物の社会的地位に興味があった。実在の人物や歴史からインスピレーションを受けたが、その大部分は再考した。今の時代にもある同じような課題を認識し、共感できる映画になったと思っている。 不条理が不条理に感じられない時代 個人的な人間関係や気分、ちょっとした機会が意志決定に影響し、一国の運命にも影響する不条理を描いた作品ですが、私自身は三人の女性のパワーゲームは面白く拝見したものの、それによって国政が左右されることをそれほど不自然と感じませんでした。というのは、最近、政治は必ずしも論理的に正しいことの実現するものではなく、往々にして人間の原初的な感情の産物であると感じることが多いのです。例えば、
低予算を感じさせないクォリティ 何気なく観ていると気が付きませんが、実は本作は1500万ドルの低予算で制作されています。ヨーロッパの王室を描いた作品をいくつか挙げてみると、
低予算を感じさせない理由のひとつは、豪華な女優陣によるハイレベルな演技です。
低予算映画に見えないもうひとつの理由は、衣装です。本作の舞台となった18世紀初頭は映画やドラマになることが稀で貸衣装のストックが少なく、レンタル料が非常に高価だった為、本作では自製されています。生地を含めて時代考証すると非常に高価になる為、当時の衣装のシルエットを踏襲しながら、デニムや革など入手しやすい現代の素材を組み合わせて作られています。時代の枠組みは踏襲するが、敢えてフィクションとわかるように演出するランティモス監督の方針に合う画期的な解決策で、作品のトーンとマッチしているのでチープに映ることもありません。 時間をかえて作り込みリハーサルで磨き上げた脚本を、一貫したトーンで演出していることも、低予算映画に見えない完成度の高さを醸し出しています。例えば、本作では他に類がないほど、広角レンズが多用されています。撮影に使用されたハットフィールド・ハウスは実際に王室の宮殿のひとつとして使用されたこともある貴族の館ですが、金をかけたセット撮影と違い、実物での撮影ではカメラの位置やアングルに制限がある為、広がりや奥行きがうまく表現できない場合があります。本作では広角レンズを多用することにより画面に広がりと奥行きを生み出すとともに、広角レンズ特有の個性的な映像にちょとしたシュール感が漂います。本作はほとんどが自然光、キャンドル、暖炉などのアベイラブル・ライト(そこにある光)でナチュラルに撮影されていますが、その一方でこのように随所にさりげなく非現実感や異質感を仕込んだ演出が、ランティモス監督独特の世界観を醸し出しています。 広角レンズを多用した映像 オリヴィア・コールマン(アン女王) オリヴィア・コールマン(1974年〜)は、イギリスの女優。ブリストルの演劇学校を卒業後、テレビで卓越した才能を発揮するようになり、数々の賞を受賞している。映画は、「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-」(2007年)、「思秋期」(2011年)、「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年)などに出演しており、本作で、アカデミー主演女優賞を受賞している。 エマ・ストーン(アビゲイル・メイシャム、サラの親族) エマ・ストーン(1988年〜)はアリゾナ出身のアメリカの女優。11歳の時に初めて舞台出演、その後、数々の舞台に出演するとともに、即興コメディ劇団にも参加、15歳の時に高校を中退、女優を志し両親を説得して、母親と共にロサンゼルスに移り、日中にオーディションに受け、夜に家で勉強する生活を送る。2004年にタレント発掘番組で役を勝ち取り、テレビでのキャリアが始まるが、出演する番組がパイロット・エピソードのみで終わったり、途中でシリーズが打ち切られるなど、なかなか芽が出なかった。2007年に青春コメディ「スーパーバッド 童貞ウォーズ」で映画デビュー、ジョナ・ヒル演じる主人公の恋人を演じる。この役は脚本に人物描写がほとんどないものだったが、作品のヒットとともにエマ・ストーンも注目される。その後も、コメディ映画「ROCKER 40歳のロック☆デビュー」、「キューティ・バニー」、「ゴースト・オブ・ガールフレンズ・パスト」、「ゾンビランド」、「Paper Man」で有名な俳優と共演するようになり、2010年に主演を務めた「小悪魔はなぜモテる?!」でゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされ、彼女の大きなブレイクスルーとなる。その後、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズなど、メジャーな作品に出演するようになり、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)で名だたる名優を相手にシリアスな役に挑戦、アカデミー助演女優賞にノミネートされる。2015年にはフォーブス誌の「最もギャラの高い世界の女優」の16位(約650万ドル)にランクされるまでになり、「ラ・ラ・ランド」(2016年)でアカデミー主演女優賞を受賞、本作では同助演女優賞にノミネートされている。同じく10代半ばで女優を志し、両親を説得して大都市に移り住み、その後とんとん拍子でスター街道を上り詰めたジョニファー・ローレンスと異なり、犬用のお菓子屋さんで働くなど下積みの時代もあったエマ・ストーンだが、この世代を代表する才能に恵まれた女優の一人として不動の地位を築きつつある。 レイチェル・ワイズ(マールバラ公爵夫人サラ、女王の側近、幼馴染) レイチェル・ワイズ(1970年〜)はロンドン出身のイギリスの女優。父方のルーツはユダヤ系ハンガリー人、母方はユダヤ人とイタリア人の血を引いている。ケンブリッジ大学で英文学を学んでいたが、演技に興味を持つようになり劇団を結成、公演で賞を受賞する。1993年にデビューし、「チェーン・リアクション」(1995年)でキアヌ・リーブスの相手役を演じハリウッド進出する。1999年公開の大ヒット作「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」で国際的に名前が知られるようになり、以降、ラブコメやアクションなど、様々な映画に出演、2005年公開のイギリス映画「ナイロビの蜂」で、第78回アカデミー賞助演女優賞を受賞する。その後も、「MI5:消された機密ファイル/PAGE EIGHT」(2011年)、「愛情は深い海の如く」(2011年)、「否定と肯定」(2016年)、「ディスオビディエンス」(2017年)などに出演、本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。 ニコラス・ホルト(ロバート・ハーレー、政治家、アビゲイルの遠縁) ニコラス・ホルト(1989年〜)は、バークシャー州出身のイギリスの俳優。「アバウト・ア・ボーイ」(2002年)、「シングルマン」(2009年)、「 X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(2011年)、「ウォーム・ボディーズ」(2013年)、「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014年)、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)などに出演している。2010年頃よりジェニファー・ローレンスと交際していたが2014年に破局、2018年に恋人のモデルとの間に第1子が誕生したことが報道されている。 【サウンドトラック】 「女王陛下のお気に入り」のサウンドトラック(楽天市場)
【撮影地(グーグルマップ)】
【関連作品】 ヨルゴス・ランティモス監督 x オリヴィア・コールマン x レイチェル・ワイズのコラボ作品(楽天市場) 「ロブスター」(2015年) ヨルゴス・ランティモス監督作品のDVD(楽天市場) 「籠の中の乙女」(2009年) 「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017年) オリヴィア・コールマン出演作品のDVD(楽天市場) 「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-」(2007年) 「思秋期」(2011年) 「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年) エマ・ストーン出演作品のDVD(楽天市場) 「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年) 「ゾンビランド」(2009年) 「小悪魔はなぜモテる?!」(2010年) 「ラブ・アゲイン」(2011年) 「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」(2011年) 「アメイジング・スパイダーマン」(2012年) 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年) 「ラ・ラ・ランド」(2016年) 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017年) レイチェル・ワイズ出演作品のDVD(Amazon) 「アバウト・ア・ボーイ」(2002年) 「ナイロビの蜂」(2005年) 「MI5:消された機密ファイル/PAGE EIGHT」(2011年) 「愛情は深い海の如く」(2011年) 「否定と肯定」(2016年) 「ディスオビディエンス」(2017年)輸入盤、リージョン3、日本語なし お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2019年07月11日 05時00分07秒
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