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日々は過ぎ、今日は2月14日金曜日バレンタインデー、そう女の子からチョコレートという奇跡の産物を授かる一年で一番の楽しみな一日である。その日は朝から体と心を緊張と期待でいっぱいに膨らませて学校に着いた。教室ではどの男子も分かっていても今日は別に何も特別な日ではないように振る舞い、少し顔をにやけさせながらじゃれあっていた。そして放課後思っていたとおり僕は密かに愛しいと思っていた子からチョコレートをいただけたのである。 「絹田君チョコあげるわ、一応手作りやけど味は保証できひんよ」 その時のユミちゃんの笑顔とはにかんだ仕草は閃光となって僕の体を駆け抜けた。 「あ、ありがと」 と、お礼を言って受け取った。 「来月のホワイトデー楽しみにしてるな、絹田君が何をくれるか楽しみやわ。」 ユミちゃんはそういうとまたどこかに走っていった。 それから一ヶ月の間、僕は必死に考えた、何をプレゼントしたらユミちゃんは喜んでくれるだろうと。せっかくユミちゃんがチョコレートをくれたのだからやはり喜んでくれるものでないと。この一ヶ月の間はユミちゃんに喜んでもらうための一ヶ月であったと言っても過言ではなかった。 3月15日月曜日バレンタインデー当日。 とうとうこの日が来てしまった、そしてお返しは流行っていたぬいぐるみを渡すことにした。 僕はいつ渡そうか迷っていた、そして放課後に渡すことに決めて、ユミちゃんを放課後学校の屋上に呼び出した。 「なに?絹田君用事って」 ユミちゃんも何で呼び出されたのか分かっていながらとぼけて僕に聞いてきた。 「あ、あのバレンタインデーのお返しを渡そうと思って。はいこれ。」 僕はおもむろにぬいぐるみの入ったプレゼントの箱をユミちゃんに差し出した。 「ほんまに?めっちゃうれしいわ」 と言ってユミちゃんは受け取った。 「気に入ってもらえるかわかんないけど」 「ううん、うれしい、開けてええの?」 「うん」 ユミちゃんはその場で包装紙から丁寧に箱を取り出し、箱を開けた。 「あ、ウサギのぬいぐるみだ」 とユミちゃんは大きな声をあげた。 その瞬間、僕は心の中で安堵の雄叫びをあげた。 「うち、このウサギめっちゃ欲しかってん、ありがとう」 僕はまさに天にも昇る気持ちでその天使の笑顔を見つめ、そして 「このまま時が止まればいいのに」 僕は心からそう願った。 そして自分には毎日その瞬間を繰り返す権利があることに優越感を抱いた。 人は毎日毎日一歩ずつ前進を繰り返すことを強いられる。しかし強制ではなかったとしたらどうだろうか。人は弱い。その日人生最大の喜びがあったとしたらたった一歩を踏み出すことでさえ恐れてしまうに違いない。 その瞬間が今の自分にとって最大の喜びなのだから。みすみす最大の喜びを逃してまで何が起こるか分からない一歩を踏み出すのは余りに馬鹿げている。 そう考えるに違いない。そして少なくとも僕にはそうだったのだ。 たとえ同じ毎日の繰り返しであっても。 “3月15日月曜日。世間ではそう、ちょうど一ヶ月前の、ある人には甘く、またある人には辛くただただ苦痛の一日、通称バレンタインデー。これに勝利したものだけが、敗者に対して優越感を抱きつつチョコレートや手作りのマフラーをもらったお礼にプレゼントをお返しするという、世の中の不平等を絵に描いたような一日、ホワイトデー。 そしてお返しに今回は何をあげようかと悩まされるのも勝者にとってはうれしい悲鳴である。もちろん僕は言うまでもなく敗者ではない勝者の方である。小さい時から明朗活発で比較的人当たりの良かった僕は毎回のようにチョコをもらっていた。これは毎回もらえるものだとも思っているし、これからもきっともらえるものだと思う“ 「明日はユミちゃんに何をあげようかな、迷うな、だっていつも喜んでくれるんだもん」 人生最高の喜び、それは初恋の相手の最高の笑顔を見た瞬間ではないだろうか。 絹田昭夫 小学5年生 精神年齢53歳。 ただいま青春まっしぐら。 終
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