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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2011/11/29
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カテゴリ:生活

 目が覚めたら、5時だった。
 すこしはなれたところで、いちご(うちの猫。16歳)がまるくなっている。
「おはよう」
 いちごは、ああ、と鳴く。おめでとうと、鳴いてくれている。
 きょう、わたしの誕生日。
 53歳おめでとう、の日。ずいぶんたくさん生きてこられたものだ。感謝。
 そしてきょうは、土曜日。三女が中学校へソフトテニスの部活に出かける。眠そうな顔で台所にやってきた三女、「おはよう。きょうはお天気? 気温は何度くらいかな」と云い、とつぜんはじかれるたように「おたんじょび、おめでとう」と叫ぶ。
 NHKの連続テレビ小説「カーネーション」をひとり見る。主人公の糸子に赤ちゃんが生まれた。あら、おめでとう。きょうのわたしは、のんびりしていられない。たーくさん仕事をしないといけない。「カーネーション」の糸子は、夫に向かって「わたしは仕事が大好き」と云っていたけれど、わたしは好きだろうか。……好きだと云えるだろう。
 机のパソコンに向かって、メールを確認する。「お誕生日おめでとう」が5つならんでいる。1つは、同じ日生まれの友人から。急いでこちらからも「おめでとう」とメッセージを送る。
 さあ、仕事。……しかし待てよ。そうだ、あのひとたちにも「オメデトウ」を云ってもらおう。「嵐」のファンクラブの窓口(サイト)から「そこ」へゆく。誕生日の日いちにちだけ、嵐の5人におめでとうと云ってもらえる「そこ」へ。云ってもらいにこちらから出かけてゆくにしても、このはずみ方はどうだろう。「ありがとう、ありがとう」と云いながら、もう一度見る。それから「アリガトウ、アリガトウ」と云って、もう一度。「有難う、有難う」と云って……。画面の下には「このメッセージは、本日の24時まで見ることができます」とある。
 原稿にとりかかる。よくよく考えないと、最終地点に着地できないというような内容で、書きはじめている。今し方ゆるんだ口元が、きゅっと締まる。ああでもない、こうでもないと苦心の末、書き上がる。
 書いている途中で二度、家の門の呼び鈴が鳴った。
 ひとつめは、西村佳哲(よしあき)さんの新刊だった。『わたしのはたらき』 (※1)。「自分の仕事を考える3日間Ⅲ」としてことし1月、奈良県立図書情報館で開催されたイベントから生まれた本である。8人のゲストと数百人の人びとが全国から集まって、仕事や働き方をめぐって、話を聞いたり語り合ったり。わたしはゲストのひとりとしておかしな話をしたが、何よりも自分の勉強の機会と出会いをもたらしてもらった。そんななつかしい本がきょう届くなんて。ありがたいにもほどがある。
 ふたつめの呼び鈴。やってきたのは12月はじめ発売の拙著(※2)だった。いつものことだが、カヴァも帯も見るのは初めて(本が出るまで見ないことにしている)。へえええと感心する。本の誕生と、自分の誕生日が重なったのは、たぶん、初めてのこと。
 上のふたりの娘たちを起こしにゆく。ふたりがふたりとも、布団のなかから「お誕生日おめでとう」と云う。にょきっと腕をさしのべて。
 つぎの原稿にとりかかる。こちらは、何を書くかまだ決まっておらず、どうしたものかなあと考える。目につくものを手にとったり、机まわりの片づけをしたりしながら考える。
 午後1時、部活から三女もどる。散歩がてら買いものと昼食に出る。女ばかり4人でぞろぞろと。靴を修理したいと、長女は2足の靴が入った袋を下げている。靴を預けてから、三鷹駅近くの寿司店の客になった。あおさの味噌汁がおいしい。烏賊と小肌がおいしい。三女が、
「ね、好きなものは先に食べる? あとにとっとく?」
 と皆に訊いている。
「わたしは先に食べちゃう」
 と長女が答える。
「とっておくと、食べられちゃうもの」
 これは、ひとのおかずをねらうことのある(ことに弁当)長女ならではの答えである。
 会計をし、店の外に出て歩きはじめたが、なんだか落ち着かない。たったいま、支払いをすませた金額が、少なすぎるように思える。店にとって返してたしかめてもらう。思ったとおり、ひとり分計算から抜け落ちていた。気がついて、とって返せてよかった。こちらにその気がなくても、一部ただ食いをするところだった、誕生日の日だと云うのに。
 前から行ってみたかった三鷹駅南口から10分ほどの「山田文具店」を覗きにゆく。なつかしいモノ、実直なモノ、慕わしいモノが、厳選されてならんでいる。子どもたちがそれぞれ、誕生日プレゼントを買ってくれる。原稿用紙の升目のあるはがき大の便箋や、紙のシール、グーチョキパーのかたちのクリップなど。
 帰りに、いつも行く文具店「NIHON-DO」の客になる。文具店へのときめきは、子どものころからすこしも変わらない。年賀状の版画の道具をもとめる。
 帰宅してもうひと仕事。子どもたちは台所に入りこんで、晩ごはんの仕度をしてくれている。昨日、何が食べたい?と尋ねられ、咄嗟に「パクチー(香菜)」と答えた。たぶん、パクチーを齧れるだろう。たのしみ。やっとのことで仕事にきりをつけ、風呂に入る。これ(晩ごはん前の入浴)も、若い日から変わらない日課。
 湯上がりに書斎で本を読んでいて、くしゃみをする。この部屋の暖房、どうしよう。北向きの部屋なので、暖房なしというわけにはいかない。先週、寒い日に新聞の挿絵を描いていたら、線がまっすぐに引けずぐにゃりと曲がった。どうしたんだろうと思ったが、手がかじかんでいるのだった。あらま。
 晩ごはんに呼ばれる。
 卓の上に見たこともない紅いランチョンマットが敷いてある。
「これね、いつもの赤紫のを裏返したの。おめでたい感じでしょう? ね」
 と三女。たしかに、おめでたい感じだ。
 シャンパン
 野菜スープ
 シンガポール風鶏飯(けいはん/チキンスープで炊いてある、蒸し鶏添え)
 パクチーのサラダ
 トマト
 プディング
 長女をリーダーに、3人でつくってくれた。どれもよくできている。ありがとう。昼間山田文具店でもとめたプレゼントとカードを受けとる。ありがとう。
 夫は仕事で旅先にいて、きょうをともに過ごせなかったが、いい日だった。



 とくべつの日。
 でも……。明日も明後日もその先も、きっと、とくべつの日はつづく。毎日毎日がとくべつの日なんだと、わからせてもらった、きょう。おめでとう、わたし。




Photo





誕生日の日、
ミニシクラメンの花が咲いているのに気づきました。
……ぽっと。
昨年もとめたミニシクラメンです。
名前は不二子(「ルパン三世」に登場の「峰不二子」から名前を
もらいました)。
不二子は、たくましいです。
下のほうに、つぼみ、たくさん。
うれしいなあ。



※1『わたしのはたらき』(西村佳哲/弘文堂) 本体1800円+税
※2『そなえることは、へらすこと。』(山本ふみこ/メディアファクトリー)
 本体1200円+税







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最終更新日  2011/11/29 10:00:00 AM
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