久しぶりに思いだした「共働き」ということばが、目の前でくるくる踊っている。
とつぜん、「くるみ割り人形」(チャイコフスキー作曲)第3曲「金平糖の踊り」が耳の奥で鳴りはじめた。好きな曲だ。その不思議な旋律がのなかで、ことばが踊る。
「共働き、共働き、共働き」と踊るのだ。
「共働き」ということばは、記憶の底から、就職、主婦(母親)業と職業の両立というイメージとともに浮かび上がってきた。
そして「共働き」が置かれてみると、どうだろう。このことばが持つ奥行きに、わたしはしばらくのあいだ驚かされつづけることとなる。
ウチは「完全分業制」です。
けれど夫は、洗濯ものをたたむのはていねい。これは見習わないと……。
いま、夫の仕事を少し手伝いながら家事を主にしています。
こういう共働きもありなんやなあと、思います。
上記は、わたしが書いた「共働き」のはなしを読まれた読者の、たより2通のうちの、それぞれ一節。
これを読んで、はっとした。
まず、ひとつめの「完全分業制」なることばの前でしばしぼんやりする。
——なんだろう、完全分業制って。料理はわたし、掃除はあなたという分業だろうかしら。
と考えたりした。
やっとそれがいわゆる職業を持つ夫、専業の主婦である妻のことだわかったとき、自分の勘違いが「共働き」ということばの解釈の門をひろげているのに気がついた。そこに、ふたつめの「こういう共働きもあり」という一節が待っていてくれたのだった。
「共働き」が、夫婦が共に働いて一家の生計を立てる(「共稼ぎ」に同じ)意味だけでないという解釈に導かれていたのである。役割分担はどうあれ、暮らしを立ててゆくお互いは、すべて「共働き」なのだと。
気づいたというよりも、思いだしたのかもしれない。いずれにしても、「暮らしを立ててゆくお互いは、すべて共働き」という明快な1行が胸に刻まれて、わたしはすっきりとして、うれしい。
「暮らしを立ててゆくお互いは、すべて共働き(この場合は、ひらがなで「ともばたらき」と書くとしよう)」は、ひとつ屋根の下で暮らす誰も彼もに、もちろん子どもたちにも伝えなければならないし、それぞれがみずからに問うて確認しておく必要もあるだろう。
後者の、みずからに問うておくというほうは、ひとひとり暮らしてゆく上での整理とも、決心とも云えるだろう。
ひとり暮らしのひとも例外ではない。むしろ、いっそうはっきりとした整理やら決心やらが必要になるような気さえする。
その日1日の予定を追いかけ、あるいは追いかけられながら、ときどきわたしはうんざりする。整理もせずに予定を抱えこもうとするくせに決心不足。そのことがわたしをうんざりさせるのだ。
その上わたしは、1日のはじめにみずからの予定と対面するとき、つい気後れするような質(たち)である。
——全部やりきれないかもしれない。
——夕方、機嫌よく台所に立っていられるだろうか……。
何と云うか、弱腰。
これまで何とかやってきた実績や、経験が身につけてくれた実力はあるはずなのだ。たとえそれらが頼りないものであったとしても、予定を前に、いちいち気後れするには当たらない。
これは、おそらくわたしに省エネ機能がついていないせいなのだ。
順番もなく、大小の区別もなく、はたまた公私の区別もなく、目の前の予定と向きあうたび、同じだけのエネルギーを放出。というわけなので、1枚のはがきを書くだけで……、メールに返信するだけで……、玄関先にやってきた「○○を買ってください」というひとに帰っていただくだけで……汗だくになっていることも少なくはない。なんとかしてこういうのを長所として証明してみせたいが、ほんとうは自覚している。ただただ不器用なのだ。
だから、1日にいくつも予定をこなし、あちらへも出かけ、こちらの人助けもする、というようなひとに会うと、もうもう、縮み上がる。こんなふうに縮み上がるときにも相当なエネルギーを使う。もっと静かにそっと畏れ入ればいいのに。
こんなにも不器用な自分自身とわたしも、「ともばたらき」なのだと思う。
——もう少し自信を持って、さりげなく頼みます。
この夏凝っているのが、これ、
がんもどき作りです。
こういうしごとは、わたしにやすらぎを
与えてくれます。
*
〈がんもどき〉
木綿豆腐(布巾に包んで重しをして、水をきる)……………2丁
にんじん、ごぼう、ひじき(※)、枝豆など…合わせて100gくらい
山芋(すりおろす/なければ卵1個と片栗粉小さじ2)…大さじ2
砂糖………………………………………………………………小さじ1
塩………………………………………………………………………少し
揚げ油、しょうゆ、辛子…………………………………………適宜
※ひじきを加えるときは洗ってもどす。芽ひじきはそのまま、
長ひじきはきざむ。
(1)木綿豆腐をすり鉢ですり、山芋と、調味料を加えてさらにする。
(2)具(みじん切り)も加えてする。
(3)食べやすい大きさにまるめ、油で揚げる(170℃くらい)。
※しょうゆと辛子を添えて。
※つくり方の(1)と(2)の工程は、フードプロセッサーを使ってもよいでしょう。
※こうしてつくったがんもどきが残ったら、翌日含め煮に。
でも、残ったことはありません。……残念。