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<本日から幾日かに分けて、昭和44年ころの作 品をご披露させていただきます> 〇 (一) 銀杏が黄金の色に輝く公園の青いベンチに、美 枝子はフィアンセと座っていた。 「どうしたんだい?今日はすっかりおとなしいん だね。何か心配ごとでもあったのかい・・・?」 そう聞かれても、真相を明かす訳にも行かなかっ た。なるべく相手の眼を避けて、 「女性って、秋にはセンチになるって言うわ。」 「君は戦後の生まれだろう、信じられないよ。ま あ、いいや。秋の淋しさに浸りなさい、僕は黙っ ているよ。」 思いやりのある言葉であった。彼の手は彼女の髪 をそっと撫でていた。彼の吸う煙草の煙の中で、 美枝子は目を瞑った。 実を言えば、今日は、昔勤めていた療養所の友 達から、ひょっこりと手紙が来たのだった。それ は四日かかって彼女の手許に届いたことが、スタ ンプから知れた。 永い間、便りを出さなかった詫びの言葉や、柿の うまいことや、婦長の代わったことなど、ごくあ りきたりの内容であったが、最後に永井の死んだ ことが記してあった。 書いた人からすれば、親切心から付け加えたもの であろうけれど、美枝子にとって、それはかなり ショックな追伸であった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2024.04.23 08:18:49
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