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おるはの缶詰工場

おるはの缶詰工場

解かれた鎖 1

「解かれた鎖 1 」


「ん、あぁ…あんっ」

 深くうがたれるたびに、押し出されるように甘い声が漏れる。

 自由な両手でのしかかる彼の首に縋りつくと、それに応えるかのように首筋をキツク噛まれた。

「ひぁんっ」

 一瞬の痛みに、男を銜え込んだソコがギュッと収縮した。

 熱く大きな彼のものが自分の中にあるのかと思うと、なんだか不思議な気分だった。

「余裕だね」

 ちょっと掠れた声で彼が言う。

 責める、とは違うどこか楽しんでいる響きを感じて、あれ? と思う。

「え…あんっ、あっ…うんっ」

 しかし、すぐに突き上げられてそんな疑問も霧散してしまった。

 少し痛いくらいに勢いよく突き上げられて、一気に高みまで連れて行かれる。

「いっ…あぁんっ」

 一瞬の空白の後に、彼の身体が崩れ落ちてくる。それとともに、穏やかなキスも。

 穏やかなキス。穏やかな体温。穏やかなセックス。

 大好きな人の身体を抱き止めながら泣きたくなった。


 ―――物足りない。


 そんな風に思ってしまう自分が情けなくて、椎名は裕輔に気づかれないように潤んだ瞳を瞬きでごまかした。



 岩槻椎名の朝は早い。

 4時起床で5時には朝食を食べている。

 そのテーブルには、朝が弱いはずの裕輔も一緒に座ってくれる。と言っても、まだ胃が食べ物を受け付けないから、とコーヒーを飲むだけだが。

 それでも、一人で食べるよりは裕輔と一緒のほうがずっといいと、椎名は朝食とともにささやかな幸せもかみ締めていた。

 5時30分。

「じゃぁ、朝食の用意はしてあるから、後でちゃんと食べてよ」

「はいはい、わかったから」

「食べないともったいないんだから」

 何度か椎名の作った朝食を無駄にした裕輔は、肩をすくめてもう一度「わかってる」と返事をした。

「それより時間はいいのかい?」

「あ…うん、もう行かなきゃ。―――いってきます」

 財布とケータイをポケットに突っ込んで、椎名は身軽に家を出ようとした。

 しかし、その寸前で伸びてきた腕に抱きしめられた。

「いってきますのキスは?」

「…毎朝懲りないよね。そんなのするかっての!」

 もどかしいくらい緩い拘束は、振り払うと簡単に外れてしまった。そのことを残念に思う心を隠し、椎名は裕輔に挑むように睨みつけた。

「椎名こそ、毎朝よく抵抗するね。いつも結局するくせに」

 意地悪く笑う裕輔の指摘に、痛いくらい胸が締め付けられる。

 もしかして、今日こそは…?

 期待を隠しながら、しぶしぶという態度で裕輔の頬にキスをした。

「じゃぁ私からお返し」

 その言葉に、ギュッと目を閉じて裕輔の『お返し』を待った。

 チュッと額に柔らかいものが触れて、今日もそこか…と落胆して目を開けた。

「いってらっしゃい」

 楽しそうに笑う裕輔の顔が憎らしかった。

「っ! いってきますっ」

 玄関を乱暴に閉めると、鼻息荒く徒歩5分の距離にある勤め先のケーキショップ『TOP』へと向った。

 そのわずかな通勤時間の間に、裕輔への理不尽な怒りも冷めていた。その代わりに、物足りないセックスと同じような悲しさに襲われていた。

「贅沢なのかな?」

 ちょっと前だったら、「いってきますのキス」のお返しに濃厚なキスが返ってきて、裕輔の気分次第じゃそこで…という展開になることもあったのに。

 それも見越していつも予定の30分前に家を出ることにしていた。そのせいで、すんなり家を出ることができる今は、出勤が早過ぎて他のスタッフの姿はなかった。

 誰もいない厨房の丸イスに座って、大きなため息をつく。

 贅沢…とは違う感じがした。

 もっと深い情が欲しいと、裕輔に訴えたくなる。

 望んでいた普通の「幸せな生活」のはずなのに、何か物足りないと思ってしまう自分が悲しくて…罪悪感でいっぱいだった。


                               2007/7/18

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