圧倒的な『シン・ゴジラ』
初日金曜日、20時40分の回はほぼ満席で『シン・ゴジラ』を観た。待ちきれない怪獣特撮ファンが多いかと思いきや若いカップルや高齢の夫婦もいるバラエティーに富んだ客層が意外である。キャストが多いとは聞いていたがかなりの割合を日本政府、対策本部の人間たちの描写が占める対怪獣のドキュメンタリータッチの群像ドラマである。ゴジラと自衛隊etcが戦う描写の時間は他のゴジラ映画に比べて決して長くない。が、そのゴジラの破壊描写は凄まじい。謎の爆発から始まり「何か」が上陸し這いずり回るパニック状況のエスカレートと政府の対応が目まぐるしく描かれる。収まった状況の中設立される対策本部の描写。本作のキーパーソンであるマキゴロウとして登場する岡本喜八監督を思わせる短いカットと詰め込まれた早口の台詞と大量のテロップ。人間の描写の積み重ねに圧倒される中、本作最大の見せ場である夜の東京大破壊シーンがくる。この場面だけでも本作を観る価値がある。それはまさに絶望の映像化だ。絶望のあとに新たな希望が生まれる。大胆なラストの対ゴジラ頂上作戦は『新世紀エヴァンゲリオン』の第6話『決戦、第3新東京市』ヤシマ作戦の引用だが大がかりであると同時に極めて奇想天外でコミカルでもあるというアクロバテックな最高の見せ場になっている。映画はここで東北の震災と、やがてそれは核のある世界で生きる我々の現在と重ね合わさられゴジラが佇み続けるラストは実に感銘深い。政治家と自衛隊をとことんまでフィーチャーしたことと合わせ非常に同時代的な映画になっている。平成のゴジラ映画は『ゴジラ』(54)の続編という枷があったが(微妙な立ち位置の『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』はあるが)ここではそれが綺麗に取り払われている。意識されていないのかもしれないが『ゴジラ』(84)と『ゴジラVSビオランテ』に『機動警察パトレイバー劇場版(第1作)』を加えて(どことなく2006年の『日本沈没』も想起させる)クライマックスを『新世紀エヴァンゲリオン』で締める映画であるが今までにない怪獣映画を観た、と思わせる作品に仕上がっている。その情報量は一度では消化しきれない。もう一度観てみたい気にさせる映画だ。