幸せという行き止まり。
これ以上何も望むものがないという絶望。
満たされているが故の閉塞感。
解き放たれたいという願望。
ただ失うにはあまりにも重すぎる幸せ。
そんな贅沢な矛盾した感情を
主人公がとつとつと語っていくエッセイのような小説。
過去と現在のエピソードを行き来しつつ
主人公は迷う。
堂堂巡りする。
自分を閉じ込めた幸せから抜け出す為に
恋人と別れるべきかどうか、
死を選ぶべきかどうか、
と。
『紅茶に添えられた角砂糖でいるのが、たぶん性に合っていたのだろう。
役に立たない、でもそこにあることを望まれている角砂糖でいるのが。』
子供の頃から人生をそう捉えてきた主人公が、
恋人に別れを告げて無理に自然死しようとして、
その恋人に死ぬことを中断させられ、
お互いに同じ絶望を共有していたのだと気が付いて、
物語は終わる。
私は先が全く見えなくなるほど
誰かと深い関係になったことはない。
それは体を重ね合わすことだけでも、
結婚の約束を取り交わすことだけでもない。
好きなように生きて、
その結果として幸せになっている筈なのに
その幸せに生が逆に押し潰されそうになるような
そんな体験はあまり羨ましいとは思わない。
ただ、そうなってしまったらなってしまったで、
やはりその絶望という名の幸せを
お互いに抱えて生きていくしかないのだとは思う。
おまけ:
故途乃葉(コトノハ)