カテゴリ:小説
「三丁目の夕日」をご存知の方なら、
戦後から立ち直りつつあった日本の熱気を覚えていらっしゃるでしょう。 その熱気は、東京タワーを象徴として、国民一丸となった明るい希望そのものでした。 そしてこの「オリンピックの身代金」は、三丁目から約5年後。 復興を遂げた日本が、東京オリンピックを象徴に、今度は先進国として世界に打って出ようとした、さらに強い野望の時代の物語です。 実際東京オリンピックは大成功で、日本は先進国として、また東京は世界第一の大都会として、周知されていくのですが… この小説は、しかし、オリンピックの成功の陰に隠された闇の部分。 日本の貧しい人々 出稼ぎ労働者たちが、どんな悲惨な状況でオリンピックを支えたかという物語です。 もちろん内容はフィクションですが、さもありなん。こんなこともたくさんあったのだろうと思わせられます。 国家の繁栄のために、出稼ぎの労働者たちがどのような過酷な労働をしていたのか。その矛盾に気づいた、やはり貧しい東北の村出身の東大生が、オリンピックを人質に取り、政府から身代金を取ろうとダイナマイト爆破を繰り返します。 彼の犯行は凶悪ともいえるのでしょうが、この本の読者はきっと一人残らず、彼に同情し彼の成功を(逆に言えばオリンピックの不成功を)心のどこかで願うことでしょう。そして何とかして彼を満足のいく方法でどこかに逃がしてやりたいと思うと思います。 あの東京オリンピックから早50年。 貧しい出稼ぎ労働者たちは、今はどうなっているのか。 また、6年後の東京オリンピックのための土木工事は、誰の手によってされるのか。 華々しく決定した次回のオリンピックにも、闇のようなものがあるのでしょうか。 奥田英朗さんが、またびっくりするような小説を書いてくれないものかと、思いました。 この小説は、おもしろくせつなく、きっと皆さん犯人を好きになるかも。 とびきりの超おススメです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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