「我が家の問題」 奥田英朗
奥田英朗さんの「家日和」という短編集がありますが、この本はその続編、あるいは姉妹編というのが、いちばん分かりやすい説明かと思います。残念ながら、「家日和」の内容をほとんど覚えていないのですが、一番おもしろかったのは、ロハスにはまってしまった妻を描いたものでした。その感想は、こちらにあります。熱心にロハスに打ち込んでる奥さんのようすを、困ったヤツだと思いながらも優しく見守っている、包容力のあるご主人でした。その奥さんが、またもや登場します。ご主人が人気作家になったことにより、自分の生き方を路線変更せざるを得なくなる、人知れず苦労している奥さんです。彼女が、最後に行きついたのは、なんとマラソンでした。マラソンは、彼女を健康にしたばかりではなく、意外にも彼女の心を慰め、家族の再生にまでつながっていきます。東京マラソンに出場した彼女は、歩くような速度で、それでも健気に走ってゴール会場に戻って来ます。「よく頑張ったとしか言いようがない。胸を張って戻ってくればいい。」「おかあさーん、おかあさーん、こっち!こっち!」尊敬するおかあさんを、飛び跳ねて迎える子どもたち。ご主人が涙を我慢している前で、奥さんがゴールに向かって行くシーンで、小説はおしまい。さまざまな形態の家族が持つ、ありがちな、あるいは想像を超えた問題。深刻だったり、ほほえましかったりする問題。どの話も、終わり方がとてもすっきりしていて、結末がいい方に転ぶのかその反対なのか、ぎりぎり想像できるかどうかというところで、ストンと終わる。説明や余韻は一切なし、あとはご自分でどうぞ。みたいな終わり方が、とても気持ちがいいです。