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ポリシーのない経営者が率いる企業は、仮にウェプビジネスに進出したとしても決して儲かりはしない。(167ページ)
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著者・編者 | 夏野剛=著 |
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出版情報 | 幻冬舎 |
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出版年月 | 2009年07月発行 |
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「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」というのは、いくら何でも言い過ぎじゃないかと思うのだが、早稲田大学政経学部を卒業して MBA を取得した俊才であることに加え、i モードで大成功をおさめ、いまはドワンゴ取締役という、常人では推し量れない夏野剛さんの著作だから仕方ないかもしれない(笑)。
IT で飯を食べている技術者の一人としては、まさにタイトルの通りなのだが、「技術は、ビジネスを生まない。ウェプは単なるツールであり、進化するのは技術だけである」(58 ページ)というのも言い過ぎだと思う。一方で、「このように、グーグルは技術や新しいビジネスモデルをもって後から追いつき、一気に抜き去る顕著な例として挙げることができる」(64 ページ)とも書いている。これは自己矛盾ではないか? 夏野さんのような御仁が手放しで Google を礼賛するから、木を見て森を見ない経営者が二番煎じ狙いをするのだと感じる次第。
「もう“マス”という概念は、ネットの普及により存在しなくなった」(174 ページ)というのは、よく言われることだ。だから、「ウェプビジネスを会社全体のストラテジーの話として捉えられない人、そういうことに気づきすらしない人を、現場の人聞はリーダーにしてはいけない」(185 ページ)――それを言っちゃお終いでしょ、夏野さん。現場の技術者は、そのことに気づいていながら、無知な経営者に責任を押しつけようとしているわけだし(笑)。
「スピードが要求されるウェプビジネスで走り続けるには、知識、経験」(74 ページ)がものを言う。それは実感できる。だから、現場の技術者だってシンドイ。失敗するリスクを誰かに担保しておきたい。そう考えるのは必然でしょう。
だが、仕事に向き合う視点を変えてみたらどうか。
「『自分が好きだからやっている』、これは過酷な条件でも走り続けるモチベーションに直結する」(74 ページ)というのも実感である。
昭和の時代に育った私は、趣味を仕事にするなと言われてきた。公私混同するな、というわけだ。だが、それは平成の時代には通用しない。昭和の時代に重んじられてきた「和は、多様性がある状態では機能しない」(173 ページ)。いまこそ、個性あふれる趣味や興味のある私的な分野を仕事に持ち込むべき時である。
著者は言う――「ウェプビジネスで成功するための秘訣である『興味があることをやる』『できることをやる』という話は、あまりにも真っ当すぎて拍子抜けしている人もいるかもしれない。しかしこれは私の信条であり、何もウェプビジネスに限った話ではない」(77 ページ)――著者の体験に根ざしている言葉だけに重みもあるし、共感もできる。
これからの日本の経営者に求められるのは、プライベート(趣味・興味)とパブリック(仕事)の壁を取り払うことではないだろうか。これに対し、現場の技術者/労働者としては、パブリックに対してマナーを欠くことないような品位をもって応じることが、Web 時代の公私混同しない仕事の本質だと思う。
――というような読後感を呟いたら、夏野さんから「公私混同というよりは個人の信念の反映が必要」というリツイートがあった。肝に銘じておくとしよう。