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2020.03.02
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カテゴリ:書籍
事実はなぜ人の意見を変えられないのか

事実はなぜ人の意見を変えられないのか

 私の頭の中には、ツイッターは「インターネットの扁桃体」ではないかという考えが前々からあった。メッセージの短さ、伝わる速さや範囲の広さなど、扁桃体の役割を果たすのに必要な材料がすべて揃っているからだ。(61ページ)
著者・編者ターリ・シャーロット=著
出版情報白揚社
出版年月2019年8月発行

2015 年 9 月、テレビで共和党候補者ベン・カーソンとドナルド・トランプの討論会を見ていた著者ターリ・シャーロットさんは、カーソンが小児神経外科医という専門家の立場から子どものワクチン接種と自閉症の関連性はないと説明するのに対し、不動産王トランプは聴衆の本能的な不安を煽って両者に関係があることを強調した。神経科学者であるシャーロットさんも、思わず、トランプの主張になびいてしまうほどだったという。
その後、トランプ氏は大統領の座へ駆け上ってゆく。カーソンは事実を述べたにも関わらず、なぜ人の意見を変えられなかったのか――。
他人を変えようとする試みは、脳の働きを決定づける中心的要素と一致していなければ成功しない(250 ページ)――本書は、さまざまな調査や実験を紹介しながら、「事実」を与えた際の「脳の働き」を分かりやすく説いている。事実を論理的に説明しているのになぜ納得してくれないのか?――そう感じたら、本書を読むことをおすすめする。

シャーロットさんは、「言い争いや議論になると、『私が正しくてあなたが間違っている』ことを示す攻撃材料を突きつけたくなるのが、人間の本能」(19 ページ)と指摘する。自分の意見を否定するような情報を提供されると、私たちはまったく新しい反論を思いつき、さらに頑なになることもある。これを「ブーメラン効果」という。
インターネットから大量の情報を受け取れるようになったのは最近20 年ほどのことであり、脳は、必ずしもそれを有効活用できているとは限らない。シャーロットさんによれば、「情報や論理を優先したアプローチは、意欲、恐怖、希望、欲望など、私たち人間の中核にあるものを蔑ろにしている」(21 ページ)という。
自分の意見を裏づけるデータばかり求めてしまう傾向は、「確証バイアス」と呼ばれている。人間がもつバイアスのなかで、これより強いものはあまりない。そして、推論能力に長けていて数量に関するデータの扱いを得意とする分析的な思考の持ち主ほど、情報を積極的に歪めやすいことが判明しているという。

たとえば、予防接種と自閉症を結びつけたウェイクフィールドの研究は多くの研究者によって否定されたにも関わらず、多くの人はいまだに副作用の疑惑を恐れ、わが子の MMR ワクチン接種を拒んでいる。アメリカにおける 2014 年の麻疹患者報告数は 644 例で、2013 年の 3 倍に増えている。
新しいデータが、すでに確立した信念とかけ離れるほど、そのデータの信頼性は低く見積もられるのだ。
この問題を解決するため、カリフォルニア大学ロサンゼルス高とイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の心理学者たちは、MMR ワクチンは自閉症を引き起こさないと説得する代わりに、同ワクチンが死に至る可能性のある病気を防ぐという事実を強調することにした。両親にとっても医者にとっても、優先すべきは子供の健康だ。その結果、接種率が向上した。
反対意見をもつ人々は頭から拒絶するか、必死になって反証を探そうとするだろう。変化をうまく導くには、ゆえに共通の動機を見出せばいい。

人間の脳の大部分は、感情を喚起する出来事を処理し、何かしらの反応をすべく設計されている。感情に訴えるようなことが起きると、扁桃体(興奮の伝達に重要な脳の領域)の働きが活発になる。扁桃体は脳の他の部分に「警告シグナル」を送り、そのとき行っていた活動をすぐさま変化させるという。
さらに、感情は聞き手と話し手の生理的状態をも結びつける。だからこそ聞き手は、入ってくる情報を処理するとき、話し手と同じような捉え方をしがちなのだという。私たちの脳が感情を素早く伝達し合うようにできているのは、周囲の環境に関する重要な情報を、感情が知らせてくれることがあるからだ。

シャーロットさんによれば、「ツイッターを利用することは、日常生活において最も感情を刺激する行為の一つ」(61 ページ)という。単にウェブを閲覧しているときに比べて、ツイートやリツイートをする行為は、感情の高まりを示す脳活動を 75%上昇させるという。シャーロットさんは、ツイッターが「インターネットの扁桃体」ではないかと指摘する。

人間同士の脳の構造や機能が似ている大きな利点は、意見の伝達がスムーズになることで、そのおかげで私たちはたった 1 人で世間を渡る必要がなくなる。アイデアを伝える最も効果的な方法の一つは、気持ちを共有することだ。感情はとりわけ伝染しやすいため、自分の気持ちを表現することによって他人の心の状態を変容させ、それによって目の前にいる人の視点を自分の視点に近づけやすくする。

ニューヨーク州の研究チームは、病院の集中治療室(ICU)での手洗いの順守率を向上させるために、手を洗うたび電子掲示板の数値が上がり、「よくできました!」など好意的なコメントが個別に表示されるようにしたところ、なんと 40%弱から 90%にまで向上したという。
スタンフォード大学の研究チームは、クラウドファンディングを分析したところ、ネガティブな写真よりも、ポジティブな感情を喚起する写真が依頼文に添えられている方が資金提供を受けやすいことがわかった。
私たちは自分のプラスになると信じる人間、もの、出来事に接近し、マイナスになると信じる人間、もの、出来事を回避する「接近と回避の法則」が知られている。誰かにすぐさま行動してほしいと望むなら、罰を与えると脅して苦痛を案じさせるよりも、すぐに手に入るようなご褒美を約束して喜びを予期させる方がうまくいくようだ。

映画監督のマックGは、飛行機による死亡事故が交通事故よりはるかに少ない事実を知っていながら、どうしてもシドニーへ向かうプライベートジェットに乗ることができなかった。恐怖は感情であり、感情は事実によって簡単に手なずけられるものではないのだ。マックGは、この時の経験を回想し、自分が運転する自動車と違って、飛行機はコントロールができないから怖いと語った。
皮肉に感じるかもしれないが、他人の行動を変えたければ、コントロール感を与えるべきだ。主体性を奪われたら、人は怒り、失望し、抵抗するだろう。社会に影響を与えることができるという感覚が、意欲や順守率を高めるのだ。
自分で銘柄を選び、頻繁に株取引をする投資家は、損をする可能性が平均して高いという調査結果が山のようにある。しかし、結果がどうあれ、人間は選択を好む。
シャーロットさんは、「少しばかりの責任を与え、選択肢があることを思い出させるだけで、人の幸福度は高まる」(121 ページ)と指摘する。かりに失敗する可能性があるとしても、子どもや部下に選択権を与えようではないか。

人は、勝つ確率が高いほど人は結果を知りたくなるが、負ける確率が高いほど知りたがらなかった。また、市場が上昇すると人々はひっきりなしに証券サイトにログインし、下降すると株価チェックを避ける。
他のすべての条件が同じならば、人は希望をもたらす情報を求め、失意を招く情報を回避する傾向をもつ。予期せぬ報酬が手に入ったとき、脳内でドーパミンを放出するニューロンがあるが、情報が得られそうなときや、思いがけない情報が得られたときにも放出されることもわかった。

ストレス下ではリラックスしているときよりずっと、ネガティブな情報を取り入れる傾向が強いということがわかった。つまり、ストレスが強いほど、予期せぬ悪い知らせを聞いて自分の見解を変える傾向が強まったのだ(良い知らせが人の信念を変える傾向は、ストレス下でも変わらなかった)。

人間の脳は、社会との関わりから知識を獲得するように設計されている。最も価値ある商品の見分け方から、ミカンの皮の剥き方に至るまで、ほぼすべての事柄を他人の行動を観察することによって学んでいるという。(185 ページ)
ある調査によれば、レストランや書籍に対し、ネット上で「最初に高評価のレビューを掲載すると、それに続く好意的なレビューの数は通常より 32%多くなり、実験終了時の総合評価はなんと 25%も上昇した」(196 ページ)という。また、実験から、「ほかの人たちの回答を知らされると、参加者の扁桃体が活性化することが判明」(199 ページ)した。活性化した扁桃体は、すぐ隣の領域で記憶形成に重要な役割を果たしている海馬を刺激し、記憶にも変化が生じたという。
このように、人間の脳は常に他人から学ぶよう設定されている。
シャーロットさんは、「他人の選択や行動を自らの手引きにしようとするときは、注意が必要」「変化をもたらすにはたった 1 人の人間で事足りる」(207 ページ)と指摘する。

これらのことから、ビッグデータへの疑問が出てくる。
「群衆は賢い」という認識が普及したのは、ジェームズ・スロウィッキーの著書『「みんなの意見」は案外正しい』(小高尚子訳 KADOKAWA)が注目された近年である。本書では、「群衆は賢い」ためには、群衆を構成する個人が独立して思考していることを前提としている。つまり、他社の影響を受けているような集団では、「最適ではない選択、おかしな信念、好機の逸失につながっていく」(228 ページ)がある。
ビッグデータを利用するときは、こうした前提条件の確認が必須だ。シャーロットさんは、「人々の意見が相互依存やバイアスに侵されている可能性を見積もり、それに従ってどこに重きを置くかを考えることが必要」(234 ページ)と説く。

最後まで読んで、ただ事実を論理的に説明するだけでは他人(他人の脳)が納得しないことが理解できた。じつは、本書自体が調査家実験の結果という「事実」だけでなく、マックGのような有名人や、Twitter のような有名ツールを引き合いに、読者の扁桃体を刺激する構成になっている。本書の真似をすれば、もう少し説得力のあるプレゼンができるかもしれない。
巻末で、白揚社編集部は、「事実で人の考えを変えられないということは、裏を返せば、事実でないもので人をコントロールできることでもあります。近年の世界的な傾向として、本来であれば社会を良い方向に導くべき各分野の権力者たちが、こぞって不都合な事実を隠蔽する一方で、マスメディアやインターネットを利用して大衆の感情をうまく誘導しようと画策している印象を強く受けます。そして私たちの多くは、まんまとその戦略に乗せられてしまっているようです」(262 ページ)と警鐘を鳴らす。






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最終更新日  2020.03.02 12:16:20
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