ぱなっちの窓

ある日のオックスフォード

イギリスまで来て何故フランス語学校に通っていたのかというと、それはイギリス人の友達を作りたかったから。英語学校には外人しかいないでしょ。日本で働いていた時にアテネ・フランセに通っていたこともあり、なんとか中級の上くらいのクラスに入れた。が、授業はもちろんのこと休み時間もずっとフランス語だったので、かなり大変だった。あるとき学校の外でクラス・メイトと会い、普通(のつもり)に英語で会話したら、「君とこうして英語で会話するのは、なんだか不思議な気分だね。」と言われた。そっか私、外人だった。

このクラス・メイトはショルドンといって、オックスフォードの学生で春休みを利用してコースに参加していた。他にもサヴォイ・ホテルの従業員とか、明らかに英語学校の生徒とは色が違っていた。その中に、オックスフォード大の物理学博士号(Masterじゃないのよ、Doctorよ)を持つ人がいた。しかも日本で働いていて帰国したばかりで、日本語も話せる。その頃何故か私は、浮世離れしたイメージのある物理学者と結婚したいと思っていた。もう、これ以上のMr. Rightはいないんじゃないかという出会いだった。が、彼とはそういうロマンチックな関係にはなれなかったんだな。

実際私達はとても仲が良くて、学校の中でも外でも、いつも一緒だった。ある日彼の古巣であるオクスフォードに遊びに行って、突然ショルドンに会いに行こうということになった。でも、私達はショルドンとしか名前を知らなかった。「大丈夫。ショルドンっていうのは珍しい名前だから、きっとそれだけで分かるはず。」と勝手知ったる彼が門番さん(?)に尋ねると、近くを通りかかった学生さんが、「ショルドンなら僕、知っています。ご案内しますよ。」(本当にこんなしゃべり方をするのよ、オックスフォードの学生さんは)と、ショルドンの寮まで連れて行ってくれた。幸運にも同室の学生さんが留守だったので、ショルドンの部屋へ入ってしばし歓談。ついでに私はあっちこっち興味深く見学。もちろん一般観光客はこんなところへ入ってはいけない。その後中庭へ出たのだが、そこには「部外者立ち入り禁止」の看板が。「俺はここの卒業生。」「僕は現役。」「その二人の友人である君は?」「間違いなく関係者だね。」「振り向くなよ。聞こえないふりをしろ。」と二人に挟まれ、"Oh! Excuse me, Miss!!"という声を背後に逃走。私はオックスフォードの学生さんしか歩けない庭を歩いたのよ、うらやましいでしょ。ちなみにここでの二人の会話は、なんとフランス語でしたとさ。なにげにブラッシュアップしてやんの。語学学習はこうでなくてはいかんのね。
それから、カフェ(って感じだったな、パブじゃない)でお茶をしていたら、ショルドンが唐突に「二人はどうして結婚しないの?とってもお似合いなのに。」と訊いてきた。いいなぁ、こういう純粋なところが。「そうだ、イギリスでは二人の証人がいれば結婚できるんですよ。ショルドンで一人でしょ、それからあなたお願いします。」と、彼が通りかかったウェイトレスさんを呼び止めた。事情を話すと、彼女も「ええ、喜んで。」と快諾。こんなふうにして結婚するカップルも本当にいるのかもしれない。


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