東京の老舗BARとして、これまで、クール、神谷バー、ボルドーと触れてきた。次はとなると、やはりこの店は避けては通れない。
銀座5丁目のBar「ルパン(Lupin)」(ルパン=あの怪盗アルセーヌ・ルパンの顔の看板が目印=写真右下)。ボルドーから遅れること1年、昭和3年(1928)の開業。最初は、いわゆる「カフェー」としてスタートしたが、同11年には改装し、現在のようなBARになった。
1970年代の初め、入居しているビルの建て替えに伴い店内を改装したが、カウンターなど開店当初の部材は解体・保管してまた元に戻した。だから内装は、基本的には、昭和初期の雰囲気が今も大切に残されている。
「ルパン」と言えば、やはり数多くの芸術家に愛されたことで有名。作家の里見惇、泉鏡花、画家の藤島武二、藤田嗣治、演劇界では、俳優の滝沢修、宇野重吉ら。なかでもとくに作家に愛された(いや、今も愛されている)文壇BARとして、その名を知られている。
この他、菊池寛、永井荷風、直木三十五、川端康成、大佛次郎、開高健、小松左京ら、このルパンに通った作家の名前を挙げるだけで昭和文学史が書けそうだ。
とくに太宰治、坂口安吾、織田作之助という無頼派作家たちがこのルパンのカウンターでくつろいで飲んでいる姿を、林忠彦という著名な写真家が撮ったショット(写真左は太宰治)は、非常に有名だ(店内にも額に入れて飾られている)。
古き良き時代の面影を残すルパンが好きで、僕は20年以上前から、東京出張の機会にはしばしば訪れてきた。その素敵なところは、その雰囲気だけではない。銀座のBARとは思えないほどの良心的な料金。2杯飲んで、チャージ(500円)込みでも2500円前後と、本当に安心して飲める。
だからという訳ではないが、店はいつも客で賑わう。カウンター15席にテーブル18席というキャパだが、9時過ぎて行くと、大体いつも満員。僕はいつも早い時間帯(6時~7時の間)にお邪魔して、太宰がよく座った奥の椅子に座る。そして、太宰や織田作がこの場所で、くだまいて飲んでいた姿を思い浮かべながら、あの戦後間もない頃に思いを馳せる(写真右は昔と変わらぬ、素敵なデザインのマッチ)。
有名になりすぎてしまったルパンは、今は若いサラリーマンやOLでにぎわい、年配の作家が、ゆったりと身を落ち着ける余地は少ない。経営者だった高崎雪子さんは残念ながら、1995年に88歳で他界された。今は、弟の武さんがカウンターの中で、伝統をしっかり守り伝えている。
若者に占領されたルパンの今の姿を、昔の文士は嘆くだろうが、それでも、ルパンが客から愛されていることには違いない。ルパンに集う若い世代から、いつかまた素晴らしい作家が誕生することを心から願おう。
【Bar ル・パン(Lupin)】東京都中央区銀座5-5-11 塚本不動産ビルB1F 電話03-3571-0750 午後5時~11時半 日・祝休(月曜不定休) |
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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